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面倒なので忘れますわ!  作者: 南の月
マクスウェルと奉仕活動

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第34話 お掃除ですわ!

「今日の授業はお掃除です!」


そう言った時の、生徒たちの顔は前回の文字の授業よりもうんと良いものだった。

前回はただただ暗い目をして、俯いていた。

面倒くさい、早く終わらないかなといった気持ちが透けて見えた。

今回はというと、生徒たちは「は?」という顔をした。

もしかしたら授業内容が掃除だと言うシェルリンの言葉に驚いたのではなく、騎士に加え増えたメイドの数とシェルリンの格好だったのかもしれない。

この日、シェルリンは薄いグレーのロングワンピースに丈夫な麻のエプロンを着用してきていた。

他のメンバーは学生服だ。

待ち合わせ場所に来た時、「シェルリン様自身がお掃除をするおつもりで!?」とミレイアはその艶やかな髪を揺らして驚いていたくらいだ。

シェルリンはシェルリンで驚いた。

授業で掃除をすると決めたのだから、もちろん自分たちも掃除をするのだろうと思っていたからだ。

話し合いの最中に、「では各自メイドを連れてまいりましょう」なんて話もあったけれど、それは掃除の方法を指南してくれる人として呼ぶのだろうと思っていた。


今はミレイアが前に立ち、掃除の重要性を語っているところだ。

ただ掃除するだけじゃない。

一見授業には見えないかもしれないが、これこそがシェルリンたちが考えてきた授業。

掃除を通して、自分のことを見て欲しい、自分を大事にしてほしい。

そう思っている。


「みんなは、自分の部屋の掃除ですわよ! 窓を開けて、リネン類を全て取り外して。4人部屋と聞いています。二人は窓や照明、棚、ありとあらゆる場所を磨き上げて、床もチリ一つないように掃除してくださいませ。残りの二人は回収したリネンの洗濯ですわ!」


ミレイアの説明が終わると、シェルリンが連れてきたアンジーがテキパキと各家のメイドたちに仕事を割り振る。

授業時間は限られている。

今日は徹底的に孤児院の建物内を清掃する予定だ。

アンジーがシェルリンたちにも仕事を張り振る。

シェルリン以外は学生服なので、グラスやカトラリーを磨くといった軽い清掃だ。

子供たちと子供たちの補助をするメイドが部屋に行き、シェルリンたちは皆食堂へ向かう。

だが、孤児院に貴族の館ほど多くのグラスやカトラリーがあるわけでもなく、シェルリンは一人アンジーの元へ残った。


「シェルリン様、どういたしました?」

「アンジー、私はカトラリーでなくてもいいわ。ほら、汚れてもいいように準備してきたんですもの。私にできることない?」

「では、お嬢様は窓の下の方を、上の方は私がしますから」


シェルリンはここに来てから、繰り返し思い出すことがある。

記憶を失ってすぐの頃だ。

自分が何者なのかもわからない。

どうして記憶がないのかもわからない。

家族のこともわからない。

何もかもが分からな過ぎて、どう生きたらよいのかと立ちすくんだ。


ここの子供たちはシェルリンのように記憶喪失ではない。

けれど、誰々が亡くなったらしい、そういえばあいつ見ないな、くたばったんじゃないか。

悪い未来しか見えない彼らもまた、どう生きたらよいのかわからないのかもしれない。


記憶がなく、過去がないシェルリン。

希望がなく、未来がない子供たち。

どちらの方がどうなんて比べようもないが、シェルリンはこの定まらなさ、心細さは同じではないかと思っている。

はぁ。

自然とため息が漏れた。

今週はシェルリンの個人面談がある。

記憶のない自分には無理だと弱音を吐きながらも、ライの励ましを受けて学園に入学出来てまだ一、二か月。

なんとか記憶がないことを悟られずに生活できているけれど、未だ自分の将来については何も考えられなかった。

面談前にライ兄様に相談しなくちゃ。


アンジーに習いながら窓を磨く。

その間に、他のメイドたちは騎士の何人かと協力をして家具を外に出し、はたきをかけ、床を掃いた。

上階では子供たちが自分たちの部屋を掃除しているようで、家具を動かす音、パタパタと走り回る音が聞こえる。

孤児院の中に音が満ちていた。

そう言えばとシェルリンは前回孤児院に来た時のことを思い出した。

シーンとした孤児院の中で授業をする自分たちの声だけが響いていた。

それに比べて今はどうだろう。

音がある。ただそれだけなのに、まだ掃除の最中で綺麗とは言えない状態だというのに、もう何かが変わり始めている。

諦め、停滞していた孤児院の中に風が吹くのをしっかりと感じた。


授業が終わるころには、孤児院の建物の中はとりあえず綺麗になった。

授業後にサンドイッチを配れば、どの子も喜んだ。

特に幼い子たちの喜びようとはなかった。

笑顔を向けてくれる子もいる。確実に前回とは変わった。


「ご機嫌取りのつもりかよ」


サンドイッチを奪うように取りながら、そう言ったのはこの孤児院では一番年長のトーマだ。

「こんなうまい物くれたんだから」と他の子は諫めたが、「これっぽっちで懐柔されやがって恥ずかしくないんか! こいつら成績の為に優しい顔しとるだけやで!」とトーマは声を荒げた。

そして。


「お前たちも! どうせお前たちかて学園から言われんかったら来なかったんだろ。どうせ今だけなんやろ! 関係ない俺らの世界に入ってくんなや!」


トーマの叫びが綺麗になった孤児院に響きわたった。


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