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面倒なので忘れますわ!  作者: 南の月
マクスウェルと奉仕活動

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第32話 ズレるシナリオ

おかしい……。

マリーは眉を寄せた。

あの最低な孤児院はヒロインも行くはずだったし、なんならスプリングパレードではユリウスが手を差し伸べるはずだった。

確かに彼は泥だらけになったアメリアに向かったけれど、それより先に悪役令嬢が泥の中に助けに行っていたからヒロインのアメリアとユリウスの仲はそれほど進展無し。

どんどん本来のシナリオからズレている。


私もうっかり手紙なんて出しちゃって、シナリオからズレる原因作っちゃってるけど……手紙一枚でこんなにズレる?

いや……。

手紙を書いてから用心深く観察していたけれど、そもそもあの悪役令嬢、アメリアに嫉妬なんかしてなさそうだった。

講堂裏で猫を助けた時だって、悪役令嬢シェルリン・フィッツベルグらしくなかった。

あのお姫様抱っこ以降、ユリウスとの接触も最低限だった。

もしかして……シェルリンも転生者?

だとしたら、何が目的?

ヒロインの座を奪ってやろうなんて感じはしないけど……でも講堂裏に来てたし……ユリウスガチ勢? いや、あの日以降シェルリンはユリウスと距離を置いてたんだってば。

あーわからん!


「マリーさん!」


ヒロインのアメリアが駆け寄ってきた。

前世でプレイしていた時と同様、アメリアは本当に可愛い。

自動的に緩みそうになる頬を引き締めて、返事をする。

Bクラスのマリーとアメリアは本来接点などない。

けれどどうしても見たかったユリウスとの出会いを講堂裏に見に行って、アメリアとシェルリンに見つかったのが初対面。

そして今回、出張授業で同じグループになった時、アメリアは講堂裏のことを覚えていてくれたようで、こうして話しかけてくれるようになった。


「今日は出張授業初日ですね! 頑張りましょう!」


アメリアが小さく拳を握って言った。

うわー、顔小さいー! なにそのポーズ!

可愛いすぎるでしょ〜とマリーは胸中で叫んだが、アメリアの目の前のマリーは胸の中の絶叫を隠して、無難に「頑張りましょうね」と返した。

心の中のマリーが思考も感情もうるさく飛ばしているので、外面マリーはそれを抑え込むだけで精一杯になり、簡単な言葉しか返せない。

今だって胸中では「死んだ、今の笑顔破壊力やばかった」などとうるさく喋り続けているから、外面マリーはとりあえず微笑んで、アメリアの出方を待った。


「はぁ」


アメリアが小さくため息をつく。

そんな小さな仕草で、うるさく飛ばしていた思考と感情がゆっくりと落ちてくる。

よく冷静になって見れば今日のアメリアは随分浮かない顔をしている。

心配事だろうか。

イジメはかなり改善しているから、心配事は噂の方か。

最近アメリアには、また新たな噂がでた。

アメリアはユリウスだけでなく先輩にも手を出しているというのがその噂の内容だ。

先輩……というとやっぱり騎士団長息子のブルーノか、とマリーは脳をフル回転しながら考えた。

彼は確かにこの孤児院のシナリオにも出ているから、十分有り得る。

けれど腑に落ちないのは、今回アメリアは東の孤児院の担当ではないことだ。

どうブルーノと関わりが出たというのか。

他に先輩と言えば、サブキャラは一旦脇に置いておくとすると、ライだって先輩に当たる。

アメリアはスプリングパレードからシェルリンとの距離も近いけれど、ライとシェルリンの仲は良くないはず。

とすれば、ここでいう先輩はやっぱりライではなく、ブルーノだろう。


あぁ、ということはもうブルーノとは出会っちゃったんだ……。

……。

見たかった。

もう、シナリオからズレるから!

シナリオ通りじゃないとアメリアの動向追えないじゃない〜。


マリーは胸の中で地団駄踏んだ。


「おはよう。二人とも早いね」


次に話しかけてきたのは、ユリウス。

このグループは、ユリウスも一緒。

本当にこのグループは、なんという当たりだろうかとマリーはいつも思っている。

目の前でヒロインのアメリアと肩書きにおいてもキャラにおいても正統派王子様のユリウスが挨拶を交わす。

自然とありがとうと手を合わせたくなるのをマリーは必死に穏やかな笑みの中に押し込んだ。


マリーがユリウス登場に浮き足立つ胸中をなだめていると、隣でアメリアが意を決してとでもいうように、まっすぐにユリウスを見た。


「ユリウス殿下」


アメリアが呼びかける。

硬い呼び名にやはり二人の親密度は上がっていないようだとマリーは思う。


「殿下は東の孤児院についてどれほどご存知ですか?」


今回東の孤児院行くことはないアメリアが東の孤児院の話題を出したことにマリーは驚いた。


「東の孤児院、シェルリンの担当する孤児院か」


ユリウスが答える。

ユリウスがシェルリンの担当孤児院を把握していることに内心驚きながら二人の会話を聞くと、ユリウスは東の孤児院周辺の治安の悪さまで知らなかったようで、アメリアの話を聞いてユリウスは顔を青ざめさせた。


「騎士の派遣を! いや、私利私欲で勝手に動かすわけには……。ならば、私が行けば? そうすれば護衛の名目も立つ」


そうブツブツと呟いてユリウスは教師に直談判に行ったが、出張授業当日ということもあり、結局却下されたようだった。

マリーたちの出発の時間になり、孤児院に向かう。

馬車の中ではまだ心配そうだった二人も、孤児院につけばその心配を隠して、精一杯授業をしている。

マリーはというと、シナリオからズレてきてはいるものの、悪役令嬢がここでピンチになることはないという思いがあるので、二人のように心配せずに済んだ。


無事初回の授業を終え、モンクレージュ学園に戻る。

大勢の騎士を連れてシェルリンたちのグループも帰ってきた。

無事なシェルリンの姿を見て、アメリアとユリウスが長い息を吐く。

マリーもその様子を見て、思う。

シナリオがズレてきたから、ここではなにも起きないのかも、と。


だがその日を境に、悪役令嬢シェルリン・フィッツベルグに新たな噂が流れることになった。

騎士を一人も連れていなかったことから噂に発展したらしい。

曰く、シェルリンは家で冷遇されている。


ゲームでは、悪役令嬢の背景が語られることはほとんどなかった。

最後の最後、「私には誰もいないのね」との台詞の後ろで、まだ学園に入る前の少し幼いシェルリンが広い屋敷に一人っきりで暮らしている映像が出るのみ。そこでようやく、プレイヤーは彼女が幼馴染に執着してた理由を知るのだ。

そこに至るまでの彼女は完璧だった。

今はゲームで言えば、まだ序盤。

ここで悪役令嬢シェルリン・フィッツベルグのことがバレるわけなんてない。

そのはずなのに、どうして……。

変わり始めたシナリオがどこへ向かうのかわからなくて、マリーは少し怖くなった。

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