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面倒なので忘れますわ!  作者: 南の月
マクスウェルと奉仕活動

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第31話 東の孤児院に行きますわ!

モンクレージュ学園の校門には、今馬車と共にずらりと騎士が並んでいる。

どうしてこんなに多くの騎士が……とシェルリン含め他のメンバーも驚いていると、ナターシャが眉を下げた。


「ごめんなさい。東の孤児院に行くと言ったら、父が連れて行けというもので」


東の孤児院は最悪というナターシャの言葉を思い出す。

貴族は皆ここモンクレージュ学園の卒業生。

だからこそ、保護者も出張授業の存在を知っていて、週末実家に帰る学生はこの時期、家での会話は出張授業であることも多い。

ナターシャのお父様はきっと娘が東の孤児院に行くと聞いて心配だったんだろうな。


「実は私も連れて行けと言われて、数人連れてきたのですが、この数はすごいですね。小領地の騎士団くらいありそうだ」


Bクラスの子がそう言うと、他のメンバーも「実は私も」と声を上げ始めた。

つまり、ナターシャが連れてきた騎士だけでなく、メンバー各々の騎士も合わさりこの大所帯になったということだ。


私の家族は……と考え始めて慌ててその考えを打ち消した。

そもそもシェルリンが実家に帰っていないのだから、家族と出張授業について話せないのは当たり前。

いや……帰っていないのはシェルリンだけではないか。

父バルデロイも母ケイシーヌも滅多に家には帰ってこない。

記憶を失ってから初めて両親と会ったのは、冬の社交が始まる時。

社交の時期は家にいたが、パーティーで出かけることも多く、話はほとんどしていない。

そして社交の時期が終わり、二人が家から出て行って以来、シェルリンはあの二人に会っていない。

ほとんど会ったことも、話したこともない両親とどう接したらいいのか、シェルリンは未だわからないでいる。


シェルリンから手紙を書くべきだろうか。


そう思えど、悩みすぎて手紙は出せず、あちらから手紙が届くこともなく、交流がほとんどないまま今日に至る。

だから当然二人はシェルリンが東の孤児院に行くことを知らないし、シェルリンが連れてきた騎士もいない。


そっと髪飾りに手を当てる。

先日兄のライがお守りにくれたものだ。

皆のように騎士を連れてくることはできなかったが、自分にも心配してくれる人がいるのだと思えて嬉しくなる。

騎士と違って髪飾りがあるからといって、危険を回避することはできないけれど、こういうのは気持ちが嬉しいのだ。

そういえばライはどうしてシェルリンが東の孤児院に行くことを知ったのだろう。


たくさんの騎士を連れて馬車は進む。

道はどんどん細くなり、空はどんどん狭くなり、昼間なのにどことなく暗い。

今にも倒れそうな家の上にさらに家を重ね、隙間という隙間に家を押し込む。

そんな家が続いていく。


あの家は、どうやったら入口に辿り着くのだろう。

壊れないのだろうか。

火事の時は危ないだろうな。


そんなことを考えている間に、孤児院についた。

黒っぽい壁のこぢんまりとした孤児院は、昔は教会だったようで来る途中に見た壊れそうな家々よりはしっかりした作りに見えた。

草が好き勝手に生えていたり、朽ちた服やゴミが落ちたりしているが広い前庭もある。


一歩、中へ踏み込む。

キイン!

シェルリンの近くの騎士が動いた。

それを見て、どうやら何か飛ばされたようだと遅れて理解する。

まるでシェルリンたちの来訪を拒んでいるような、そんな気がした。


「孤児院からではないな」


近くの騎士が右手の方を睨みながら呟いた。

メンバーの顔を見回す。

不安そうな顔、緊張している顔、あからさまに帰りたそうにしている顔。

気持ちはわかる。

シェルリンも出来ることなら回れ右をして帰りたい。そう思った。


けれどいつかはやらなくてはならないし、他のメンバーが頑張っているのに一人だけ帰りたいなんて弱音を吐くことはできない。

髪飾りに手をかけ、呼吸を整える。

騎士たちに囲まれながら前庭を進み、建物の入口に辿り着く。

中に招き入れられると、騎士たちはぐるりと部屋に広がった。

今日会ったばかりの寄せ集めの騎士団だというのに、なんと連携が取れていることか。


「こんにちは。今日から出張授業を担当しますシェルリンと申しますわ」


シンと静まり返った部屋でシェルリンが口火を切った。

それに続いてマクスウェル、そして他のメンバーが自己紹介をする。

全員の自己紹介が終わってもなお、部屋は静かなまま。

子供たちは暗く、どこか諦めたような目でこちらを見ていた。


事前に打ち合わせていた通り、文字を教え始めるが、ペンを持ったこともないのか、彼らの文字はガタガタで、とても文字には見えない。

それどころかペンもぎゅっと握り締めるように持っているか、逆に全く手を伸ばそうともしない。

とりあえず線を書かせようとするのだが、一人一人促せばやるものの、彼らは全く自分から学ぼうという気がなかった。

誰とは無しにメンバーが互いに目でコンタクトを取る。

言葉にしなくても言いたいことはわかる。


これ、どうする?


そういう視線だ。


教えながら、手の空いてるメンバーを集めて部屋の隅で話し合う。

文字が読めた時のメリットがわからないのかもという意見を聞いて、それとなく子供たちに伝えることにした。


「今はわからないかもしれないけどね、文字が読めるだけで世界はぐんと広くなるのよ」


ナターシャが語りかける。

ナターシャの具体例をあげながらの説明は、シェルリンにはもっともな説明で、うんうんと頷きながら子供たちの様子を見渡した。

そう、文字が読めるだけで世界はグッと広がる。

本を読んで自分で学ぶことも、遠くの人と手紙のやり取りもできる。

読めないことをいいことに自分に不利な契約を結ばされるリスクも減る。

それに何より彼らにとって魅力的なのは、文字が読めるだけで将来得られる仕事の幅が増えることだろう。


これで少しはやる気が出てくれればと思ったのに、子供たちの顔に光が差すことはなく、返事もなく、誰も彼もが嫌々言われた文字を書いた。


「これは君たちのための授業だ。一生懸命やらたくないならやらなくても良い。だが大人になった時困るぞ」


マクスウェルが言う。

静かな部屋にマクスウェルの声はよく響いた。

少しして誰かの声も響く。


「大人になんかならないのに」


その小さな呟きが誰から出た言葉なのかはわからない。

でも、その言葉にシェルリンは彼らのために考えた授業内容は何か根本から間違っていたのではないかと思い始めていた。

暗い顔、何もかも諦めきった子供たち。

彼らに必要なのは本当に、将来仕事に困らないための技能なんだろうか……。



『面倒なので忘れますわ!』の今年の投稿はこれで最後です。

週に一度の更新にも関わらず、読みに来ていただきありがとうございました。

来年もこのお話は週に一度のペースで続いていく予定です。

また来年も読みにきていただけると嬉しいです。

寒い日が続いていますが、お身体に気をつけて良いお正月を。

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