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面倒なので忘れますわ!  作者: 南の月
マクスウェルと奉仕活動

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30/35

第30話 出張授業ですわ!

スプリングパレードが終われば、もう立派なモンクレージュ学園の学生としてみなされる。

つまり、これから学園生活はもっともっと忙しくなる……らしい。


その言葉通り、スプリングパレード明けに早速個人面談が始まり、出張授業のグループ分けが貼り出された。

シェルリンの番はまだだが、面談では主にスプリングパレード前の一カ月の成績、第二学年時に選ぶコースの選択、そして将来について話をする。

出張授業は社会奉仕活動の一環だ。

一年生の担当は孤児院。

貴族はモンクレージュ学園で高い教育を受ける。

比較的裕福な平民たちもモンクレージュ学園とは別の教育機関に通う。

そうでない平民は、親が子供に教える。

それは教育機関で教えるものとは違うが、刺繍屋は刺繍の仕方を、靴屋は靴の作り方を……というように大人になった時に子が仕事につけるよう小さな時から教え込む。


だが、親のいない孤児たちは違う。

教育機関に通うお金はなく、仕事の仕方を教えてくれる親もいない。

そういう子供たちは孤児院を出る年齢になるとどう生きていけば良いのか途端にわからなくなってしまう。

出張授業はそういう子を少しでも減らすため、また貴族である自分たちが貴族以外の世界を知るために設けられている。


「もうすぐ出張授業が始まります。今日のホームルームはこれで終わるので、グループ毎に集まってどんな授業をするべきか話し合いをして下さい」


担任のシェーベルはそう言って、グループ毎の待ち合わせ場所を伝えた。

出張授業は他クラスと合同で行う。

シェルリンのグループは、Aクラスからシェルリンとマクスウェル。

Bクラスから男子学生が二人、女子学生が一人。

Cクラスから男女一人ずつの合計七人のグループだった。

シェルリンは待ち合わせ場所に向かい、簡単に自己紹介をして早速本題に入った。


「出張授業何をしましょうか」

「ありきたりですが、やはり文字と計算を教えるのが彼らにとって役立つのではないでしょうか」


提案してくれたのは、同じクラスのマクスウェルだ。

文字と簡単な計算は、毎年この出張授業で教えられる定番授業。

シェルリンもそれがいいと思っていたので、うんうんと頷く。


「それも良いですが、手に職があった方が仕事は見つかりやすいのではないでしょうか。ですから将来仕事にできる技術を教えるのはどうでしょう」

「簡単な法律や制度、お金についての授業はどうですか? 手を差し伸べる制度があっても、その存在を知らなければ使うことができません」


色々な意見が出た。

シェルリンが思いもつかなかった案もあった。

それでも結局決まったのは、最初にマクスウェルが提案した文字だった。

手に職と言っても本人たちの適性もある。

幅広く教えることができなければ、その子にピッタリの授業にはならないだろう。

法律や制度は変わることもある。

その点、文字は変わることがないし、文字が読めれば世の中の変化にも気づくのでは? ということで文字を教えることに決まった。

授業は全部で八回。

文字から教え、余力がある子には簡単な計算を教えることになった。


「でも東の孤児院なんて、ついてないですね」


Cクラスから来たナターシャが解散前にポツリとこぼした。

意味がわからず尋ねると、ナターシャは不安そうに言った。


「東の孤児院は最悪って聞きましたわ。もう手がつけられないとか」

「まぁ、そうなんですの? ですが、どんなにやんちゃで手がつけられなくても、私たちは根気強く教えるだけですわ。頑張りましょうね」

「そう、ですわね」


不安そうなナターシャを勇気付けるように言ったが、ナターシャの顔は晴れなかった。


その夜。

いつものようにシェルリンの部屋にアメリアがやってきた。

一緒に復習をするためだ。


「え! シェルリンさん東の孤児院なんですか!? わわっ!」

「東の孤児院ってそんなに驚くほど最悪なの?」


昼間のナターシャの言葉を思い出して、アメリアに問う。

アメリアは驚いた拍子に落としてしまった本を拾いながら答えた。


「東の孤児院に行ったことはないんですが、あの辺は治安がものすごく悪くて……」


アメリアは拾った本を再び頭に載せながら困った顔をした。

その後もなんで出張授業のリストに入っているのかと、シェルリンさんに何かあったらどうするのかとひとしきり文句を言って帰って行った。


治安が悪い……かぁ。

シェルリンは記憶をなくして初めて目覚めた時のことを思い出した。

綺麗な部屋、お世話をしてくれる侍女たち、泡いっぱいのお風呂に、美味しいご飯。

最初はお世話されるのも慣れなくて、ビクビクしてたっけ。

もしも目覚めたのが孤児院だったなら、どうだったんだろうか。

フィッツベルグ家の娘が孤児院で目覚める事などないのに、シェルリンはつらつらとそんなことを考えていた。


「シェルリン、ここいいかな?」


アメリアと一緒に昼食を食べているとカールがやってきた。

最近よく声をかけられる。

おそらくいじめられていたアメリアを気遣ってのことだろう。

私やカール、ユリウスが普通に接するようになってアメリアへのあからさまないじめは無くなっていった。

こんな事ならもっと早くそうすれば良かったとシェルリンは少し後悔した。

だが悪評は無くならない。

曰く、男好きのアメリアはユリウスだけにとどまらず、先輩にまで手を伸ばしているとか。

先輩なんて、接点ないはずなので、根も葉もない噂なのだろうけど。

向かいに座るアメリアをチラリと見た。

アメリアはシェルリンの視線に気づいてニコリと笑う。

カールが一緒でも構わないという事だろう。

どうぞ、と席をすすめて三人で食べ始めた。


「そうだ! 今度うちでパーティーするんだよね」


アメリアの横に座ったカールが切り出す。

何のパーティーだろうかと思いつつ、カールが先を話すのを待つ。

話を聞けばどうやらカールの誕生日パーティーのようだった。


よかった。変に口を挟まなくて。

シェルリンはほっと胸を撫で下ろした。

きっと幼馴染なら毎年祝っているはずで、知らないはずがないからだ。

よかった、「なんのパーティーなの?」と聞けば、記憶がないとバレるところだった。

沈黙は偉大だ。


「アメリアも来てよ。もちろん、シェルリンも一緒に」


カールが招待状を手渡す。

なるべくカールと接点を持ちたくないシェルリンは、内心行きたくないと思いつつも、幼馴染として行かないのはおかしいだろうと「ありがとう、もちろん行くわ」と返事をした。

カールの顔がパッと明るくなる。


「本当に? 嬉しいな。二人とも絶対来てね!」


喜び一色のカールの言葉にシェルリンはピンときた。

まぁ、カールもアメリアが好きなのね。

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