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面倒なので忘れますわ!  作者: 南の月
ユリウス殿下とスプリングパレード

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第28話 苦悩のエッグハント

スプリングパレードの後、集められた講堂で生徒会長が言う。


「パレードが終わったらー、恒例の宝探しだ! 宝はこれらのカラフルな卵。隠されている場所はこの学園全体だ。一人でいくつもとってもいいが、このピンクの卵だけは二、三年生はとらないように。まだ魔術をあまり習っていない一年生でも発見できる場所にあるから一年生用だ。魔術の得意な一年生はどんどんピンク以外の卵もとってもいいぞ。卵の中にはランダムで宝が入っている。さぁ、スタートだ!」


講堂から生徒たちがぞろぞろと出て行く。

ユリウスはシェルリンに声をかけようと思ったが、生徒会長の言葉が終わるや否やカリーナとアメリアと一緒にどこかに行ってしまった。

仕方がないので、ユリウスは講堂の周りを探すことにした。

そういえばここは、アメリアがシェルリンに服従のお辞儀をしていたところだ。

あの勘違いがなければ、今頃シェルリンともっと仲良くなれていたのだろうか。

そんなことを考えながら卵を探す。


卵を探しながら思い出すのは、スプリングパレードの時のシェルリンのことばかり。

アメリアが泥の中で呆然としているのを見て、ユリウスは「どうした!」と声を上げた。

けれど、ユリウスがしたことはそれだけだった。

ユリウス含め誰もが何もせず見つめていた。

元平民ということで、心配よりも嘲笑が多かった。

そんな中、シェルリンだけが動いた。泥だらけの中に臆せず歩いていく。

そういえば、アメリアも盗まれた白衣を取りに花壇の中にずかずかと入っていったことがあった。

同じシチュエーションだというのに、シェルリンとアメリアは何かが違った。

泥の中でも凛として少しも汚れないシェルリンは、泥に足をとられているだろうに姿勢も良かった。

見入るように見つめていたが、自分は……と気がついてユリウスも台車から降りた。

まだ飛行魔術の使えないユリウスは、シェルリンのように優雅に飛び降りることはできない。

けれど、この位の高さなら問題ないと覚悟を決めて、飛び降りた。

何とか無事に着地して、シェルリンたちを迎えに行く。


――ほら、貴族はどんな泥沼の中だろうと姿勢を正してしゃんとしていなければなりませんわ


その時、ちょうどアメリアを立たせようと声をかけたシェルリンの言葉が耳に届いた。

胸に刺さった。

それは、ずいぶん昔。ユリウスとシェルリンがまだ一緒に遊んでいた頃、シェルリンが言った貴族とは何かを問われた時の感覚に似ていた。

あの時ユリウスは悩みに悩んで、こんな結論を出した。

貴族はその血ゆえに貴い身分が保証される。けれど、同時に尊い義務がある、と。

義務を果たせない子供は、大人になった時にその義務を果たせるよう、子供の内は力をつける時期だと。

けれど、シェルリンの言葉にもやもやとした何かが胸に溜まる。

マナーをきちんとするのは当たり前。それは、大人になった時に恥をかかない為。でも、彼女の言葉は何か違うような。

まだ大人になっていない自分たちも何か貴族として責を負っていなければならないような……そんな気になる。

それが何なのかわからないまま、もやもやとした気持ちを抱えて卵を探す。


「ユリウスー。卵、見つけた?」


声をかけてきたのは、カールだった。ユリウスはまだ卵を見つけていなかったが、カールはどうやら既にピンクの卵をとったようだ。


「一緒に探すよ」


草の中に落ちているかもしれないと下を見ながら、カールと歩く。

二人で歩いていると、茂みの中にピンクの卵を見つけた。なんだ、結構簡単だったなと思っていると、カールが「一年生用だからだよ」という。

カールは自分のピンクの卵を見つける前に、在校生用の卵を見たらしい。


「木のてっぺんにあったから、飛行魔術がないと無理だね」


ユリウスもカールも飛行魔術はまだ使えない。

そもそも一年生の内は、魔力の扱いに重点を置かれていて、魔力感知、魔力操作、そして火、水、風、地という魔法陣不要の基礎魔術を学ぶのみであるし、王族であり、優秀な家庭教師がついていたユリウスは一年時に学ぶことは既に学び終えている。

だからこそ学園生活は交流を深める期間、学問においては余裕だと思っていた。

だが、あの男……。

シェルリンを抱きかかえて泥の中から助け出したシルクハットの男を思い出す。

今のユリウスの魔術はあのシルクハットの男の足元にも及ばなかった。

それは彼の方が上級生だから当たり前のことなのだが、本当にそうなのかと疑問が浮かぶ。

彼が二年生なのか三年生なのかはわからない。けれど、これから一、二年のうちに彼と同じような魔術ができるようになるイメージがユリウスには湧かなかった。

それに、彼に笑いかけるシェルリンを思い出す。あんな風に笑うところを見たことがなかった。

躊躇いなく、男の手を取ったシェルリン。

何もかもがあの男に負けている気がしてむしゃくしゃする。


――ありがとうございます。今度飛行魔術を教えてくださいね


笑顔であの男にそう言っていた。

ユリウスに話しかける時とは全然違う彼女の様子を見て、何故か頭を殴られたようだった。


「飛行魔術と言えば、シェルリンを抱きかかえた先輩、魔術うまかったよね」

「そうだな」

「シェルリンもなんか心許しているって感じしなかった?」


思考を読まれたかのようなカールの話に、咄嗟に返事が出来なくなる。

やっぱりあのシェルリンの様子、普段と違ったということか。

どうして。あの男とシェルリンは何か関係があるのだろうか。


「あのさ、聞きにくいんだけど……ユリウスってシェルリンのこと、どうしたいの?」

「どうって?」

「なんか入学式の後から変じゃない? そっけなくしていたと思ったら、スプリングパレード中はずっと見つめちゃって。シェルリンを婚約者にって思っているとか?」


直球すぎるカールの物言いに、つい「まだわからない」と答えた。


「そう、よかった。僕は次男だからさ。フィッツベルグ家に入れたら一番良いなって思っていたんだよね。ほら、公爵家同士だし。価値観とかさ、生活レベルも同じくらいの方がいいでしょ。シェルリン、噂が噂だったから様子見ていたんだけど、今日の感じだと昔と変わっていない感じもするし」


カールの言葉が遅れて耳に届く。なんだって。

カールがシェルリンを婚約者に?

再び頭を殴られたようで、うまく頭が働かない。


「フィッツベルグ家も王家に言われちゃ、シェルリンの代わりの養子をとるかもしれないなって思っていたんだけど。可能性が低いなら僕が名乗り出てもいいよね。ユリウス以外だったら、僕、負ける気がしないからさ。あ、シェルリンたちだ」


カールがシェルリンたちに近づいていく。

シェルリンは、柔らかそうな緑色のドレスに着替えていた。

いや、違うと隣のアメリアを見て思う。

アメリアは、ピンク色のドレスの上からシェルリンがさっきまで纏っていた花束のような絵が描かれた白い布を巻いている。

泥だらけになったアメリアの衣装を隠すかのように。

シェルリンとアメリアとカリーナがカールと楽しそうに話している。


「シェルリン凄いね。それ、木の上にあった卵じゃないか。飛んで取ってきたの?」


驚いたカールの声が聞こえる。

そうだ。彼女は飛行魔術を使えるんだった。

何が、この学園生活は交流を深める時期だ。

自分よりすごい人はたくさんいるのに、何を偉そうに思っていたんだろう。

カールがシェルリンを婚約者にしたいと思っている事には驚いた。正直嫌だと思っている。

今も頭の片隅で、どうしたらカールとシェルリンの婚約を回避できるのか考え続けている。

カールに負けないようユリウスもシェルリンにアピールすべきだとか、カールよりも先にフィッツベルグ家に話を通すべきだとか、考えられることはあるにはある。

カールも言った通り、ユリウスは王族だから無理を言えばシェルリンと婚約できる可能性は高いだろう。

けれど……貴族って何だろうと考える幼い頃のシェルリンの顔がチラつく。

自分は……自分は彼女の隣に相応しいのだろうか?

仮面の男に笑いかけるシェルリンの顔を思い出す。

自分は、彼女にああやって笑いかけられる存在になれるのだろうか。

そう考えると、ダメだった。

カールに話しかけられているシェルリンの横に立つアメリアと目があった。

一歩そちらに踏み出せば、自分もシェルリンたちとの話に加われるだろう。

分かっていたけれど、結局ユリウスは心配そうなアメリアの視線を振り切って、その場から立ち去った。



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