第23話 恋ですわ!
月曜日ライと一緒に登校して、またいつもの一日が始まる。
学園内ではアメリアとは話さない。
シェルリンは、以前届いた手紙を気にして話しかけないようにしている。シェルリンが悪く言われるくらいならいいが、あの手紙によるとアメリアへのあたりもきつくなるだろうということだった。
それは避けたい。
それに、アメリア自身も周囲に人がいる時はシェルリンのことを避けているようだった。
なんでだろう。
学校が終わり、皆が夕食に着いた頃、アメリアがこっそりシェルリンの部屋にやってくる。
マナー教室の時間だ。
週末は両日ともにアメリアと過ごしていたからか、学園内で話していないだけなのに随分久しぶりな感じがする。
「やっとお会いできました」
アメリアが言った。
その言葉を聞いてもしかしてアメリアはシェルリンのことを避けているわけじゃなかったのかもしれないと思い至る。
シェルリンは元平民のアメリアと仲が良いことを恥ずかしいと思っているわけじゃない。
けれど、そうアメリアが誤解しているかもしれない。
そう考えると、不安になった。
「あ、ごめんなさい。私、アメリアに話さないといけないことがあるわ。私が学園でアメリアに話しかけないのはこんな手紙が届いたからなの」
デスクの引き出しにしまっておいた手紙を手渡す。
簡潔に書かれた手紙を読んで、アメリアは驚いたようで目を見開いていた。
「アメリアは今でもバッグを投げ捨てられたりしているのに、これ以上私のせいでひどくなったら嫌だわ」
「私も私へのいじめをシェルリンさんのせいにされるの嫌です!」
間髪入れずにアメリアが言った。
アメリアはアメリアで、シェルリンの周りにはたくさんの人がいつも集まっているので、気後れして話しかけられなかったそうだ。
結局二人で話しあい、アメリアへのいじめが増えても嫌だし、それをシェルリンのせいにされても嫌だしということで、これまで通りユリウスとは距離をとり、アメリアとはコソコソと会うことになった。
今日は姿勢。本を頭にのせながら、アメリアとスプリングパレードの準備をする。
「ど、どうですか! なかなか上手にできました。わわっ」
話しかける際にバランスを崩して、頭にのせていた本が落ちる。本を拾い、アメリアの頭にのせて、アメリアが見せてくれた花を見ると、アメリアは手先が器用なようで、レイメメの店で買った端布を器用に花に仕上げていた。
「上手ね。素敵!」
「近くで見ると雑なのがバレますけど、遠目からなら問題ないはずです! シェルリンさんの絵も素敵です。完成するのが楽しみですねっ!」
なるべく頭を動かさないようにしながら、アメリアがシェルリンの描いている絵を覗き込む。
シェルリンはスプリングパレードの衣装に使う絵のデザイン案を考えていた。
夕食のラッシュが終わり、みんなが部屋へと戻った頃、今日もアメリアがそっと部屋へ帰る。
シェルリンもアメリアもみんなが食べにくるより先に夕食と宿題は済ませているので、あとは入浴して寝るだけだ。
入浴の後、シェルリンは本棚に向かう。
眠る前に、記憶を失う前のシェルリンが書いたノートを見て今日も自分の勉強をする。そして、以前に読んだノートを読み直して、次にアメリアに教えるのはどんなことが良いだろうかと考える。
そうしてすっかり夜が更けた頃、シェルリンは眠りについた。
ある日の放課後、いつもと同じように取り巻きたちと一緒に寮へと帰っていた。
「あ」
左端にいた子が声を上げた。その声につられて、みんながその子の方を向き、みんながその子の見ている方向を見た。
その子の視線の先には、遠いけれど二人の人物がいた。
一人はアメリア、そしてもう一人はユリウスだ。
二人の様子を見て、シェルリンはキュッと胸が苦しくなった。
シェルリンはユリウスのことが好きではない。だからアメリアのことを恋のライバルなんて思っていなかった。
アメリアだって、ユリウスのことを好きとは思っていないだろうと勝手に思っていた節もある。
でも今の二人はなんというか……とても幸せそうだ。
アメリアもユリウスも、目を輝かせて話をしている。
魔術の授業の時も楽しく談笑していたが、あの時とは違う。心の底から話していて楽しいという雰囲気だ。
あぁ、思い違いをしていましたわ。アメリアはユリウスのこと好きだったのね。
あんな手紙、見せなければよかったわ。
アメリアも噂が落ち着くまで、ユリウスとは距離をとるようにすると言っていた。
だからきっと今は、ユリウスから話しかけられたのだろう。
あぁ、ユリウスもアメリアも嬉しそう。
私とユリウスの噂さえなければ、もう少しアメリアへの風当たりも少なかったかもしれない。
ただの友人として交友を深められたかもしれないのに、私とユリウスが噂になってしまったがためにアメリアは魔性の女なんて言われている。
私、本当に二人の邪魔ね。
身分的なことを考えれば、ユリウスの相手にアメリアは足りない。
けれど、今この時だけならいいじゃない。
それに身分はどうしようもなくても、アメリアが優秀であればユリウスの傍で仕えるという選択肢も出てくる。アメリアがそうしたいかどうかはわからない。それはアメリアが決めること。
シェルリンができるのは、アメリアがそうしたいと考える時に、そうできる実力をつける手伝いをすることだ。
邪魔をしてしまったお詫びとしても、よし頑張るぞと心の中で拳をぐっと握った時、心配そうにシェルリンを見ている取り巻きたちが目に入った。
「シェルリンさん……」
「さぁ、行きましょう。私、まだスプリングパレードの衣装を準備できていませんの。早く仕上げてしまわないと」
「よろしいのですか。放っておいても」
「何度も言っていますわ。私とユリウス殿下の間に噂になっているようなことはありませんもの」
その日の夜、いつものようにアメリアがやってきた。
本を頭に載せ、手元で縫物をしている。
鼻歌を歌いながら、機嫌のいいアメリアが話を切り出した。
「スプリングパレード、ユリウス殿下はどんな衣装になさるんでしょうね」
やっぱりとシェルリンは心の中で思う。
やっぱりアメリアはユリウスが好きなんだわ。
レイメメが言っていた。相手の色に合わせた衣装もトレンドだと。
ユリウスの色をまとうなら、瞳に合わせて青を着るか、髪に合わせて金にするか。
残念ながらアメリアが作っているドレスは青でも金でもない。
確かに、青や金といったあからさまな色を噂になっているアメリアが纏うことは難しい。
となると、おそろいの色を纏いたいのではないだろうか。
テーマが春の精なので、ユリウスもピンクを選ぶ可能性は確かにある。
あぁ、取り巻きたちはなんて言っていたかしら。
「確か白系だと聞いたわ」
そう、そうだ。白だった! よかった、アメリアの服も白が含まれている。
きっと二人が隣に立った時、似合うだろう。当日は少しだけでも、ユリウスの隣に立たしてあげることが出来たらいいな。
「白ですかっ! それは良いですね!」
アメリアも満足そうに笑った。よかったね、アメリア。




