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短編小説

初デートで行く店

作者: 歌池 聡


※しいなここみ様主催『麺類短編料理企画』参加の一品です。



 ついに、ついにこの日が来た!

 苦節18年、『年齢=彼女いない歴』だった俺にもやっと彼女が出来て、今日は記念すべき初デートなのだ!






 思えば、俺は昔から脇役ポジションだった。

 ある女の子と仲良くなってきたと思っていたら、決まってその子から他の男との恋愛相談を持ちかけられるのだ。まあ、それだけ信用されたってことなんだろうけど。

 顔で笑って心で泣いて──それでも意中の相手との橋渡しをしたり、悪いウワサがないか探りを入れたりして手伝うようにしていた。


 俺のサポートでつき合うようになった恋人は少なくない。

 高校時代には、『アシスト王』なんて呼ばれたりもした──嬉しくないけど。


 大学に入っても相変わらずで、やっぱり俺の役回りは『脇役』のままだった。 






 そんなある日、高校時代のクラスメイト日野春奈から連絡があった。

 ちなみにこの日野も、俺のアシストで俺の親友とくっついている。


『梶、あれからどう? 彼女出来た?』

「いないよ。俺がモテないの、知ってるだろ?」

『あ、なら私の友だちに会ってみない? 梶に紹介したいんだけど』

「え? マジ?」


 日野と同じ大学だというその子は、中高一貫の女子校出身で、男に免疫が皆無だという。


『その子、大学で色んな男に声かけられててさ、変な男に引っかかっちゃったらマズいなって思ってたんだよね。

 そこで思いついたんだ。梶ならこの子を大事にしてくれるんじゃないかって』

「──そこで何で俺が?」

『梶って誠実でいいヤツじゃん。恋愛対象にはなりにくいかも知れないけど、実は結婚相手としてはかなり高評価だと思うよ。もちろん、私も梶のことは信頼してるし。

 その子、いい子だし可愛いよ~。一度会ってみてよ、セッティングはするからさ』






 そして、日野の紹介で出会ったのが辻本咲ちゃんだ。正直、女の子が言う『可愛い子』というのはあまり信じてなかったんだけど、とんでもない。

 今どき珍しい黒髪ロングのストレート。小柄なので年齢より幼く見えるけど、会話をしてみたら頭の回転の良さも感じられる。それに何より、めちゃめちゃ可愛くて清楚!

 初対面の時から、俺の方はもうメロメロだった。


 まず連絡先を交換して色々やり取りをしたり、大学の近くで一緒にご飯を食べたりして──そして一週間目くらいに俺の方から告白して、即OKをもらったのだ!






 初デートに備えて、準備は万端。食事はグルメサイトで調べて、いくつかの店を候補に挙げた。

 あまり高すぎるのもダメと日野に言われたので、そこそこの値段で見栄えのいいランチを厳選しておいた。


 ところが、待ち合わせにやってきた咲ちゃんは、開口一番こんなことを言ってきたのだ。


「ねえ、近くに新しいお店を見つけたんだけど、お昼はそこでいい?」


 そして、咲ちゃんに腕を引っ張られてきたのは──いわゆる『家系ラーメン』の店だ。


「え、ここ?」

「梶君、ラーメン嫌い?」

「いや、好きだけど……」


 これはどういうことなんだろう。とまどう俺を尻目に、咲ちゃんはさっさと店内に入って券売機の前に立った。


「私は醤油豚骨の味玉ラーメンかな。梶君は?」

「あ、じゃあそれで」


 会計は出させてもらったけど、想定した予算の半分もかかってない。いいのかこれ?


「麺は固め、味は濃い目、油は普通で。梶君は?」

「えーと、俺は全部普通で」

「あ、紙エプロンってあります?」


 店員さんへの指示も実に手慣れてる。この手の店に、よく来るのかな?


 咲ちゃんが楽しそうに店内の張り紙を見回しているうちに、ラーメンが到着した。


「いただきまーす!」


 手を合わせて、まずはスープを一口。味を確かめるように頷いた咲ちゃんは──何と、テーブルに置いてあるおろしニンニクやニンニクチップを豪快にトッピングし始めたのだ!


 え? これってどういうこと?

 頭が混乱して、色々な考えが頭の中をぐるぐると回り始める。


 もしかして『ニンニク臭いからキスは絶対許さないわ!』という意思表示なのか!?

 それとも、まさか『ニンニクを食べて精をつけて、今夜は楽しませてね』というお誘いだとでもいうのか!?


 あああ、経験値が低すぎて、さっぱりわからないぞ!






「──あのー、咲ちゃん。何でこの店だったの?」


 いくら考えてもわからないので、思い切って訊いてみた。


「うん、素の私を知ってもらおうかなって」

「へ?」

「私ってどうもお嬢さんっぽく見えるらしいんだけど、普通の女の子だよ。親も普通の会社員だし。

 無理して高いお店に行くより、こういうデートの方が気楽でいいな。

 お互いまだ大学生なんだから、基本は割り勘にしようよ。それなら、たくさんデートできるでしょ?」


 ナニソレ。『普通』どころか──もしかして本物の『天使』?


「──というわけで、梶君。少しお行儀悪いけど、これ頼んでもいい?」


 少し恥ずかしそうに、咲ちゃんがメニューの一点を指差す。

 そうだよな、家系ラーメンと言えばコレだよな!


 そして、俺たちは揃って声をあげたのだった──。


『すいませーん、ライス下さい!』



家系ラーメンにライスは必須です。

咲ちゃんは、気づいたらまんま芦田○菜ちゃんでした(^^;

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― 新着の感想 ―
芦田○菜ちゃん(笑) イメージピッタリ。 気取らないお付き合いで、末長くやっていけそう。 私はラーメンにはライスじゃなくて餃子です。
[一言] 拝読させていただきました。 長続きしそうな、ほっこりするカップルですねー。 幸せになってくださーい。
[一言] 家のそばに行列のできる「家系ラーメン」があるのですが、行列に並ぶの嫌いなので行ってないんですよね・・・。あっけらかんとした女の子、かわいいですよね。 それにしても経験値低いな!
2024/10/01 09:19 退会済み
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