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それからそれから。
「えーっと、つまりあの部屋呪われてるっすか?」
正真正銘本物の三角が台所でスイカを切りながら、しっとりとした肌感の円の説明を聞いて呟いた。
「というか、本当にあんた、今の今まで外出していたの? 携帯も持たずに長時間外に出る?」
「本当っすよ! 携帯忘れる事だってあるじゃないっすか! 疑うんならこのスイカ貰った人に尋ねるっすか! 逆に先輩があたしを嵌めようとしてるんじゃないっすか? パソコンも電源ぶっこぬきますしね!」
三角はここ三時間は外出していたと言う。では円をこの部屋に迎え入れて、つい先ほどまで話していた三角はなんだったのだろうか。との疑問が湧きあがってくる。
「それは緊急事態だったって、謝ったじゃない」
「謝っても済まないんす! なんすか『見たら死ぬ動画』って、自分のメールアドレスに送るメールなんてちょっと齧ればできるスパムっすよ。それを開くなんてネットリテラシーなさすぎっすよ」
「開いたのはもう一人のあんたなんだけど・・・それに流石に見知った仲でも、勝手に他人のパソコンは触らないわよ。いくら業務用メールを開くって言ってもね」
親しき中にも礼儀あり。そういったパーソナルスペースは円は案外大事にしていた。
「ぐぬぬ。じゃあまとめると、あたしの仮にドッペルゲンガーとするなら、ドッペルゲンガーが先輩を家に招いて。部屋で談笑してたところに、『見たら死ぬ動画』が届いて。先輩がそれを開くと、ドッペルゲンガーが部屋に無理やり入ってきて。『見たら死ぬ動画』を見て、死んだってことでいいっすか?・・・どゆことっすか!?!?!?!?!?」
「大丈夫よ。頭を冷やした私も混乱しているから」
「えーっと、まずドッペルゲンガーが存在していたって事っすよね」
「まぁありたいていに言えばそうなってしまうわね」
「・・・じゃあ先輩もドッペルゲンガーかもしれないってことっすか?」
「知らないわよ。ドッペルゲンガーがドッペルゲンガーだと認識しているかさえも知らないわよ。お互いに自分が本物と思っているかもしれないでしょ。もう、そう仮定しながら進めなさい・・・っぺ、何すんのよ!」
話している最中にスイカにかけるようの塩を三角は円にかけ、口に入った塩と怒りを吐き出す円。
「除霊っす」
「あんたに後で塩自体が除霊に意味はないってみっちり教えてあげるわ」
「遠慮するっす。・・・結局『見たら死ぬ動画』は、見たら動画内のあたしが死ぬ動画、と、観測者であるあたしが見たら死ぬ動画の、ダブルミーニングの動画だったって事っすよね?」
「まぁ外から入ってきたあんたが消えたなら、そういうことになるわよね」
「よく中に引き入れたっすね。普通入ってきたらヤバイって思うじゃないっすか」
「あーそれね。あれが入ってこようとすると痛くなかったからよ」
円がもう一人の三角の入室を拒否した瞬間に現れた痛み。それはもう一人の三角を拒めば拒むほど痛くなり、逆に部屋に入らせようとすれば、する程に和らいでいた。
あの部屋は黄泉の国や、それに近い幽世になっていた。もう一人の三角はあちらの世界の住人だから、部屋の外にい続けられない。だから迎え入れて帰る場所に返さなければならなかったのだろう。と円は勝手に納得のいく想像をしておいた。
「ふーん。怪奇現象と怪奇現象が自滅しあったってことっすか。ヤバイのにはヤバイので対処しておけばいいみたいな感じっすね。なんかそんなホラー映画なかったっすか?」
「あれとあれが夢の競演系なら大体そうよ」
「暴言っすよ」
「どうでもいいわよ・・・・・・何にせよ、解決はしたのよ。あとはあんたがお祓いでもなんでもすればいいのよ」
「淡白っすねぇ。まぁどうせ動画のネタにすらならないっすし、パソコンも無事でしたし、先輩がそれでいいならいいんすけどね。ほい、スイカ食べましょ!」
円はもう一人の三角が最後に言った言葉を本人へと伝えていない。それを伝えたら、良くない気がしたからだ。
『見たら死ぬ動画』掛け言葉の動画。あれは一体、誰に宛てられた動画なのか。それはあの部屋にいた唯一の生者である円でしかなかった。
『見たら死ぬ動画』は、未来から円に届いた三角からの救援動画・・・なのかもしれない。動画ももう一人の三角も消えてしまった今、事実を知っているのは円だけであり、結末を変えられるのは円だけなのだろう。
切ったスイカを食卓テーブルに並んだ皿に置く三角。円は長い髪が邪魔にならないように抑えてスイカを口に入れる。程よい甘さの果汁が口の中に広がって、お互い顔を見合わせずとも、同じ感想を呟いた。
「「ぬるっ」」
夏。ホラー。短め。書く。パート4
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もしかしたら続くのかもしれない