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 一方、ユーリを追放した数日後のグランマード家に、とある訪問者の姿があった。



「ミゲル様っ、白翼(はくよく)騎士団の使者と名乗る方が当家に到着いたしました! いかがいたしましょうか?」

「なにぃ……? 白翼騎士団だと……何も聞いてないぞ」


 使用人からの報告に、この私、ミゲル・グランマードは首をかしげる。

 白翼騎士団と言えば王都に存在するふたつの騎士団のうちのひとつだ。それがいったい何の用事なのだ……?

 くそっ、せっかくユーリのやつを追い払ってせいせいしていたところなのに、余計なことで私を煩わせおって。


 ――――いや待て、そうかわかったぞ。

 さては我が息子パオロをスカウトに来たのだな?

 【剣士の才】という優秀な加護を得て、九歳にして【剣術】スキルレベル3へ到達した天才剣士を早期に獲得しようと動いているのだろう。

 ふむ、そうとわかれば歓迎せねばならんな。


「その使者とやらを客間へ通せ。それと、パオロも客間へ来るよう呼んでこい」

「か、かしこまりました」


 パオロのやつが騎士団に入団して成果を上げれば立派な箔がつく。そうなれば我がグランマード家も安泰というものよ。

 ふふふ、いいぞいいぞ……疫病神のユーリがいなくなって、運が回ってきたようだな。順調に事が運びすぎて笑いが止まらんぞ。


「ふふふ……」



 コンコン。


 数分後、パオロとともに先んじて客間で待っていると、控えめに扉が叩かれる音がした。ふむ、ようやく到着したようだな。


「どうぞ」

「失礼します」

「ようこそいらした、さあどうぞお掛けくださ――」


 客人をもてなすために、この私自らがわざわざ席を立って応対しようとしたのだが、騎士団の使者を名乗るその人物の姿を見て、思わず言葉が途切れてしまった。


 騎士団の使者と言うからには、この私には及ばないものの、多少威厳のある者だと思っていたのだが、その姿はどう見ても子供の範疇。パオロと同じ年頃の娘だったのだ。


「ミゲル・グランマード殿ですね? 私は要件を伝えに来ただけなので、接待の類いはしていただかなくて結構です」

「な……」


 なんという生意気な小娘だ。子供のくせに、この私の気遣いを軽く受け流しおって!

 切れ長の目に、氷のような薄水色の髪……そして抑揚のない話し言葉。雪のように冷たい小娘だな……こんな者を遣わすとは、騎士団の教育はどうなっておるのだ!?


 ……っと、いかんいかん。この程度で腹を立てても何の利益もない。この小娘が着ているのは間違いなく白翼騎士団の制服、それに団員の証である翼を模した記章も身に付けている。こやつが騎士団の者だというのは間違いないだろう。


 体面に関わるし、多少の無礼は目を瞑っておいてやるとするか。ふん、寛大なこの私に感謝することだな小娘よ。


「改めて……私はアニエス・ネージュ。白翼騎士団の見習いで――」

「ああ、よいよい。要件は聞かなくてもわかっている。私の息子を騎士団にスカウトしに来たのだろう?」


 私がそう言うと、アニエスと名乗った小娘は、ぴくりとわずかにだが眉を動かした。思惑を見抜かれたのが悔しかったのか? いい気味だ。


「……話が早くて助かります」


 ふふん、当然だろう。

 ここ最近のパオロの成長は目覚ましいものがある。その噂が王都に届くのも時間の問題だと思っていたのだ。

 どれ、同席しているパオロは緊張しているのか一言も喋らんし、私が売り込んでおくとしよう。


「アニエス殿、こちらが我が自慢の息子です。是非とも話を聞かせてやってくだされ」

 

 私の後ろで緊張して突っ立っていたパオロの腕を引き、小娘の前へと差し出す。


「あなたが件の……」

「どうかされましたかな?」


 小娘は息子をじっと見つめ、どこか訝しげな表情を浮かべていた。その態度に少しばかり苛立ちを覚えたので、私はやや語気を強めて問うた。


「ああいえ、事前に聞いていた話と印象が異なっていたので」

「……ああ、息子は体格に恵まれてましてな。同年代の者と比べても一回りは身体が大きいのですよ」

「そうなのですか」


 なーにが「そうなのですか」だ!

 貴様が知りたそうにしてたからわざわざ教えてやったというのに!!

 くそっ、こいつへの態度次第でスカウトの話がなくなってしまう可能性がある以上、下手に出るしかないのが不愉快極まりない……!


「では、端的に要件を伝えます」


 腸が煮え繰り返りそうな怒りを我慢している最中(さなか)、小娘は変わらず淡々と話を進める。

 そして、パオロへと向き直り、こう告げた。


「はじめまして、ユーリ・グランマード君。我ら白翼騎士団自は君の才能を大いに評価しています。今すぐでなくても構わないので、是非入団を検討してくれませんか?」

「――っ、な……!?」


 ――小娘の言葉に、私は自分の耳を疑った。

 

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