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「なるほど魔法戦か。受けて立とう」


 俺は右手を魔人へとかざし、魔法を使用する。


 使うのは【雷魔法】ライトニングと【炎魔法】フレイムジャベリンを合成したものだ。

 【魔法合成】によって誕生した、雷を纏う炎の槍が【詠唱破棄】スキルによって瞬時に生成され、一直線に魔人へと向かっていく。


 【雷魔法】の特性により弾速が増したことで、瞬く間に魔人へと直撃し、【炎魔法】の特性により大きな爆炎を上げる。


「バカな……!? このレベルの魔法を使えるのか!? しかも、詠唱破棄だって……!?」


 放った魔法が直撃したが、障壁に阻まれ魔人には一切のダメージはない。

 まあ、もちろんあの一発程度で倒せるなど思っていない。だが、爆炎やらで集中が乱されたのか、魔人の詠唱していた魔法が中断されていた。これは嬉しい誤算だ。


 まったく……障壁があるというのに、この程度で心を乱してどうする。

 俺が師匠と魔法戦をしたときなんて、致死レベルの魔法を嬉々として連発してくるんだぞ。その都度、適切な箇所に障壁を一点集中させないと防げないんだからな。


「どうした、どんどんいくぞ」

 

 あのときの師匠に倣って、間髪を入れずに次々と魔法を撃ち込んでいく。思考の暇を与えないためだ。

 ……まあ、威力に関しては比較にならないが。


「ぐ、ぐあああっ!」


 だが、ただ全身に障壁を張り巡らせるだけの運用しかできない魔人には有効のようだった。

 

 攻勢の結果、ついに障壁の完全破壊に成功。そして、続く魔法を生身で受けた魔人は、爆煙と共に地面へと落下した。


「が……ぐっ……! こ、んな、バカな……!」


 地に落ち、蹲った魔人の姿は、以前の少年の姿へと戻っていた。


 その身に纏う魔力は、戦う前に見たときよりも明らかに減少していた。どうやら肉体強化や障壁に大量の魔力を費やしてしまったようだな。

 そして、残りの魔力量からして、もう二度目の変身はできないだろう。


「さあ、もう終わりだ」


 俺は蹲る魔人にゆっくりと近付いていく。


「――――ケヒヒ……ケヒャヒャヒャヒャ!! なーにが終わりだ! まさか、もう勝ったつもりじゃないだろうなぁ!?」

「お前の手札は全部見た。俺にはもう通用しない」

「はっ! まぐれで一度破ったぐらいで、僕のデモンズスキルを攻略した気になるなよ? この【深淵領域】には別の使い道があるんだよ!」


 魔人のツノに魔力が走る。間違いなくあの黒い幕を展開する前兆だ。

 しかし【深淵領域】か……そんな名称だったのか。《《次に使うときのために覚えておこう》》。


「ケヒャヒャ! この【深淵領域】は発動範囲を自身の周囲のみに設定することで、僕だけが外からは完全に認識できなくなるんだよ! ……って、言っても聞こえないか」

「……だから、そいつはもう見たって言っただろ?」

「――なっ!?」


 得意気に話す魔人に、背後から肩へ手を掛けると、魔人は心底驚いた表情で、半身だけこちらへと振り返った。


 確かに、何の対策も無しに【深淵領域】を隠蔽に使われたら、探し当てるのは困難だ。


 だから俺は、《《同じスキルをぶつけた》》。


 ついさっき習得したスキル、【深淵領域】を俺と魔人を包み込むように発動した。習得したばかりなので、半径五メートル程度の範囲までしか展開できなかったが、それだけあれば事足りる。


「これは……僕のスキル!?」


 自分で使うスキルだけあって、感覚で理解できるのだろう。魔人は俺が【深淵領域】を発動したことを瞬時に理解したようだ。

 そして俺のスキルの効果範囲に、自身が呑み込まれていることも。

 そして、同じ【深淵領域】同士が干渉した場合、どうなるのかも。


 その答えは単純だ。重なった領域は、より大きな方に上書きされる。


 奴は領域を自身の周囲のみに設定することで、外から認知できなくなるようにしたつもりなのだろう。

 だが、より広い範囲で展開した俺の領域に呑まれることで、その意図を外すことに成功したのだ。


「どうして……なんでお前が僕のスキルを使えるんだよっ!!」

「なんでって……見たし、体験したし?」

「バ、バカを言うな! デモンズスキルだぞ。魔人だけの……僕だけのスキルなんだ! 使えるようになるわけがない!」

「そんなこと言われたってな……」


 実は俺も驚いている。なんせデモンズスキルを習得したのはこれが初めてなのだ。


 まあ、神域のスキルである『超越スキル』を習得できたし、当然と言えば当然だ。

 器用貧乏の効果は《《全て》》のスキルに適応される。たとえ魔人しか使えないとされるスキルといえども、《《あれだけ解析させてくれれば》》使えるようになって当たり前だ。


「ま、なんにせよもう終わりだ。お前が気にすることじゃない」

「……は? 何を言って――」


 俺が指を鳴らすと、周囲を取り囲んでいた黒い幕はパリンと砕け、隙間から幾筋もの陽光が内部に差し込む。


「あ……」


 スキルを解除したことにより、魔人はようやく気が付いた。


 自らの身体が、いくつもの武器に貫かれていことに。


「こ、んな……いつの間に……?」


 同じスキルを操るからか、俺の【深淵領域】の領域内においても、魔人の感覚はすべてが麻痺していたわけではないようだ。俺の声が届いていたし、位置も把握していたようだしな。

 しかし、これだけ身体を貫かれていて無反応だったことから、痛覚や触覚の麻痺に関してはその限りではなかったようだ。


 俺は魔人を領域内に入れると同時に、次元収納から予備の武器をありったけ取り出し、投擲していた。

 魔力の消耗に加え、【深淵領域】の発動中だった魔人は魔法障壁の再構築をしていなかったので、投擲した武器は易々と魔人の身体を貫くことに成功したのだ。


「ぐぅ……はぁはぁ……う、嘘だ嘘だ嘘だ……! こ、この僕がたったひとりの人間ごときに……ここまで……!?」


 普通だったら動くこともままならないだろうに、魔人はたたらを踏みつつも二本の足で立ったままだ。


「くそっ! せっかく外に出たってのに! たった数日で、こんな……!」


 だが、時間が経つにつれ、魔人から生気が失われていくのがはっきりとわかる。語気の強さとは裏腹に、身体はまったく動かない。もはや言うことを聞かなくなってきているようだ。

 あれだけ膨大だった魔力も、今や風前の灯。魔法を使わない飛竜(ワイバーン)にさえ劣る。


「くそ、なんで僕がこんな目にっ…………そうか、わかったぞ。お前、勇者ってやつだろ? そうに決まってる……! じゃなきゃこの僕がこんな簡単にやられるわけがない!!」

「残念だが、俺は勇者なんかじゃない」

「ふざけるな……ふざけるなよっ! じゃあ、お前はいったいなんなんだよっ!!」


 かつて魔王を討った伝説の勇者。そんな存在に負けたのなら仕方ない。

 ……もう、そう思うことでしか自分が死ぬことに納得がいかないようだ。プライドが高いであろう魔人の目に溜まった涙が、それを物語っている。


 だが俺は、勇者なんて呼ばれるほど立派な人間じゃない。

 正直に、こう言うしかなかった。


「――――ただの器用貧乏だよ」


 そう俺が言い終わる頃には、魔人の身体は石像のように固まっていた。そして、一際強い風が吹くと、灰のようにさらさらと散っていくのだった。

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