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Enptiness  作者: F!rsted・X
9/20

そして、光は沈み始めた

光が開け、私達の生活が幕を開ける。

窓からまだ薄い光が差し込む。

彼女との二人暮しに慣れてきて、彼女は私より随分早く起きることがわかった。

この1ヶ月間、彼女と暮らしてきたが、彼女が朝に何をしているのかは聞いたこともない。

大きく伸びをして、寝室を出る。


この少し急な階段を下ったら、1階だ。

1階に降りたら、すぐにリビングで、いつも彼女はそこに座って本を読んでいたりしているのに、今日は、リビングには居なかった。

大切な1ピースが欠けたような気分になった。

外に出て、彼女がいるか探してみようか。


扉を開けると、淡い光が私を照らした。

目を細くしながら、私は、周りをぶらぶらと歩いた。

霧が薄くかかっているのはいつもと同じだ。

早朝の町は、異世界みたいに、違うようにみえた。


何も考えずに、大きな門をくぐる。

遠くまで広がっている深い赤が、私を包み込む。

落ち着かない色だが、この風景は、ほっと落ち着けるものになっていた。

この街の近くに、一面に広がる空を見ることが出来る場所がある。

惹かれるように向かっていた。

そこに彼女がいるかなんてわからないのに。


彼女は本当にそこにいた。

木が伐採されて残った切り株に座って、まだ薄暗い空を、目に焼き付けている。

眺めている私に気づいたのか、彼女は私に小さな手で、手招きをした。

彼女に気づいて貰えて、嬉しくて、少し早歩きで、手招く方に向かった。


「やっほ、エリ。起きてたんだね」


「うん。今日は早く起きちゃったんだ」


切り株は大きく、2人が座っても、まだ人が座れるスペースがあった。

背中合わせで座ると、彼女の小さい背中が、服越しに擦れた。

彼女の体温は、少し冷たく、体温が高い私に触れたら、溶けてしまうのでは無いのかと思った。

彼女の顔を伺うことは出来ないが、私達はきっと同じ空を眺めている。

少し時間が経って、気まづくなってきた時、彼女は私を呼んで、続けた。


「私が今日死ぬとしたらどうする?」


少し微笑んだ彼女の顔からは、なにか悟ったような気配を感じた。

私と彼女は、見つめあった。


「悲しい。悲しいよ、もし居なくなるとしたら」


彼女の、寂しそうで、少し涙ぐんでいるような顔を見て、本当に今日死んでしまうのか、と少し信じてしまいそうな感情さえ感じてしまった。

もしかして、と聞こうとする前に、彼女が先に話を切り出した。


「私の能力は、『 満月の日の夜に、身体能力が最大限強化される』なんだ。でもこの能力には、最大の欠点があるのを知ってる?」


彼女の涙は、いつの間にか乾いていた。


「この世界で、天文的な能力を生まれつき持っている人は、必ず13歳で死んでしまうんだ。私が生まれたのは12年前の今日。もうわかってると思うけど、今日が最期のバースデイなんだ。」


彼女の告白に、私は分かりやすく呼吸を乱した。

とても長い年月をともに過ごした訳でもない。それなのに、この溢れくる涙はなぜ?

私は返信がこない自問自答を繰り返した。

だが、質問をする度に、大きなナイフが刺さったような、傷が増えていくだけだった。

彼女は、私に刺さったナイフを1本1本抜いてくれるように、優しく腕の中に包み込んでくれた。

彼女の体温は冷たいはずなのに、触れ合っているだけで、火傷しそうなほど、熱く感じた。

暫くの間、抱き合った私達は、ようやく手を離した。


「そろそろ帰ろっか」


彼女は、私を産んだ人のように優しく話しかけた。

私は、頷いて、大きな切り株から腰を上げた。

いつの間にかもう空も、薄く橙色がかかってきていた。

そして、町の入口の門をくぐる頃には、町のみんなは、活気づいていた。

家へ戻る前に、ユウリとミツキのお見舞いに行くために、少し食べ物を買ってから、病院に行った。

彼女は、病院の前で待っていると言い、私にそっぽを向いてしまった。

そして、病院に入り、ユウリの病室に行き、ドアを開けると、彼は、もう起きていた。


「あ、エリちゃん。こんにちは」


ユウリは、花が咲いたような笑顔で、私に挨拶をした。


「これ、お見舞いで買ってきたんだ」


ユウリに、甘い飴が入った袋を渡した。

袋には、ブレスタン味と書いてある。


「ありがとう。この味好きなんだよね」


ユウリは、受け取ると、私に、ゆっくり食べるから、と言った。

私は、それに応じる形で、病室を後にした。

次はミツキの部屋だ。


「お、エリ」


ミツキは、少し元気がなさそうに言った。

少し心配になり、体調のことを聞いたが、私は何時でも絶好調だぞ!と言うので、心配しないことにした。


「この病室はつまらないんだ。ずっと幽閉してきてサ〜。まぁ、あのこわーい医師が極たまに鎌を持ってきてくれるからいいんだけど...」


ミツキは、退屈そうに言った。


「ミツキ、これお見舞いのもの」


「んヌ、なんだ?」


ミツキは、私が渡すよりも先に袋を覗いた。


「これ、私が好きなすっぱい果物じゃないか!なんで知ってるんだよ」


「ミツキこれ見る度に食べてたでしょ。気づかないわけないよ」


ミツキは目を輝かせ、果物を手に取ると、勢いよく食べ始めた。

そして、1分にも満たない時間で平らげた。


「やっぱり美味いなこれ。また買ってきてくれよ〜明日でもいいから!」


「はいはい」


私は適当にあしらう。

そして、そのまま病室を後にした。

病院の前にいた彼女は、やっとか、といった様子でため息をついた。


「こういうのめんどくさくて嫌なの。冷たいと思われるかもしれないけど」


彼女は、つららのように言い放つと、家の方へ歩き始めた。

私も、彼女の背中を追いかけた。


もう光は、沈みかけていた。

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