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人魚な王子  作者: 人魚な王子
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第12章 第1話

 初めての記録会の日は、学校の授業はお休みの日で、朝から水泳部の人間だけが校門に集まっていた。

これからみんなで電車に乗ってバスに乗って、会場となっている大きなプールに行くんだって。

いつもと雰囲気が違うのは分かるけど、他のみんなもドキドキしてなんだか落ち着かない感じ。

会場施設敷地内に入ると、そこで別ルートから来た部員たちとも合流する。

照りつける太陽の下、タイルの張られた広場に、まとめて荷物を置いた。


「ロッカーが4つまでしか使えないから、出場者で順番に交代してね」


 いずみから渡されたプリントには、僕の名前のところにピンク色のマーカーで線が引かれていた。

奏のプリントには、奏の名前にピンクの線。

学校ごとにまとめて記載された出場メンバーの名前欄に、他の人たちに混ざって僕の名前があることは、本当にこのチームの一員になったような気がして、ちょっとうれしくなる。

僕はここで、ちゃんと人間として認められている。


 目の前にそびえる大きな建物の前には、長い金属の棒が立てられ旗が揺らめいていた。

とても大きな会場だ。

僕たちと同じようなチームが、いくつもこの周辺に集まっている。

そうか、この紅藻色のお揃いの服は、仲間を見分けるためのものだったんだ。

岸田くんもずいぶん背が高くてがっしりしているけど、それ以上に大きな人たちをそこかしこに見かける。

この人たちと、これから泳ぐ速さを競うのか。


 もう一度渡された紙に目を落とす。

僕が出るのは、バタフライの個人、100mと200mだ。


「観客席での待機場所が決まったから、出場者以外は移動を始めてください。最初は400の個人メドレー、次が100の背泳ぎと自由形だから、その出場者は、ロッカーへお願いします」


 いずみの言葉に、岸田くんと奏は大きなバッグを持ちあげた。

岸田くんは400の個人メドレーに出る。奏は100m自由形だ。


「あれ? 奏の自由形100の次が僕のバタフライ200だよ? もしかして奏は、僕の泳ぎ見られないんじゃない? ねぇ、それってどうなの? ちょっと順番変えてくださいって、大会の人にお願いしに……」


「俺が代わりに、しっかり見てやるよ!」


 岸田くんは僕の頭を上から押さえつけると、ぐしゃぐしゃと髪をかき乱した。


「岸田くんに見てもらっても、全然うれしくないし!」

「はは。じゃあな、宮野。しっかり泳いで、衝撃のデビューを飾れよ」


 岸田くんは、大会最初の種目に出る。

残された僕たちは、2階の観客席に上がった。

見渡す限りの広大なプールだ。

白い壁と客席に囲まれ、真っ青なプールが中央にドカリと置かれている。

天井には小さな旗までぶら下げられていた。

あれは何って聞いたら、その旗を見て、背泳ぎの人が距離を知るんだって。

いつも泳いでいるコンクリートむき出しの、カビ臭い学校のプールとは全然違う。

大きさも倍はあるし、なにより室内プールだし、電光掲示板まである。


「もしかして、50mのプール?」

「そうだよ。だからターンの回数、間違えないでよね」


 奏にも出場予定が早くからあって、更衣室へ行ってしまっていたので、僕はいずみの隣に腰を下ろした。


「100だと1回、200だと3回ね。はい、宮野くんももう一回言って」


 いずみは僕に、ちゃんと念押しすることを忘れない。


「100だと1回、200だと3回です」

「はい。よく出来ました。じゃないと宮野くん、調子よくいつまでも泳いでそうだから!」

「最初が3回で、二回目は1回ね」


 ちゃんと覚えておこう。

じゃないと、また奏にも怒られちゃう。

すぐに大会開始の時間が来て、場内アナウンスが流れた。

とにかく大勢の人がひっきりなしにあちこちで出入りしている。

動画でしか見たことのない審査員も用意されていた。

その人たちも揃って同じ服を着ていて、僕にもすぐに審査員だと分かる。

隣の観客席に座っている学校のグループは、僕のいる学校より随分人数が多い。


「記録会って、凄いんだね。こんなにちゃんとした大会だなんて、思わなかったよ」


 初めての大会にキョロキョロしていた僕に、いずみは言った。


「しっかり選手の動きを見てて。笛の合図でどう動くのか。スタートで失敗して、失格になる人が多いの。宮野くんも気をつけて」

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