表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人魚な王子  作者: 人魚な王子
2/62

第2話

 小さな湾を横切り、勢いをつけて浜に飛び上がる。

なんだって人間は、こんな厄介で動きにくい陸なんてところに住んでいるんだろう。

水から上がったとたん、自分の体以上に彼女の体が重くなる。

飛び上がるように浜に上がったせいで、砂浜といえそこにこすりつけ、彼女の顔に傷をつけてしまった。

白いこめかみから、赤い血を滲ませている。

あぁ、ごめんね。

痛いよね。

ごめんなさい。

そうだ。

人間は僕たちみたいに、固い鱗で覆われていないから、傷つきやすいんだった。

本当はちゃんと謝りたいけど、僕ももう行かなくちゃ。


 彼女を浜に打ち上げると、濡れた砂の上で腕をつっぱり、大きな尾ヒレをくねらせてずるずると海中に戻る。

他の人間に見つからなかったかな。

大丈夫だったかな。

だけどこの子は、すぐに見つかりますように。


 水中に体の半分が戻ったところで、彼女の2本しかない細い足から、黒い何かがポロリと剥がれ落ちた。

もう一方の足の先にも、同じ殻みたいなのがついている。

これは大切なものなんだろうか。

僕は波に運ばれようとするそれを捕まえると、彼女の足に戻す。

これでもう大丈夫なはずだ。

とにかく僕だって逃げないと。

打ち寄せる波に身を潜める。

水の力を借りて、すぐにその場を離れた。


 安全な沖にまで出て、ようやく一息つく。

もしかしたらあの子は、むかし陸に上がった人魚だったのかもしれない。

だって僕とそっくりだったもの。

多分きっと、もうずっと昔にこの海から上がり、陸で生きる決意をした人魚だったに違いないんだ。


 それ以来どうしても、黒髪のくるくるした彼女の姿が忘れられなくて、触れた温かな体温と柔らかい肌の感触がいつまでも腕に残っていて、仲間に頼み、無理を言って人間にしてもらった。

海に沈んでゆく白い横顔に、きっと恋をしたんだと思う。

僕は今日、その大切な彼女に会いに行く。

人魚から、本当の人間になるために。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ