8.冒険者してるって感じがする
「レイラの弓の腕は確かだな。精度も良いし、ちゃんと動いている的にも当てられている。誰かに教わったりしていたのか?」
俺は先のゴブリン2匹との戦闘を思い返しながら尋ねる。
レイラに狙撃されたゴブリンは心臓の位置に矢が刺さっており、見事に1撃で絶命していた。
「……家庭的な理由で幼少のころから習っていました。」
……微妙にはぐらかされた感があるな。
地雷ワードだったか。
「そうか。弓矢の腕もそうだが、胴を狙った判断も良かったな。即死狙いなら頭狙いだが、外す可能性も高い。今回は2匹のうちの1匹の足止めが最低ラインだったから命中率の高い胴狙いがセオリーだ。そのあたりも自然に理解できている。」
「ありがとうございます。」
どこかほっとした様子で胸に手を当て礼を言うレイラ。
「むぅ。レイラの事べた褒めだ。好きなの?」
その様子を見ていたイリアナがふくれっ面で横やりを入れてくる。
俺はそのイリアナの頭に軽く手刀を落とす。
「ふげっ。」
「イリアナは反省が多いぞ。相手によって戦い方は変えないといけないが、ゴブリンは武器を持っている方の手を先に狙えば脅威度が大きく下がる。初撃の突きを右肩にでも入れれてればその後の反撃はなかったぞ?」
「うっ。確かに……」
若干しょんぼりするイリアナ。
「だが、直前に押し込まれていた相手に臆することなく踏み込めたメンタルは戦士向きだ。目の前で振るわれた攻撃も冷静に捌けていたし、確実にステップアップしている。」
「おお!!やった!!」
今度は目をキラキラさせて両手を上げる。
イリアナの表情はころころ変わるな。
なんかペットを飼っている気分だ。
口が裂けても言えないが。
「これはドロップアイテムですか?」
レイラがゴブリンの落としたナイフを眺めている。
「ああ、さっきのゴブリンのドロップだな。貴重なものではないが、運が良いな。」
ドロップアイテムと言うのは魔物を倒した際に稀にその魔物が装備していた武具や体の一部が消えずに残った物のことを言う。
魔物自体も謎が多い。
分かっているのは大気中の魔素が一定以上に溜まると魔石が生成され、その魔石を核として魔物が
形成されるという事、そして絶命すると魔石を残して霧散するという事だ。
何故魔石が残るのか、何故一部武具が残るのかという事は分かっていない。
俺は魔法鞄から革帯を取りだすとナイフの刃に巻き付けた。
解け防止に紐を結び付けて固定してやる。
「間に合わせだがこれで鞘代わりになるだろう。ナイフは使い勝手がいいから1本は携帯しておいた方が良い。」
「植物の採取や調理、万が一の近接戦闘時に、と言う所ですか?」
レイラは聡いな。
俺は首肯する。
実際、弓手のような後衛でも敵の接近を許せば近接戦闘を強いられる。
かといって重量のある武器を備えていれば機動力が落ちる。
そう言ったところから後衛職がナイフのような軽量武器を持つことは珍しくない。
「何にせよ2人でゴブリン狩りはやっていけそうだな。危ない時はフォロー入れるからこの調子でどんどん狩って行こう。」
「はい!!」「はい。」
そして俺たちは再び森の中の探索を続けた。
魔物の索敵の仕方や攻撃の仕掛け方、緊急時の退避方法等教えるべきことは数多くある。
こうなってくると一週間という期間は短いな。
日が落ちる前にオルティアの南門をくぐる。
街中は明かりを灯す魔道具が数多く使用されている為明るいが、外はそうではない。
【炬火】の魔道具はあるが暗がりは死角が多く、日中に比べると危険度が跳ね上がる。
なのでよほどのことがない限りは外で活動する冒険者は日が落ちる前に退却するのが基本だ。
冒険者ギルドに入る。
もう日が落ちるかと言うギリギリの時間まで粘ったせいか、他の冒険者は大体が活動を終えているようで受付は空いていた。
「あ、お疲れ様です。首尾はどうですか?」
俺達を見つけて声をかけてきたのはミリカさんだ。
ん?今朝の早い時間にも居たよな?
何時休んでいるんだろう…。
「ミリカさん!!やったよ!!これ見て!!」
イリアナが高いテンションで受付台の上に麻袋を置く。
その中にはゴブリンの魔石が20個入っていた。
「これは…イリアナさんとレイラさんで狩ってきたんですか?」
「そうです。オルカさんに戦いの基本を教えてもらいながらですが。」
ミリカさんはにっこり微笑んで頷く。
そして魔石を【解析】の魔道具にかけていく。
「はい、全て本日付のゴブリンの魔石と確認出来ました。これで依頼達成ですね。ちょっと待っていてください。」
そう言ってミリカさんはバックヤードへと消える。
かと思えばお金を載せたトレイを持ってすぐに受付へと戻ってきた。
「依頼達成報酬が銀貨2枚、ゴブリンの魔石買取が1個に付き銅貨3枚なので、合計で銀貨8枚ですね。」
「おおー!!何か冒険者してるって感じがするね!!」
はしゃぐイリアナ。
レイラも声には出さないが嬉しそうに見える。
引率者が居るにしても最初の依頼で、しかも半日でこの稼ぎは中々のものだろう。
俺は自分の最初の依頼受注は薬草採取で、1日魔物から逃げ回りながら必死に薬草集めて銀貨1枚の報酬だったなと思い出す。
思えばあの時に魔物を倒せるようにならなきゃ生活できないってことを悟ったんだよな。
その点、この2人のスタートは俺の時より遥かに前を行っている。
未来は明るいだろう。
ふと視線を感じて顔を向ける。
ミリカさんがじっとこっちを見ていた。
その表情は若干硬い。
「オルカさん。少し話を聞かせていただきたいことが有ります。……今日冒険者3名が強盗殺人未遂で捕まったことに関してです。」
イリアナとレイラの表情が強張る。
そう言えばその報告もしとかなきゃいかんよな。
俺は小さくため息をついた。
どこの世界にも何時休んでるんだって人いますよね。
ミリカさんの場合はあまり登場人物を増やしたくないのでヘビーローテーションして貰っています。
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