7.初勝利だ
「まず戦闘スタイルについてだが、誰かを参考にしたものか?」
イリアナに剣を渡してもらい、損傷具合をチェックしながら聞いてみる。
「特にはないよ?剣士が標準的に装備してるのが長剣だって養成所で習ったからそれを使ってるだけ。あたしが使うにはちょっと重くて両手持ちになっちゃうんだけど……」
「なるほどな。まず気になったのは、装備品と戦闘スタイルのアンバランスだ。両手剣での立ち回りは如何に体重を乗せた重い一撃を入れるかというものだが、イリアナは相手の攻撃の届かない位置で安全に立ち回ろうとしていたな。」
「それは養成所でそう立ち回るのが良いって習ったから……」
「それも間違いじゃないさ。だから気になったのはアンバランス。攻撃型の両手剣でその一撃が入りにくい戦い方をしていたからな。両手剣の攻撃は打ち終わりの隙も大きいから、一撃で決めれるようなスタイルで無いと被ダメージも増えてしまう。」
「うぅ……確かに……」
先程の戦いを思い出しているのだろう。
振り下ろしの一撃ではゴブリンを仕留められず、逆に間合いを詰められて防戦一方になってしまっていた。
「まぁそもそも両手剣でもないただの長剣で両手持ちしなければならないんだったら別の武器にした方が良いと思うぞ?ちよっとこいつを使ってみてくれるか?」
そう言って俺は腰にあるポーチからショートソードと革製のラウンドシールドを取り出す。
「え?それ魔法鞄ですか!?」
横で俺とイリアナのやり取りを眺めていたレイラが、彼女にしては珍しく声を弾ませている。
明らかにポーチより大きな武具が出てきたのだ。
魔法鞄以外にこんなことが出来る魔道具はない。
「ああ、あると便利だからな。値は張るが……」
実際、贅沢をしない俺が『紅蓮の剣』時代に唯一散財したのがこの魔法鞄だ。
【魔法鞄】は魔石ではなく登録した使用者の魔力で作動する魔道具だ。
昔は魔石で動くタイプもあったようだが、強奪事件が後を絶たなかったために他人が使用できないこの形に落ち着いたそうだ。
内容量により価格は上下するが、ちょっとした木箱くらいの容量の物でも金貨100枚くらいする。
因みに俺のは馬車2台分くらいの容量があり、金貨800枚だった。
魔法鞄を見るレイラの目が光り輝いている。
どうやらこういったものに興味があるようだ。
「わ、軽い!!これなら片手でも振れるね。」
俺が取り出したショートソードとラウンドシールドを装備したイリアナが剣を振っている。
「リーチは長剣に劣るから相手の間合いの外からという訳にはいかないが、イリアナは身軽さを活かして一撃離脱を繰り返す戦い方が今は良いと思う。ラウンドシールドは攻撃を受け止めるというよりかは受け流す盾だからそこを意識していくと良い。」
「これ、もらっちゃっても良いの?」
「ああ、ショートソードはスケルトンのドロップアイテムを一応取っておいたもので貴重でもないし、ラウンドシールドに至っては俺のお古だ。」
「そうなんだ!!ありがとう!!」
表情に若干の申し訳なさを含みながらも喜ぶイリアナ。
実際、スケルトンはそこそこの確率でショートソードをドロップするので市場価値のないものだし、ラウンドシールドはある程度近接戦闘もこなさなければならないと俺が試行錯誤していた時代のものでもう使っていないやつだ。
「楽しみになってきた!!早く次行こうよ!!」
イリアナはショートソードを振り回しながらニヤニヤしている。
子供か。
「次はレイラの番だぞ。あと、そのテンションで森の中をうろつかれると魔物を寄せ付ける。少し落ち着け。」
「うっ。」
イリアナは先程ゴブリンに押し込まれたことを思い出したのか急に縮こまり辺りを警戒しだした。
「よし、じゃあ次はレイラにやってもらおう。弓は定点的でどのくらいの距離まで当てられる?」
「30mくらいなら何とかという感じでしょうか。」
ほう。
先の冒険者との戦いの際、逃げる魔術師を一射で仕留めたのは偶然という訳ではないようだな。
定点的で30mと言えば一端の弓手くらいの精度がある。
「ならレイラは基本的には動く的に矢を当てる訓練だな。早速次のゴブリンを探そう。」
そして俺たちは森をさらに奥へと進む。
また数分歩いたところでゴブリンを発見する。
今度は2匹だ。
1匹はこん棒だが、もう1匹がナイフを持っている。
良かったなイリアナ。
おあずけにならずに済みそうだぞ。
(よし、今度はレイラの攻撃を起点に仕掛けよう。弓矢でナイフ持ちの方を攻撃。向こうがこちらの存在に気付いたらイリアナはこん棒持ちを。ナイフ持ちが仕留められなかった場合は俺が対処する。いいか?)
俺の指示に2人が頷く。
(レイラのタイミングで行ってくれ。)
レイラはもう一度頷くと、短く息を吐いて弓矢を構えて引き絞る。
そのまま数秒。
相手の動きを予測して狙いを定める。
そして矢が放たれた。
ゴブリンへと真っすぐ飛んで行った矢はゴブリンの胸に当たる。
小さな体躯のゴブリンは無警戒で受けた一撃に吹き飛ばされ、地面を転がる。
「いっくよー!!」
それを見たイリアナが茂みを飛び出しもう一匹へと駆ける。
俺も念のため茂みを飛び出し、矢を受けたゴブリンの元へと走り出した。
「はっ!!」
横目にイリアナを見る。
イリアナは鋭い踏み込みからの突きをゴブリンの左肩に突き刺していた。
直後にゴブリンが右手の棍棒をイリアナ目掛けて振り下ろすが、イリアナはそれを冷静にラウンドシールドで受け流して距離を取る。
「ふっ!!」
次のイリアナの踏み込み突きがゴブリンの首を貫く。
ゴブリンはギギという声にならない声を上げると、そのまま靄となり魔石を残して消えた。
「やった!!勝ったぞー!!」
ショートソードを掲げて勝どきをあげるイリアナ。
「はしゃぎ過ぎだ。だが、2人での初勝利だ。おめでとう。」
俺は矢を穿たれて絶命し、既に靄となり消えたゴブリンが残した魔石とドロップアイテムのナイフを拾い、レイラにそれを手渡しながら2人の冒険者生活のスタートを祝った。
パーティっていうのは明るい口調・性格の人が居ると全体に動きが出てる感じがしますね。
書く側にとっても貴重な人材です。
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