1.パーティ脱退手続きをしておいてくれ
新作となります。
ありきたりな展開ですが、それでも良ければご一読ください。
30話くらいまでは1日3回更新をしたいと思います。
それではどうぞ。
迷宮都市オルティアの夜は短い。
冒険者の多い街ではありがちなのだが、他と違う時間帯に迷宮に潜る冒険者も居るため自然と冒険者向けの施設の営業時間が長くなる。
俺は冒険者向け宿屋の『カナリア亭』の2階の廊下を歩きながら窓の外を眺める。
間もなく日付が変わるような時間だが、飲み屋を中心に明かりが灯っており、大通りを歩く冒険者の姿もちらほら見られる。
夜にあっても明るさを保っているその街とは裏腹に俺の気分は深く、暗く沈んでいる。
この後、自身に何が起こるかは大体予想はついていた。
そのまま廊下を進み、ある扉の前で足を止める。
俺は覚悟を決めて扉をノックした。
「オルカだ。」
「入れ。」
短く名前を告げると部屋の中から返事が返ってくる。
俺はドアを開けて部屋の中に入る。
部屋の中には俺以外のパーティメンバーが揃っていた。
赤髪に整った顔立ち、中肉中背の男はパーティリーダーで魔剣士のトーラス。
短く刈り上げた短髪に厳つい顔、筋骨隆々の大男は重装戦士のガイア。
短めの赤髪に若干の釣り目ながら美女と言って間違いないのは斥候のアイラ。
紫がかった長髪をツインテールに纏めた幼女にしか見えないのは魔術師のレティス。
部屋の中心、ソファにトーラスは腰を掛けていた。
その隣にアイラが座っており、ガイアは壁に背を預けている。
レティスは俺に興味もなさそうに出窓から外を眺めている。
「オルカには俺たちのパーティ『紅蓮の剣』を抜けてほしいんだ。」
トーラスは開口一番そう言った。
予想通りだな。
ここ最近の俺への接し方を見ていれば分かる。
明らかに距離を置いていたからな。
「理由を聞いても良いか?」
「俺たち『紅蓮の剣』は先日迷宮の40階層をクリアし、Aランクに昇格した今最も注目を浴びているパーティだ。だが、ここで満足することはない。50階層を越えてSランクとなり、このオルティア大迷宮の完全踏破を成し遂げる。」
「ああ。」
これは俺達の共通の目標だ。
だから俺がその目標達成のために不必要と判断された理由はこの後だ。
「正直、サポーターがオルカではこの先が望めないんだ。分かるだろう?バフの使えないオルカ君?」
「……」
「今や能力向上と能力低下の補助魔術は迷宮探索には必須の技能だ。だが、能力向上が使えない君ではこの先の探索には不向きなんだ。能力向上、能力低下なしでもどうとでもなる浅層とは違い、深層では毎回の戦闘で補助魔術が必要になってくる。となると一度の戦闘で味方に一度かければいい能力向上とは違い、敵にかける必要がある能力低下は試行回数も多くなる。抵抗されれば猶更だ。継戦能力が歴然なんだよ。」
トーラスの言う事は正しい。
冒険者の一般常識のようなものだ。
「能力低下にもメリットはあるんだぞ?特に強敵との「言い訳はいい。これは決定事項だ。」……っ。」
最近はこんな感じで、トーラスは俺の話を聞く気がない。
「パーティは最大6人だ。足りない職種を補充するのではダメなのか?」
だがSランクになることは俺としても目標なのだ。
せっかくAランクまで来たのに最初からやり直しをはいそうですかとは言えない。
「実はオルカが抜けた後に2名の加入が決まっている。能力向上と能力低下の両方が使える補助魔術師と近接戦闘もこなせる回復術師だ。」
俺は『紅蓮の剣』で能力低下の補助魔術を使いながら戦況をコントロールするポジションにいた。
前衛の2人を抜けてきた魔物の対応の必要がある中衛で、回復術も行使して全体のバランスを取っていたのだが、加入するメンバー2人に完全に置き換えられるように考えられているようだ。
俺の上位互換の補助魔術師に専門職の回復術師。
どうあってもこのパーティを抜けることになると理解した。
「……わかった。世話になったな。」
俺はそれだけ言って部屋を出ようとする。
「明日の夜には新メンバーが入るから、午前中には部屋を引き払ってパーティ脱退手続きをしておいてくれよ。」
冒険者となり、『紅蓮の剣』を結成して4年。
最古参のメンバーを追放して最後に聞かされた言葉には何の情も感じることは出来なかった。
ドアが閉まった後、俺はその場に立ち止まっていた。
確かに予想はしていた。
ここ最近、トーラスが俺を見る目に侮蔑の色が含まれていた。
迷宮の攻略階層が深くなるにつれ、出てくる魔物に手こずるようになってからだろうか。
それまで順調に攻略を続けて来ていたトーラスたちにはそれが許容できなかったのだろう。
少しそこで呆けていると部屋の中からトーラスの笑い声が聞こえて来た。
戦力増強を図り、『紅蓮の剣』はいずれSランクに到達するだろう。
だが、そこに俺は居ない。
そう思うと自分たちだけ高みにのぼる選択をしたトーラスたちに対し憎しみに近い感情が沸いてくる。
いかんな……
俺は大きく息を吸い、そして吐いた。
『紅蓮の剣』はもう俺とは関係のないパーティだ。
明日からはSランクに到達する別の方法を考えなければいけない。
『どんな時でも足掻くことを止めるな。』
昔、よくそう言われていたことを思い出す。
まだSランクになれないと決まったわけではない。
せいぜい足掻くとしよう。
そう決意を新たに俺はその部屋を離れた。
前作でもタイトルには(才能がなさ過ぎて)非常に苦労しましたので、今回は本分中から取る形にしてみました。