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理由 001



 シスターオリーブの手伝いを終えた私は、先に地上に出ているモモくんを追って階段を上がる。入る時は異様な雰囲気を感じたこの階段も、今となっては別の見え方ができるようになっていた。



「……」



 地下室にいた彼ら……ナンバーズ計画の犯した罪とも呼べる彼らのことを、私は人間と思うことができなかった。でも、その考えはそっくりそのままレイ・スカーレットに跳ね返ってくる。


 不死身な私は、外見こそ普通の人間だが、中身が全く異質だ。

 異質というのは、つまり通常とは異なっているということ。


 地下の彼らと私にどれ程の違いがあるのか……そんなことは、考えるだけ無駄な問題である。別の誰かが私たちを人間だと認めてくれさえすれば、それだけで充分なのだから。


 そうした意味では、先程のシスターの言葉に救われたと言ってもいい。まあ彼女は私が不死身だということは知らないはずなので、そこまでの含みを持たせていたわけではないのだろうけれど。



「……眩しっ」



 教壇の下から這い上がると、外はまだ陽が昇っていた。時間的にはほんの数十分の滞在だったのだろうが、あの地下室にいると時間の感覚が狂ってしまう。


 ……オリーブさんはいつもあの場所にいるのだろうか。目が見えないから地下と地上で不便さは変わらないのだろうが、ずっとあそこに籠っているというのは健康に悪そうである。


 年上の女性とお話しするのはかなり久しぶりのことだったし、今度はお菓子でも持ってきて雑談に花を咲かせたいものだ。



「終わったか」



 ふと、頭上から声が聞こえる。ようやく光に慣れてきた目を上にあげると、崩れた屋根からこちらを見つめるモモくんの顔が目に入った。



「あ、モモくん。そんなところで何してるの?」



「結界魔法の整備だ。マナカからもらってきた札を貼り直してる」



 他にやるべき仕事というのはそのことだったのか。確かに、あんな高いところに昇るのは運動神経皆無な私には不可能である。



「シスターとは話せたか」



「うん、少しだけだけど……持ってきた荷物、日用品とか毛布だったんだね」



「……ああ。あいつらの中には飯を食べれる奴もいるからな。定期的に運ばなきゃならねえんだ」



 モモくんの黒い瞳に影が差す。地下にいる彼らについて、あまり積極的に話したい訳ではないらしい。



「よっと」



 そんな軽い掛け声一つで、彼は屋根から飛び降りた。下手をしたら死ぬし骨折は必至という高さだが、しかし猫のようにしなやかな身のこなしで華麗に着地する。十点満点。



「んじゃまあ、帰るか。帰りは馬車がねえから、覚悟しとけよ」



「それは行きの時点で何となく察してたよ……ねえ、モモくん」



「なんだ?」



「どうして、私をついてこさせたの?」



 あの地下室のことを思うと、荷物持ちのために私を連れてきたという理由にはどうも違和感を覚えてしまった。部外者である私に彼らの存在を明かすデメリットと比べて、どう考えても釣り合わない。


 私の疑問を受け、彼は静かに目線を逸らす。



「……これからしばらく、あんたとは行動を共にすることになる。得体も知れない殺し屋集団に守られるってのは、あんたが思っているよりストレスになるはずだ」



「……そうかな。みんな、いい人だと思うけど」



「あんたがそう思い込む分には構わないが、俺たちはこれからも仕事で人を殺し続ける。あんたと意味のない雑談をした翌日、平気で人を殺す。上手い飯を食った後、腹ごなしで人を殺す。同居人がそんな生活を送っていて、本当に何のストレスもたまらないと思うか?」



「……」



「だからまあ、それが少しでも軽くなればと思ってここに連れてきたんだ。俺たちが殺し屋を続けるのは、それ以外にできることがないからだが……稼いだ金は、あいつらのために使ってる。『カンパニー』を作ったのは、()()()()()()()()()()()()()()()()



 モモくんたちが殺し屋をやる理由。


 人を殺す理由。


 それは――仲間を助けるため。



「もちろん、それで人殺しを正当化する気は更々ない。元々、悪いことだとも思ってねえが……ただ、俺たちなりの理由があるってことを知ってた方が、あんたも楽になると思ってな」



 それ以上語ることはないとでも言いたげに、彼はスタスタと教会の外へ向けて歩き出した。


 何のことはない――モモくんはいつだって、他人のことを考えてくれている、ただそれだけだったのだ。


 例えその手段が、酷く歪んでいたとしても。


 私が何かを言う権利なんて、あるわけがない。



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