表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/33

ゼロ



 勝負は一瞬で決着した。


 ほんの数分前までごくありふれた普通の森林だったこの場所は、今や見る影もない程無残な姿になっている。地は割れ、木々は薙ぎ倒され、滅茶苦茶という言葉を風景に落とし込んだような、そんな有様だ。


 そして。


 その無茶苦茶の中で――ニトイくんとマナカさんが、力なく倒れている。



「まあ、こんなもんか」



 この惨状を引き起こした張本人は、右手をひらひらさせながら事も無げに呟いた。



「……どうして」



「あ?」



「どうして、こんな酷いことができるんですか……」



 絞るような声でそう言ったのは、他でもない私だった……無意識に、意図せず、勝手に、そう言っていた。


 とんだダブルスタンダードだと自分でもわかっている。


 私は昨日、元婚約者を殺すよう殺し屋に依頼したばかりだ。そんな奴が、ヤジさんの行いに口を出していいはずがない。


 誰かを殺すことを積極的に望んだ人間が、誰かを傷つける行為を否定していい道理なんてない。



「はっ。頭お花畑かお前は。俺もこいつらも殺し屋だぜ? 危険と隣り合わせどころか、危険と仲良しこよし手を繋いでる連中だぜ? いつ死んだっておかしくないし、いつ殺し合ったって不思議はねえのさ」



「……」



 彼の言う通り、ニトイくんもマナカさんも殺し屋で、私の知らないところで何人もの人間を殺してきたのだろう。そんな彼らがああして地に臥せっているのは、健全に生きる人たちからすれば喜ばしいことかもしれない。


 けれど私は――不健全で不死身な人間なのだ。


 指先一つ動かさない彼らを見て、喜ぶことなんてできない。



「なんでこいつらとつるんでたかは知らねえが、お前を守ってくれる奴らはいなくなった。大人しく俺についてきな。いくら()()()()()()()()、痛めつけられたくはねえだろ」



 ヤジさんは私を諭すように言うが、しかし。


 何かが引っ掛かった。


 確かお父さんは、私のことを娘とも不死身とも告げずに拉致を依頼していたはずだ。純粋な人攫いとして、裏社会の人間を雇っていたはずだ。


 なのに――この人は、()()()()()()()()()()()()



「おら、ボーっと突っ立ってねえでこっちに来い。騒がずついてくるなら、手荒な真似はしないで――」



 そこまで言葉が出たところで。


 ヤジさんと私の間に――()()が落下してくる。




「レイちゃん、大丈夫?」




 その土埃を舞い上げて高速で落下してきた何かは、全身を白い衣装で包み、眩い銀髪と輝く銀の瞳を携えた、蛇のようにすらっと長い手足を持つ――美青年だった。



「イ、イチさん……」



「……」



 空から降ってきた殺し屋――イチさんは、倒れている仲間二人に目をやる。


 そして、ヤジさんの方へ向き直った。



「よお、イチ。お前もその女と知り合いだったのか」



「……」



「なんだ、無視かよ。そういや、お前ともしばらくガチでやり合ってなかったな。ここで決着でも付けとくか? そこのダウナー二人組は弱過ぎて話にならなかったからよ、お前ならもう少し戦えんだろ」



 彼は余裕の笑みで挑発をする。


 その煽りに対し、イチさんは静かに首を振った。



「決着をつけるってことはどっちかが死ぬってことでしょ? 俺はヤジのことも好きだから、決着はつけない」



「はっ、相変わらずぬりぃこと言ってんな、お前」



「でもね」



 イチさんが。


 倒れた私に手を差し伸べてくれた時も、塀の上で動けない私を担ぎ上げてくれた時も、今朝襲ってきた刺客を縛り上げた時も――頑なに左手しか使っていなかったイチさんが。


 右手を――前に突き出した。



「俺は、ニトイとマナカのことも好きだ。そして何より――レイちゃんが好きだ。みんなを傷つけることを、俺は許さない」



 彼は、先程私が苦しんだ矛盾した気持ちを堂々と表明する。


 殺し屋として人を殺している彼は、誰かを傷つけることを否定する。



「一つ、勘違いしてるみたいだから教えておいてあげるよ、ヤジ」



「……勘違いだと?」



「俺はね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 言って。


 イチさんは、突き出した右手をヤジさんに向ける。


 そして。


 彼の持つスキルを――発動した。



「【ゼロ】」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ