表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/33

スキル



「マナカー、お腹空いたー」



 重たい沈黙を破るように、ニトイくんが突然間抜けな声をあげた。



「うーん、そう言われても、私は料理の類は不得手ですから」



「え、そうなんですか?」



「おや、意外でしたか」



「何となく、何でもそつなくこなせる人なのかなーと」



 まあ彼らの壮絶な過去を思えば、掃除とか料理とか、そんな日常的なことを難なくこなす方が難しいのは当然か……いやまあ、壮絶な過去がないくせに家事が苦手な私が言うことではない。



「めんどくさいけど作るかぁ」



 渋々立ち上がったニトイくんは台所に向かい――その姿を、モモくんのものに変化させる。


 そしてあらかじめ蓄えてあったであろう食材を見繕い、テキパキと料理をし始めた。



「……」



「ニトイの変化を見るのは初めてでしたか?」



「あ、いえ。イチさんや私に姿を変えたのは見たんですけど……改めて自然にやられると、まだ慣れません」



「あれが彼のスキルですから。便利な物は使わないと損ですしね」



 魔法を越える力、か。


 確かに、いくら魔法と言えど、あそこまで完璧に他人に成り代わるのは難しいだろう。顔だけでなく声や体格まで変わり、身につける衣装まで他人の物になるのだから。



「でも、どうしてモモくんに変わったんでしょうか?」



「彼のスキル、【カメレオン】は、ただ姿形を変えるだけではないんです。変化した相手の能力までもコピーすることができるんですよ」



 なるほど……だからニトイくんは、料理の上手いモモくんに変身したわけだ。泥棒を追う時は身体能力の高いイチさんになっていたし、見事にスキルを使いこなしている。



「本人曰く、変化するのが苦手な相手がいるようです。イチやモモなんかは、結構苦手な部類らしいですよ。私は比較的得意らしいです」



「……言われてみれば、やっぱりモモくんとはどこか雰囲気が違いますよね。本物はもっとこう、愛嬌があるというか」



「二人して陰口とか、性格悪いね~」



 不意にくるっとこちらに振り向いたニトイくんが、不機嫌そうに眉をひそめる。雰囲気が違うとはいえ、やはりパッと見ではモモくんと区別はつかない。



「マナカは自分のスキルがすごいからって、すぐ僕を見下すんだ」



「誤解ですよ、ニトイ。君のスキルは素晴らしい」



「そう? やっぱり?」



 一瞬でご機嫌になった彼はまな板の方に向き直る。



「……マナカさんのスキルって、どんなものなんですか? あ、その、秘密なら気にしないでください」



「別に隠す程のことでもないですよ。私のスキルは【マジック】と言います」



「マジック、ですか」



「ええ。その能力は至って単純で、魔力を極限まで高めることができるんです」



「魔力を高める……? マナカさん、魔法が使えるんですか?」



「はい。私のスキルのコンセプトは、魔法を越える魔法でした。実験も折り返しになる五〇番目ですから、原点回帰の考え方をしたようですね」



 本来、彼らは魔法を越える力を宿すために集められたはずだけど、マナカさんはその魔法を極める方向でスキルを与えられたのか……研究者の考えることは全くわからない。


 ナンバーズ計画なんていう非道なことをする人たちの考えなんて、そもそもわかりたくないけれど。



「マナカの通り名は『魔王』なんだよ。人畜無害な顔して、こわーい奴なんだ」



 ニトイくんが口を挟んできた。意地の悪い瞳でマナカさんを見つめ、くすくすと笑っている。



「不本意ながら、そう呼ばれてはいますね。まあ通り名なんてあってないようなものですから。仕事をスムーズに進めるための記号ですよ」



「そ、そうですね……」



 魔王と喋っているんだと思うと、溶けかけていた緊張が再発してきた。


 私も大概単純である。



「さっ、できたよ」



 モモくん……じゃなかった、ニトイくんは美味しそうな匂いを振りまきながら、テーブルの上に昼食を並べていく。



「ありがとね、ニトイくん。とっても美味しそう」



「ま、モモの力のお陰だけどね、僕は何もしてない。礼ならあのちんちくりんに言いなよ」



「ちんちくりんって……でも、実際に身体を動かしてくれたのはニトイくんでしょ? 姿は変わってても中身まで変わるわけじゃないんだから、お礼を言うならニトイくんにだよ」



「……何それ。ウケる」



 彼は踵を返して台所に向かっていった。


 その横顔が少し微笑んでいるように見えたのは、私の気のせいだろうか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ