今のところは0人ですね。ここでは一人も悪影響なく無事終わりましたよ
俺は渡されたVRゴーグルを装着すると、視界全てが真っ暗になった。
耳元で音声が流れる。ぱっと明るくなると、
状態を横にするように指示がある。それに従って俺は座席に寝ころんだ。
アナウンス「この後、臨死体験を実施します。その時に、貴方の心と体は分離して宙に浮きます。本日の試験は、試験する車体の上部にある数値4桁を書きとる試験です」
俺は静かに聞き、冷静に進める。
アナウンス「あなたが右手に持っている試験開始ボタンを押し込むと、1分間眠りにつきます。その後、痛みや呼吸などがなくなり、宙に浮くようになります」
映像と3D映像が流れ、寝ている俺とバスの映像が俯瞰で流れる。
アナウンス「あわてずに、冷静に上に浮き上がるイメージをしてください。そのご、車の上部にある数字が見えたら数値と色を記憶してゆっくり降りてください」
アナウンス「時間に余裕がある方は、過去と未来をイメージして、同じ場所にある数値もおぼえて戻ってきてください」
アナウンス「寝ている体と重なるように戻り、指示があったときに目を開けるイメージをしてください」
プシュン…
5分くらいの短い映像とメッセージを受け、俺はゴーグルを外された。
試験員「はい、あちらのドアに行って指示に従ってください」
「はい」
こんな立体ゲームまがいのことをして、何になるのか。とりあえず、夢の中で上にある数値を覚えておけば良いのだな。
起き上がってドアの先に進むと、明らかにヤバそうな装置があった。カプセルと言うか、体を焼くサウナ装置のようだ。
「佐藤さんですね。こちらの書類を確認して、サインしてください」
渡された紙には、恐ろしいメッセージが書かれていた。
私____は1分間の臨死体験を希望します。
途中で何があっても、蘇生及び救命はしないように希望します。 ____
____の下線部に名前を書く箇所がある。つまり、1分は自分の意思で死にます、助けないで、俺の意思だからという誓約書だ。
途中で死んでも自己責任。政府は何も負わない、自殺扱いになるってことだ。なんて恐ろしい…。
試験官「こちらにサインがない場合は受験できません。このまま右のドアから退室してもよいです」
「…。何人くらい書かずに退室しましたか?」
試験官「…。今のところは0人ですね。ここでは一人も悪影響なく無事終わりましたよ」
「わかりました」
俺はサインし、言われるがままにカプセルの中に入る。
横になると、上から透明な大きな蓋がされてがっしりと固定される。俺の右手には、ボタンらしき感触がある。
試験官「準備ができたら右手にあるボタンを横にスライドして、めいいっぱい押し込んでください」
これが俺の死か生を決める。
グイッ…カチン。
透明なガスが流れて、ふっと意識を失った。