ああ、俺が去年生まれてたらこんなことにはならなかったのになぁ
斎藤「すっげぇ! 俺たちもインタビューとかで人気者になれるかもな! SNSにコレあげちゃおうぜ」
「やめとけ。臨死体験試験のトップしか注目されないから」
臨死体験には、2つの目的がある。一つは予防接種のように、死と臨死という幽体離脱を直接経験し、心と体を養うこと。心の哲学、意識の研究における思想を生み出すための教育の側面がある。
二つ目は、臨死体験に幽体離脱してその透視能力を数値化する「試験」である。ネットで調べた限りでは、毎回テスト内容が異なるため断定はできないが、普通では見る事ができない物体や絵を当てるというものだ。
これがより正確で高度な場合は、臨死優秀者として全学年の体験後に表彰が行われる。
去年の試験小学校で認められた2名の優秀者は、高い霊感から注目され、今は臨死哲学Youtuberとして荒稼ぎしているようだ。
臨死体験日は、2%の使者を生み出す処刑場であり、数名の英雄を生み出す試験の場でもあるのだ。
1分の臨死体験という長さは、政府が3年の試験運用から定めた。短すぎては、本人が臨死を自覚する前に戻ってしまい、2分以上だと致死率や後遺症が急増することがわかったからだ。
3分以上脳死状態が続くとまず正常に生還はできない。これらも、先代の学生たちの死のおかげである。
キーンコーンカーンコーン。
高橋先生「みなさん、おはようございます。今日は国が定めた初の臨死体験日です」
先生「遺書のMineは…。Aさん、Zさん、Cさんの3名がまだ未提出です。今から書いてくださいね」
こんなに命のやりとりが軽い世の中ってあるのだろうか。俺のじいちゃんは2000年生まれで、その頃はマイクロチップや前世承認がなく平和だったと聞いている。
俺もディストピアみたいな今の日本でいきたくねぇ。もっと平和で自由な国と時代に転生したい。
「はい、揃いました。今電子書類を皆さんの仮想ドキュメントに送りました。ちゃんと全部読んで、手書きでサインしてください」
眼球から読みたくもない文字のられつがブワーッと流れる。最後に□四角いチェックがあり、指でなぞるとチェックが付く。
それを何回か繰り返し、ようやく受領した資料の提出が完了した。
先生「今9時半なので、11時までこの教室で待機していてください。手洗い行きたい人は、手をあげてくださいね」
「ああ、俺が去年生まれてたらこんなことにはならなかったのになぁ」