アイヴァン 4
読んで頂きありがとうございます!
それからというもの、
私はタイムリミットがあるので早くハンターランクをあげたいと思っていたが、ナナンが危険度の高い依頼を許してくれない。
中級か上級魔獣討伐をしないとランクアップは難しく、ソロでは限界があった。
以前のようにクリウスがいれば良かったが、いまはそれ所ではないだろう。
私が依頼書が貼っている掲示板とにらめっこをしていると、珍しいハンターがやって来て話しかけられた。
それは、レックスの元相棒、ハンターランク1のアイヴァンだった。
「君はたしかー」
「ミリアです」
「噂には聞いているよ、凄い勢いでランク上げてる女の子ハンターがいるって。今は?」
「6です」
「ここにきて一年足らずで6か、レックス並だね」
ふわっと微笑むアイヴァンに誉められて、私は少し照れた。
「そうだ、これから一緒に狩りに行かないか?」
「え」
「これがいいかな、中級魔獣だけどいい?」
「でも、あの、ゼノさんは」
「あー風邪で寝込んでる」
「そうですか、ちょっとナナンに相談してきてもいいですか?」
「?いいよ、そこで準備して待ってるね」
私は急いでナナンがいる宿屋のおくにかけだした。
ランクアップのチャンスでもある、このクエストに行きたかった。
ナナンを見つけて状況を説明すると、ナナンは懸念な顔をしたが渋々OKを出してくれた。
「あのアイヴァンなら大丈夫でしょ。ちゃんと回復持っていくのよ」
てっきり一緒について行くと言うかと思ったが、以外とすんなりと送り出してくれた。
そして、私とアイヴァンの狩りは予想以上に早く達成出来た。
場所が近かった事と、規格外にアイヴァンが強かった……
私の身長ぐらいありそうな大剣をひとふりすれば、風圧で魔獣が怯む程に。
戦利品を回収して、森の高台で一休みをしていた。
「あの、アイヴァンさん」
「なにかな?」
「昔のレックスのこと、聞いてもいいですか?」
「ああ、ミリアはレックスに憧れているんだったね。わかるなーその気持ち」
「え」
「俺も憧れていたから。太刀を自由に操り、冷静な判断と隙のない攻撃。かっこいいよね」
「はい!」
「追い付きたくて、手に入れたくて、それでも届かないんだレックスは」
「それはどういうことですか?アイヴァンさんは相棒になっていたのに」
アイヴァンは少し悲しげな瞳をして苦笑いを浮かべていた。
「俺はずっと守ってもらっていたんだ。お互い背中を預ける相棒じゃなくてね」
こんなに強いアイヴァンにも、背中を預けないのか。
一体どれだけ強くなれば、レックスの隣で肩を並べることが出来るのだろう。
私が落ち込んでいると突然ズシンっという地鳴りがした。
周辺の空気が、ピリピリとして
私とアイヴァンはただ事ではないと感じて、立ち上がり周りを警戒する。
そして、次の瞬間下から突き上げる地震と共に地面が崩落し大きな穴があいて、私とアイヴァンは落ちた。
落下しながら何か方法がないかと、焦って魔力を発動すると下に水を感じた。
私の身体はアイヴァンに抱き締められドボンっと水に落ちる。
かなり深くまで潜ったが空の明かりが見えたので、アイヴァンは私を放し水面に向かって指を指し、私たちは泳ぎ浮かび上がった。
「ミリア!こっち!!」
「はい!」
なんとか岸にたどり着き、上空を見上げると空が一気に赤くなる。
あれは、炎?
「この感触は最上位魔獣かもしれない」
「地下から出てきたのでしょうか?」
「わからない。とりあえずここから出ないと話にならない」
「わかりました。行きましょう」
こんな街の近くで最上位魔獣が暴れたら、街の被害は膨大だ。
恐らく一番近くにいるのハンターは私たち。
急いで穴を抜け出すと、すでにひとりハンターが大きな蛇のような魔獣と戦っていた。
それは遠くからでもわかる、金色の髪に青白閃光が宙を舞っている。
「レックス!」
「アイヴァン、ミリア?」
私たちが駆け寄るとレックスは魔獣に剣を構えて顔を歪めていた。
「なんだ、この魔獣は……」
アイヴァンは魔獣を観察して、少し目を細めた
「新種か?太刀が入りづらいようだね」
「魔法弱化型かもしれない。ち、こんなときに限ってあのゼノはいないのか」
「宿で熱出して寝込んでる。」
「とりあえず、街には近づけさせるな。ここで、食い止めるぞ。ミリア!街に魔術師がいるかもしれない。援軍を呼びに行ってくれ」
「でも……」
「いいから、早く!!」
レックスの声に私は悔しいが従った。
戦力にならないとわかっている。
レックスと並んで戦っているアイヴァンが羨ましかった。
走って街に戻りギルド館に向かうと、ギルド館の外でナナンが空を見上げいる姿が見えた。
「嫌な感じの雲」
「ナナン!大変!レックスとアイヴァンが見たことない大きな魔獣と戦ってる!」
私は急いでギルド館に入り職員に魔術師を集めるよう話したが、生憎戦えそうなレベルの魔術師は誰も居なかった。
「誰もいない!?」
「困りました……このままでは……せめてゼノさんが動ければ」
「っーその、ゼノさんは何処にいますか!?」
「確かに街の高級宿で寝ているとアイヴァンさんがおっしゃってましたが」
「わかった!」
「ちょっと、ミリア!」
ナナンが止める声を無視して、私は急いで街一番の高級宿に向かった。
その間も何度が地響きがしている。
恐らく二人が戦っているのだろう。
高級宿のフロントにゼノの部屋を聞いて、制止するのを無視して部屋に入ろうとすると、鍵がかかっていた。
「お客様!困ります!」
「時間がないの!っーだ!!」
私は扉をおもいっきり蹴り破り部屋に突入すると、宿の従業員はあわてて人を呼びに行った。
ズカズカと部屋の奥に入りベッドルームに突入すると、顔を真っ赤にして虚ろな眼のゼノが邪険な顔をしてベットで起き上がろうとしていた。
いつもローブで顔や髪は隠れているがその姿はとても美しく男か女かわからないくらいだ。
「はぁはぁ。なんだ……お前は」
相当高熱なのだろう、とても苦しそうだ。
「私はハンターのミリアです!今からする事は……秘密にしてください!」
私は魔力を解放して両手に集めるとベットでなんとか上半身を起こしていたゼノの首に手を添えた。
「っ!なにを……!?」
集中して小さな声で詠唱をする。
より強い状態異常回復と治癒を、出来るだけ最短で。
黄色く暖かい光がゼノの首から全身を覆うと、ゼノは信じられないといった目で私をガン見していた。
「治癒…魔術。しかも、こんな一瞬で」
「説明は後でゆっくりしますから!お願いします!レックスとアイヴァンさんを助けて!」
私は急激な魔力の消耗で、身体が重たくなり、目眩がして汗が出る。
本来、少しずつゆっくり使うと治癒魔術を一気に大量に使ったのだ、無理ない。
地響きが少しずつ大きくなっている気がする……
「お願い……」
立っていられなくなりフラッと、ゼノのベットにもたれてしまうと、ゼノはすくっと立ち上がり必要最低限の装備を整えた。
「すぐ片付ける。そこで休んでろ。おい、従業員!」
「は、はい!!」
扉の側で待機していた数名の従業員の声が聞こえた。
「この女はわたしの客人だ。看病を頼む」
「わ、わかりました!ゼノさま」
「とんでもない魔獣だな……」
ニヤリと笑うゼノは艶やかローブをまとって颯爽と部屋を出ていった。
私はなんとか意識を保ち、従業員たちに助けられ、さっきまでゼノの寝ていたベットに横になった。
そして、従業員たちは寝室から出ていくと私が蹴破った扉の補修をしているようだ。
ゼノが出て少し経つと、地響きが激しくなりだしだ。
まさか、倒せずに街に近づいて来ているのでは……
私の家系の魔力は魔術全般を使えるが、実は戦闘魔術はそんなに強くない。
しかし、治癒魔術にずば抜けて特化している。
それは、とても特殊なことで、家訓として『治癒魔術は抑えてつかうべし!』
というのがあるくらい。
これは、人の人生を大きく左右する特別な魔術だからと先代は言っていた。
普通の魔術師は一部の治癒魔術を使えるが、ここまで精度が高くないのが普通。
戦闘をするものは皆回復薬を準備するのが当たり前だ。
ガタガタ、ガタガタガタガタ
高級宿の寝室の家具が揺れる。
「……大丈夫かな……やっぱり、私も行こう」
少しだけ魔力が回復して起き上がろうとした時、これまでで一番の大きな地響きが響き、魔獣の悲鳴が聞こえてきた。
そして、一気に静まり帰る。
「やったらしいぞ!!!」
「倒したぞーーー」
遠くて歓喜の声が聞こえてくる。
倒したのか……私はホッとしてベットにたおれこんで、安堵からそのまま寝てしまった。
眼が覚めると目の前にオレンジ色の髪と可愛らしい顔のナナンがじっと私の顔を見ていた。
それも、かなりの至近距離で。
「お、おはようございます?」
周りの景色が私の自室ではなく、高級宿だったので、ハッと我に返った。
「おはよう。でも、今は夜たけどね。」
少し眼を細めて機嫌が悪いナナンは扉に向かって私が目を覚ましたことを知らせる。
すると、アイヴァンとゼノが部屋に入ってきた。
「調子はどうだい?」
アイヴァンの問いかけに私は身体を起こして苦笑い浮かべる。
「話しは大体ナナンから聞いたよ。魔術師だった事を隠していたなんて、凄いな君は」
「ふん、あんなやつの為に馬鹿馬鹿しい」
ナナンがどの程度話したのか不明だから、とりあえず言われるままに話を合わせようと思った。
「でも、ゼノを回復してくれて本当にありがとう。なかなかヤバかったんだ。」
「そうよ、この刀とミリアに感謝ね」
ナナンがそう言うと譲り受けた刀を私に手渡した。
そういえば、さっき慌ててギルド館を出て行ったので、置きっぱなしにしていた。
何故か刀が薄汚れている。
「これでレックスに戦ってもらったの」
「え?」
「ミリア、刀を抜いてみて」
ナナンの指示に従って鞘から刀を出すと、刃こぼれがしてボロボロだ。
しかし、少しすると段々と輝きを取り戻してきた。
「見事な魔剣だな。魔力が宿っている」
ゼノが目を輝かせていた。
「ミリアの力を最大限生かす刀よ。これだと、魔術に弱いあの魔獣も切れたってわけ」
ナナンの説明にアイヴァンが頷く
「ナナンがそれを持ってきて、レックスに渡してくれて助かったよ」
少し疲れたような表情のアイヴァンと、ナナンは小さくため息をつく。
「ミリアがゼノを回復して寄越してくれたから、街に被害が出る前に倒せたけどね」
「本当、ゼノが来た時は驚いた」
「コイツから無理やり叩き起こされたんだ。」
私をじとりと睨むゼノに私は小さくなった。
「さて、口止め料の交渉の話をしようか」
「え」
「アイツに魔術師だと知られたくないんだろう?」
「はい、そうです……」
どんな無茶なことを言われるかと構えているとゼノは腕を組んで
「俺に治癒魔術を教えろ」
「……へ」
「だから、その治癒魔術だ。何度もチャレンジしているが上手く発動しない。」
治癒魔術は他の攻撃系魔術とちがって魔力の使い方が確かに違う。
「そんなことでいいのですか?」
「そんなこと!?治癒魔術が使えることがどれだけの価値があるのか知らないのか?」
「えっと……」
くってかかるゼノをアイヴァンがおさえて
「まあ、待てって。そうだ!暫く一緒に狩りをしないか?」
アイヴァンの提案は一緒に狩りをしつつゼノは治癒魔術を習えばいいというものだった。
私としてもハンターランクが上がるし願ってもないことだが、ナナンは高レベルのハンターと行動を共にする分危険が高くなるので難色を示した。
「俺がこいつの身を保証する。命に変えても守る」
そう、心強い言葉を口にしたのは意外にもゼノだった。
そして、暫く私はアイヴァンとゼノと一緒に行動することになった。
ハンターランク1のアイヴァンとハンターランク2のゼノ、この二人とハンター依頼をこなすとハンターランクがすぐに5になった。
まあ、上位の魔獣討伐の頻度が増えているし、仕事が早く1日2つ依頼を完了させることもあるので当たり前か。
報酬も沢山入り、懐もホクホクだ。
そして、狩りの合間に私がゼノに治癒魔術を教えるのだが……
「まず左手を私の手のひらに合わせて下さい」
「こうか?」
「はい、で、この手のひらに魔力を集中して下さい」
私のすぐ目の前に瞳を閉じた美形な顔がある。
さすが上位魔術師、魔力の質も集中力もそして、顔もピカいちだ……
「治癒をイメージして……?」
ゆっくりと瞳を開けゼノはジーーーーと私を見る。
「あの……?」
「ムカつく」
「は?」
「お前の魔力に」
私がゼノの魔力がわかるように、ゼノも私の魔力がわかるという事だ。
「それをアイツの為に抑えているのも、腹が立つ」
そんなこと言われてもなーと私が困っていると近くでアイヴァンが苦笑いしながら私たちを眺めていた。
「怒りの感情ではうまく治癒魔術は発動しませんよ」
「……わかった」
「じゃあ、もう一回、手のひらに集中して」
私が仕切り直しと瞳を閉じると唇に何か触れる感触がした。
ん?
眼を開けるとゼノの顔がある。
すっと唇を離されてキスをされたのだとわかった。
「……」
「これで集中できる」
私は固まり、近くで見ていたアイヴァンも固まっていた。
な、なに?なにが?
急激に顔があつくなり、私は立ち上がり後ろに飛び退く。
「な!!なにするんですか!!」
「はぁ。うるさい、集中出来ないだろ。怒りの感情をコントロールしただけだ」
なんの悪びれもしないゼノにアイヴァンの顔がひきつる
「えっと、ゼノ?」
「お前に口づけしたら、なんかアイツに悔しくないだろ?」
「「はあ?」」
私とアイヴァンは間の抜けた声を出した。
ゼノはちょっと……いや、だいぶ変わっている。
そんなこんなである日、ギルド館で報酬整理などをしていると、ギルドの職員に話しかけられた。
「ミリアさん、実はお願いしたい依頼がありまして」
「どんな依頼ですか?」
アイヴァンとゼノは、ちょっと特別な依頼に出掛けており、今日の私はフリーだった。
聞くと簡単な探索依頼だけど、場所が危険度が高くハンターランク5以上のクエストらしい。
もうひとりハンターが決まっており、先に向かっているので援軍として行って欲しいという内容だった。
私は念のためナナンの許可をもらわなくてはと言ったら、その職員さんはナナンにちゃんと伝えているらしい。
これまでの関係性から、信頼できる人だったので私は引き受けて向かうことにした。
南の森の奥、もうひとりと待ち合わせ場所に行くと森の木々の隙間から光が差し込み、金色の髪が輝く。
一目で誰かわかった。
「レックス」
私の声に気がつき手をあげる。
「やっときたか、じゃ行くか」
「えっと……久しぶり」
「ああ、毎日忙しそうだな。最近はアイヴァンたちと一緒に行動しているらしいな」
「う、うん」
レックスと森の奥に歩きながら話をした。
私にとっては夢のような時間だった。
森の奥には中級から上位の魔獣がポツポツと現れる。
レックスと私は連携をとりながら難なく探索を進めて行くと、大きな地割れを見つけた。
レックスは地割れの周りにある魔獣の足跡が気になるようだ。
「念のため行ってみるか」
「はい!」
その足跡をつけていくと、なんと上級のレア魔獣だ。
普段の魔獣とは違い毛色が真っ白で、常に気が立っている。
暴走している魔獣はとても危険だ。
レックスの太刀が蒼白閃光と共に宙を舞い、私は遠隔からサポートメインに立ち回った。
暴れる魔獣の動きさえ止めれればと、足を中心に攻撃をすると一瞬魔獣の動きが鈍る。
そのすきにレックスが一気にたたみかけた。
一時間の闘いの末に、なんとかふたりで倒し、疲れきって私は座り込むとレックスはレア魔獣の戦利品を回収して私に手を差し出した。
「強くなったな」
微笑みかけてくれるレックスの手を掴み立ち上がった。
そこから少し進むと聖なる地という休憩ポイントがあり想定外の戦闘をしたため、暗くなってきたのでそこで野宿をすることになった。
木々の隙間から見える星空は今日は一段と綺麗に見える。
レックスは手際よく焚き火を準備して私も非常食を並べて座っていると、隣にレックスがやってきてドサッと倒れるように横になって、私の膝に頭をのせた。
これは、俗に言う膝枕である。
「あー疲れた……」
「お、お、お、お、お疲れ様です」
私は自分の汗臭さを気にしながらカチンと固まった。
焚き火のパチパチと弾ける音と森の木々が揺れる音。
そして、たまに遠くから聞こえる生き物の鳴き声。
私はドキドキしてレックスをみると、スヤスヤと眠っていた。
変に期待していた私は一気に肩の力が抜ける。
でも、あの手の届かないと思っていた人がここで寝ていると思うと、なんだかむず痒く嬉しい。
私の夢のような時間はこうして過ぎていった。
次の日も探索を終えてギルド館に帰ると、ナナンはカンカンに怒っていた。
どうやら、親しくしていたギルド館の職員さんが私に気をきかせてくれていたようで、ナナンの許可は降りてなかったらしい。
必死に頭を下げる職員さんに私は感謝をした。
だって、レックスとふたりっきりで素敵な時間が過ごせたのだから。
ついでにレア魔獣の討伐をしたおかげて、私のハンターランクが4になったので、ナナンもそれ以上責めなかった。
アイヴァンとゼノと狩りをしていると、不吉な噂を耳にした。
数百年に一度の災いドラゴンが誕生したという噂だ。
ドラゴンは強個体が多く魔獣の中でも、最も危険でチームで挑むのが常識だ。
レックスやアイヴァンも数える位しか戦ったことがないらしい。
私が興味深く話を聞いているとゼノが私に
「魔術師としてなら、ミリアも参加できるかもな」
と言っていた。
それから暫くして、本当にドラコン討伐依頼がギルド館にやってきた。
各地のギルド館から精鋭を集めて、チームを作るらしい
私がお世話になっているギルド館からは、レックス、アイヴァン、ゼノ、ロッソ、モモ、そして……なんと私が選ばれた。
私は嬉しくて舞い上がっていたが、ナナンはいつものように心配をしていた。
「本当だったら参加させたくないけど、ドラゴンの討伐は国家最優先事項でもあるの。いい?絶対最前に出てはだめよ?こまめに回復を忘れないで」
「わかってるって、ナナン」
討伐組の出発の日、私はナナンに見送られていた。
最後に私をギュッと抱きしめる。
そして、耳元で
「いざとなったら、魔術を使って。絶対生きて帰って。約束」
そう小さく囁いていた。
ドラゴンが出現した場所は今回運がよく、ひとがいない山だった。
これが街中だったから大惨事だろう。
他のギルド館から20名が合流して、レックスが指揮をとる。
討伐日当日、レックスから私にナナンと同じように最前には出るなと言われた。
それは、弱いからとかではなく、作戦として、前衛が崩した状態から追加攻撃をして欲しいというものだった。
初めてドラゴンを見た時、私はあまりの美しさと神々しさに言葉を失った。
これが、魔獣ドラゴン……
口から炎を巻き散らし、周辺を焼け野はらにしている。
戦闘が始まり、ドラゴンの強さに圧倒されながらも、ハンターたちは負けていない。
レックスの統率のもと、魔術師との連携は完璧で、少しずつ確実にドラゴンの体力を削っていった。
これなら、倒せるかも。
私はそう、甘い考えを抱いた次の瞬間、ドラゴンの炎がトゲのような姿を変えて飛んできた。
何本か避けたが私の左脇に一本刺さってしまった。
「ミリア!!」
激痛が走り血が滴り落ちる。
レックスが遠くで私の名前を呼んでいる。
私は倒れ意識を失った。
それから、何日眠っていたのだろうか。
目を覚ました時、私はナナンの宿のベットの上だった。
周りを見回すとナナンが床に座ってベットに頭をのせて眠っている。
きっと、私の看病をしてくれていたのだろう。
身体を起こそうとすると左脇に激痛が走る。
少しの魔力を使って自分に治癒魔術をかけた。
私が魔術を使っているとナナンが目を覚まして驚き立ち上がった。
「ミリア!大丈夫?」
「いま、治癒魔術を使って回復しているから、大丈夫だよ」
私の声にナナンは少しだけ顔を緩めた。
良かったと安堵の声を漏らしベットに腰を掛ける。
そういえば、皆は戦いはどうなったのだろうか、気になってナナンに尋ねた。
すると、なんとかドラゴンに勝つことが出来たが、なんと次のドラゴンが出没したらしい。
こんな連続でドラゴンが現れることはかなり珍しい。
私は早く治療をして戻らなければと思っていたがナナンは少し言いづらそうにしていた口を開いた。
「ミリア、チームから外されたよ」
「え……」
「レックスが決めたんだ」
「そんな……」
私はショックで呆然とした。
確かに私は弱く足手まといだ。
でも、それでもレックスの力になりたかった。
「せめて後方支援だけでも!」
ナナンが首を振った
「ミリアをドラゴン戦に関わらせないと周知していた。」
「っ……」
「……ミリア、ハンターはここまでだ。あなたの使命、国の姫に戻るべきよ」
「……」
私はなにも答えずに黙り込んだ。
まだレックスの隣に居たい……
二匹目のドラゴン戦にハンター達は苦戦していた。
私のような脱落者も出て、戦える有能なハンターが追加されても倒せないで被害は広がった。
『最悪災のドラゴン』
そう呼ばれた。
ナナンはレックス達の後方支援に向かい、私はナナンの宿で待機をしていた。
「今回は無理じゃないだろうか」
「あのレックス達でも……」
そんな不安な声が下級ハンター達から聞こえてくる
私はハンター受付所に向かい、ハンター登録証を渡した
よくお世話になっていた従業員さんは目をパチパチしている
「ハンター登録証を返納します」
「え?なんで!?ハンター辞めるのですか!!」
「はい。これまで、ありがとうございました」
「待って下さい!ダメですよ、辞めては。今回は訳あって外されたわけですし、考え直して下さい!」
いつも冷静な従業員さんが必死に私を説得してくれた。
でも、私はもう覚悟を決めたのだ。
私は深々と頭を下げた
「本当に、これまでありがとうございました」
「っ……」
そして、ハンター協会を出ていった。
二度と戻らない覚悟で。
最後まで読んで頂きありがとうございます!