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あなたの隣に……  作者: ほろ苦
2/5

ハンターのお仕事 2

読んで頂きありがとうございます!

次の日

朝から気合をいれてゲルマエースの討伐に向かった。

ゲルマエースは山道に居座り通行する人々を襲いとても困っているらしい。

持てるだけのアイテムを持って出没地点に向かうと、「キャー」と大きな悲鳴が聞こえてきた。

私とクリウスはアイコンタクトをして急いで悲鳴の方へ向かうとまさにゲルマエースが馬車を襲っている最中だった。

馬車には護衛も何人か付いていたらしいが周りに息絶えて倒れている。

少し高級そうな馬車が見るも無残にゲルマエースの餌食になり傷だらけになっている。

奥に白い服を着た女性が怯えてうずくまっているのが見えた。


「私が痺れ玉で引き付けるから、クリウスさんはあの人を…クリウス?」


クリウスは青ざめて目を見開いて固まっている。

まさか魔獣が怖くて動けない人…じゃない。

クリウスの視線の先はゲルマエースが襲っている馬車の人に向けられている。


「クリウス!!!」


私はクリウスの肩を強めに叩いて大きな声を出すとクリウスはハッと我に返り太刀を握りしめた。


「すまない…」

「しっかりして下さい!あの人を助けますよ!!」

「ああ!いくぞ!」


初めてペアを組んだ私達だったが想像以上に息がぴったりだった。

私が痺れ玉でゲルマエースを引き付けている間にクリウスは物凄いスピードで馬車の女性を救い出した。

女性は気絶をしておりクリウスは担いで、少し離れた場所に避難させるとゲルマエース後頭部に向かって火薬玉を投げつけた。

それに驚いたゲルマエースはターゲットを私からクリウスに変更すると私はナナンから譲り受けた刀で足を集中的に攻撃する。

刀は今まで使っていた短剣と違い切れ味が鋭く、攻撃した私が戸惑うぐらいだった。

ゲルマエースの足を止める事が出来れば後は早かった。

15分ぐらい戦闘の後、見事にゲルマエースの討伐に成功した。


「ふぅー。やりましたね!」

「ミリア、すごい攻撃力だ。実力はランク5ぐらいじゃないのか?」

「またまたーへへ」


討伐証明の素材を回収するとクリウスの表情は少し複雑な表情に変わり、気を失って倒れている女性を見た。


「……知り合いですか?」

「あぁ…ミリア頼みがあるんだ」

「はい」

「あの女性を村まで運んでくれないかな?馬車を出来るだけ治すから。俺はいなかった事に……」

「……クリウスさんがそれを望む理由があるのですね。わかりました、ちゃんと届けます」

「ありがとう、恩にきるよ」


そういうと壊れた馬車の素材で器用に簡単な馬車を作り出した。

私は逃げた馬がいないか辺りを探すと少し離れた所に怯えた馬が一頭見つかったので宥めて連れてきた。

クリウスと別れて私達が宿泊した村に気絶した女性を連れて戻ると、村の村長が迎えに来た。


「おお!レイラ嬢様。よかった……なんとお礼を言って良いのか」

「いえ、たまたまですから」

「いやいや、レイラ嬢様は嫁ぎに行く途中であの道を通っておりましてなぁ、ここで何かあったら私どもも責められる所でしたよぉ」

「そうなんですか……」


すやすや眠っているお嬢様の顔をみて、私はクリウスを思い出していた。


「…ぅ…ん」


ちょうどレイラ嬢様が目を覚ますと辺りを見回し怯えていた。


「こ、ここは…」

「レイラお嬢様、ルイロ村です。村長のセイタルです。覚えてないですかな?」

「え?あ、セイタルさん…」


村長を見た後、私とその周辺を見て、レイラ嬢様は少しがっかりした表情をした。


「さぁどうぞレイラお嬢様、私の家に。ハンター殿、あとで礼を宿に持っていきますぞ」

「いや、礼はいりませんよ。ほんと、たまたまだったから。」


なんだか心がモヤモヤしながら私は宿に帰るとクリウスが荷物を整理して帰る準備をしていた。


「おかえり。ミリア、悪いんだけど俺は先に街に帰るよ。ミリアは疲れただろうからもう一日ここでゆっくりして帰っておいで。報酬はあとで山分けでいいかな?」

「……いいけど。……クリウスさん」

「……」


クリウスは無理やり笑顔を作り視線を床に落とした。


「俺はお嬢様に会うわけにはいかないんだ」


そう小さな声で言うと、また手を動かし帰る準備を再開した。

そんなクリウスを見て私ももう一日この村でゆっくりしようと思わず、クリウスと一緒に帰る事にした。

荷物を急いでまとめて、宿のロビーで退出の手続きを行っている時、不意に宿の扉が開く。

すると、レイラ嬢様が入って来てクリウスを見ると驚き固まった。

クリウスもレイラ嬢様の姿をみて身動きが取れず視線を逸らし固まっている。

このふたりのただならぬ関係に私と宿の主人はお互い顔を見合わせて、また視線を二人に戻した。


「く…く…クリ」

「違います!」


レイラ嬢様がクリウスの名前を呼ぼうとすると、クリウスは即座に否定をした。

しかし、その声を聞いたレイラ嬢様は両手を口に当ててボロボロと涙を流し出した。

そして「あああああ…」と声をだして崩れ落ちしゃがみ込んだ。

そんな様子を見て、あとから入って来た村長は驚き駆け寄る。

クリウスは険しい顔をして荷物を持ってレイラ嬢様の横を通り過ぎや宿を出て行こうとした。


「ま、待って下さい!待って!!!」


泣き崩れていたレイラ嬢様は急いでクリウスを追いかけ背中から抱き付く。

私と宿の主人はどうすることもできずその様子を見守っていた。


「お願い…クリウス。私を置いて行かないで…」


か細い声で懇願するレイラ嬢様の言葉にクリウスは更に顔を歪める。


「っ…俺はあんたを知らない。離して下さい」

「うそ!!その声、その瞳、貴方は私のクリウスだわ!」

「違います!!」


今にも泣きそうなクリウスに私はどうしたらいいのかわからず様子を見ているとクリウスは私がいることに気が付いたように速足で駆け寄って来た。

そして、私の肩を抱きかかえレイラ嬢様を見る。


「彼女は俺の妻です!俺はあなたのものじゃない…」

「ぇ?」

「うそよ!!!」


私は驚きクリウスの顔を見ると今にも泣きそうなクリウスが突然私に口づけをしてきた。


私の頭がパニックになっていると、その光景を目にしたレイラ嬢様は気を失って倒れてしまった。

村長が間一髪のところでレイラ嬢様を支えてくれて、どこか打ち付ける事はなかった。

レイラ嬢様が気絶したことを確認するとクリウスはスッと唇を離し小さな声で「すまない…」と言って、少し放心状態の私の肩に手を添えたまま宿を出ていく。

そのままの状態で村の外に出ると肩からも手を離し、地面に頭をつけて土下座した。


「すまない!!!!!ミリア」

「…ぃあーあのー事情聞いてもいいですよね?」


私のファーストキスが見事に奪われたのだ。

理由聞いても罰はあたらないと思う。

少し青筋を額に浮かばせ、私の顔は引き攣っていた。

そんな様子に少し怯え、クリウスは帰りながら事情を話してくれた。


クリウスは昔、レイラ嬢様のお屋敷で庭師をして、まぁレイラ嬢様と恋仲になった。

庭師とお嬢様の恋は身分の違いで成就するわけもなく、レイラ嬢様の婚約が決まった時にクリウスは庭師をやめて出て行った。

簡単に言えばそういう話、クリウスはレイラ嬢様に幸せになってもらおうと諦めたのだが、こんな場所で再会してしまって私のファーストキスを犠牲に諦めてもらおうと思ったらしい。

協力しないことはない、しないことはないが心構えをさせて欲しかったと思う今日この頃だ。


「で、レイラ嬢様は諦めてくれるかな?」

「……俺の今の居場所もわかってしまうのは時間の問題かな。また別の街に移住する……」

「……」


せっかく出来たハンター仲間なのに、それは残念で仕方がない。

私とクリウスは気分が沈みながらギルド館がある街に戻った。


街に帰るとすっかり夜になっていたがナナンが出迎えてくれた。

私とクリウスの様子がおかしいことにすぐに気が付き、ナナンはクリウスに問い詰める。


「ま~さ~か~、ミリアに手を出したんじゃーーーー」

「いや!出してない!!!こともないが……違うんだ!!!」


ナナンに殺されかけたクリウスを庇う形で私が簡潔にクリウスの事情を話すとナナンの怒りは半分ぐらいにおさまった。

その後、夜も遅くなったしクリウスとは解散した。


「ふーん。そんなことがあったの。まぁ訳アリハンターなんてゴロゴロいるからね」

「クリウス、なんとかしてあげたいなぁ」

「……惚れたの?」


私の言葉に真剣な眼差しを向けるナナンに私は驚いた。


「え?いやいや!惚れてないですよ!ナナン、なに変な事言ってるの?」

「ふーん。まぁ数少ない真面なハンターだからねクリウスは、確かに惜しい。ちょっと調べてみるよ」


ナナンは宿屋の情報網舐めるなよ!と言って部屋を出て行った。


それから数日後、最近クリウスの姿を見ていない事に私は不安に思った。

まさか、何も言わずに街を出て行ったのでは……

そう思い少し落ち込んで食堂で座っていると、ギルド依頼所の受付人が私に話しかけてきた。


「あーいたいた、ミリアさん」

「あ、はい」

「実は王国からやっかいな依頼が来てましてねーゲルマエース討伐をペアでやったと聞いて、ミリアさんにも協力をお願い出来ないかなーと」

「王国の依頼ですか?」


王国からの依頼は大体上位の依頼が多くランク5以上がほとんどだ。

私はまだランク7なのでとても参加できるものだとは思えないが……


「このエリアの上位ハンターがいま遠征に行ってて人手が足りないって所が本当の所ですが、僕が見る限りミリアさんなら大丈夫だと思って!」

「どんな依頼ですか?」

「5人パーティでの採取依頼です」


採取なら簡単そうだな。


「ただし、採取物が魔石。しかも5名である必要性が3か所同時採取が必須だからです」


前言撤回します。

この内容はダンジョンにいる魔獣を倒しながら進む依頼ってことですね……


「南の洞窟で魔石が見つかったらしく、魔獣が守っているのでそれを討伐して魔石回収に3人とその統括に1名と補助に1名って所です。ミリアさんには補助をしていただけたらと」

「ということは他のメンバーは決まっているのですか?」

「はい。3名にはマックスとモモとロッソにお願いしております。統括はレックスさんですよ」


レックス!?


「やります!」

「そう言ってくれると思ってました。ありがとうございます!早速手配しますね」

「はい!」


レックスと同じ依頼が出来る…それだけで私の心は浮かれていた。

この事をさっそくナナンに報告しなくてはとナナンを探したが見つからなかった。

そういえば今日はまだ一度も見ていない。

たまにそんな日があるのであまり気にせず、先日もらった報酬を手にレックスとの依頼の為のアイテムの買い出しに私は向かった。


次の日にナナンにレックスとの依頼の事を話すとナナンは明らかに不愉快という表情を浮かべた。


「なにそれ」

「だ、だから、その、」

「勝手にハンター依頼を受けるなって言ってるよね?」

「そうだけど……レックスと」

「ミリアの実力にあった依頼とは思えない」

「だけど依頼所の人が…」

「……あんたは断らないってわかってたからね」

「ぅ」

「いいように利用されて命を落とすハンターもいるし」

「ぅ」

「…はぁ、それにそのメンバーにかなり不安。連携とれないでしょ」


マックスとモモは名前を聞いたことはあるがどのハンターかはわからない。

ロッソは無口で大きな体の斧使いのハンターでたまにナナンと話をしているランク2のハンターだ。


「断って来る」

「ちょ、ちょっと待って!ナナン、これは私のチャンスなの。ここまで強くなりましたをアピール出来るチャンスなんだよ」

「それで死んだら、元も子もない?」

「死なない!それに私には…ナナンの刀がある!」

「っ…」


私は顔を真っ赤にしてナナンを必死に説得した。

ナナンはかなりご立腹だったが絶対命優先を約束に依頼を受ける事を許可してくれた。


レックスとのパーティ依頼出発の日、メンバーの顔合わせがあった。

王国依頼という事もあり、ハンター依頼所の人が段取りをしてくれて、なぜかその場にナナンもいる。

ナナンはとても不機嫌な顔をしていた。

集められたメンバーはレックスとロッソ、それにいつぞやの嫌味な赤髪ハンターと私と同じぐらいの女の子ハンターがいた。

ハンター依頼書の人が挨拶をするように促すと


「レックスだ、今回の依頼の統括をする。よろしく」


久々に会ったレックスは金色の髪が少し伸びて神々しさが増しているように思えた。


「…よろしく」


無口なロッソは相変わらずだ。


「ロングソードを操るのに自信があります!ランク3です!マックスです!レックスさんよろしくお願いします!」


赤髪の嫌味なハンターは他の仲間を無視してレックスに媚びを売っている。

私は目を細め、こころの中で悪態をついた。


「モモですぅーハンターランクはぁ2でぇす!よろしくねん」


ピンク色のツインテ―ルで装備もデザイン重視で可愛いが…怖い、どこがどう怖いのかわからないけど本能が彼女に絡むなと言っている。


「っと、ミリアです。ランク7です。よ」

「はぁ?ランク7?ダイジョブなんですか?」


私が挨拶をしている途中でマックスの嫌味が遮ると依頼所の人が焦って話だした。


「ミリアさんはランクこそ7ですが、実力は5、いや4ぐらいはあると思います。各所の報告からと依頼達成率はこの街一番ですから!それに今回は補佐という形で手伝って頂くことにー」

「けっ。まぁレックスさんが良いて言うなら別に。足を引っ張るなよ!」

「…」


赤髪…こいつと連携マジで無理かも。

私が心の中でブリブリ文句を言っているとナナンがレックスの元に歩み寄った。


「ミリアに何かあったら許さないからな」

「…」


小声で話をしているようで、どうもナナンは私の事が心配らしい。


個性たっぷりのパーティでさっそく南の洞窟ダンジョンに向かった。

洞窟までは実は街から近く、朝出発して昼過ぎには洞口入り口に到着した。

レックスの指示のもと、各自軽く昼食をとり、すぐに洞窟攻略が始まった。

街から近い洞窟だからさほど強い魔獣は居ないはずだが、奥に進むにつれて洞窟内の空気が一変した。


「なるほどなぁ、魔瘴気があふれている」


レックスは目を細め洞窟の奥に神経を尖らせると、大型魔獣の気配を感じていた。

私は依頼所の人から預かった洞窟の正確な地図をみて現在地をレックスに知らせる。


「現地点はここですのでこのまま真っすぐが一番近道かと」

「…ダメだな。両方の横道から魔獣が一気に襲ってきたら全滅だ」


確かに、三本の道があり各通路に大型の魔獣がいたら…


「っち、余計な事言ってるんじゃねーよ、素人は黙ってろ」


マックスに手で押しのけられレックスの傍にマックスが寄ってこれからの戦略を話している。

私は確かに経験が少ない。

ダンジョン攻略なんて今回が初めてだ。

だけど、なにかの役に立ちたくて…

ぐっと唇を噛んで悔し涙を堪えていると私の肩にモモがポンっと手を乗せてきた。


「だぁいじょうぶぅ?マックスっち無駄に張り切ってるから気にしないでぇいいよぉ」

「モモさん、ありがとうございます」

「どんだけぇーがんばってもレックスの相棒になれないのにねぇ」


ふふっと笑顔のモモが一瞬悪魔のような顔に見れた。

こ、こわい…


「ここから2手に別れよう。ロッソ・モモは右通路、俺とマックスとミリアは左だ。おそらくそれぞれに大型魔獣がいる。討伐して中心でおち合おう。先に到着した方は待機。その後合流して真ん中の魔獣討伐、いいな!」

「「「はい」」」


ロッソ、モモと別れてレックスの傍をずっとマックスがついて歩き、話しかけている。

私はその様子を恨めしそうに少し後ろから眺めていた。

レックスの横に立てる日が本当に来るのだろうか…

こんな役立たずの私をレックスが認めてくれる日が来るのだろうか…

自分の不甲斐なさにドンドン凹んでいってるとゴゴゴと地鳴りがして大きだ魔獣が突進してきた。

レックスとマックスは冷静に戦闘態勢にはいり、魔獣の突進をかわしたが後ろにいた私は前にいた二人で魔獣の動きをとらえる事が出来なかった。

爆風と一緒に弾き飛ばされ、洞窟の壁に体を打ち付ける。


「ぃった…」

「おい!大丈夫か!?」

「…は、はい!」


レックスの声に私は無理やり声を出すが実はあまり大丈夫じゃない激痛が左腕に走っている。

そのまま魔獣との戦闘に入り、レックスとマックスが魔獣の相手をしている間私は洞窟の隅で激痛に耐えていた。

やばい…変な汗が出て来たぞ…

二人の戦闘を遠目でみると二人が戦っている更に奥天井から黒い大きな魔獣が身を潜めながらやって来るのが見えた。


「レックス!!!!!奥上!!!」


私は大きな声を出すと身を潜めた魔獣が大きな口を開けてレックスとマックスに襲い掛かる。

レックスは至って冷静に黒い魔獣をかわすがマックスは流石に焦っていた。

ガラガラと洞窟が所々崩れて大型魔獣2頭とハンター2人では分が悪いように思えた。

しかし、レックスは慌てる様子もなく最適な攻撃をあたえられる魔獣を選択し、戦っている。

まるで一人で2頭を相手にしているようだった。


「す…凄い…」


レックスは本当に強い…こんな雲の上のようなハンターに私は届くのか…

自分の無力さに愕然としながらも二人の戦いを目で追い続けていると1頭が弱り出し、戦線離脱を始めた。

それをチャンスとマックスが追い立てると魔獣は洞窟上部に強い突進をし洞窟を崩しにかかった。


「しまった!マックス、追うな!!!」

「俺の必殺技で仕留めてやりますよぉ!レックスさん!見てて…!?!?」


ひび割れた洞窟の天井が崩れ落ち、亀裂から大量の水が流れ込んできた。

その水の直撃をマックスはあたり、勢いで押し流されていく。

その後も亀裂から洞窟が崩れて大型魔獣も流されレックスは慌てて水が届かない所まで駆け上がると私を見た。


「ミリア!!!上に行け!!!」


私のすぐ近くまで濁流が流れ込み間一髪のところで私も洞窟の岩の上に上がった。

洞窟の崩壊はまだ続いており、私は行ける所までレックスの近くに行くとレックスも私の所までやって来た。


「腕は?」


少し心配そうに私の腕を掴みまじまじと見る


「大丈夫です。だいぶ痛みがひいてきました」

「…そうか」


そういうと掴んでいた私の腕を離すレックスに私はレックスの掴まれた所が熱くやけどをしたようにジンジンとしていた。

レックスに触られた…

心臓がバクバクしている。


「洞窟の方が止まるまで待機か…こっちだ」


レックスは安全そうな洞窟を見つけて進むので私もレックスに付いて行った。

洞窟は更に深部の奥の方に続いており、魔瘴気も濃くなってきた。


「もう、ロッソとモモさんは着いているでしょうか?」

「ああ、おそらくこっちに2頭きたからあっちは楽勝だろう」

「マックスさん大丈夫ですかね…」


まったくもって心配してないが、一応念のため気にかけておこう。


「まぁあいつなら大丈夫だろう」


深部に到着すると私達以外まだ誰も来ていなかった。

濃い魔瘴気が溜まり中心には魔石が3っぼんやりと光っている。

この魔石を同時に3つ持ち上げないと、残りの魔石から魔物が生まれると依頼所の人が言っていた。

現状ここには私とレックスふたりしかいないのでもう一人だれか来るのを待つしかない。

レックスと二人っきり…


「…」

「…」


この沈黙はつらい。

私の心臓の音がレックスに聞こえているのではないのだろうか…

呼吸をすることも意識しないと出来ないくらい緊張していた


「…ふぅ。そんなに気を張るな」

「え!?」


レックスは洞窟の壁に背もたれしてリラックスするように腰を下ろした。


「こんな所でそんなに緊張していたら無駄に疲れるだろう。戦闘時に自分の力を発揮できなくなる」

「は、はあ…」


と言っても緊張の原因が貴方なのでリラックスしろというのはちょっと無理かも。

また沈黙が続き私は何かレックスに話しかける内容を一生懸命考えた。

失礼な事を言ってもいけないし、嫌われる事を話してもいけない。

うーん…


「…その刀、良い刀だな」

「あ、はい!これはナナンから譲り受けた刀です!古い刀らしいのですがまるで新品のような切れ味でビックリしますよ」

「だろうな。持ち主の能力を最大限発揮できる魔術がかけられている。しかも潜在能力も引き出せる特殊能力付きだ」

「え!そうなんですか?どうしてわかるのですか?」

「あーこれ」


左手をあげて手首に着けている複雑な模様が入っているブレスレットを見せてくれた。


「ドラゴンを討伐した時に貰った神具だ。これに鑑定の能力が付いている」

「へー便利ですね」

「まぁな、偽物がすぐにわかる所で役に立ってるさ。この前なんて、俺が鑑定の神具を持ってると知らない商人が偽物を売りつけようとしてきて、かなり面白かったぞ」


少し笑いながら話してくれるレックスが私の緊張をほぐそうと気を使ってくれていると感じ、私は心が熱くなってきた。

そんな時、ザッザッと遠くから足音が聞こえてきた。

あーレックスとふたりっきりの時間が終わりかと安堵と残念さが複雑に絡み合った心境で足音の方向に目を凝らすと、そこには手負いのロッソをモモが肩を貸して歩いている姿が見えた。

レックスは立ち上がり私と二人に駆け寄った。


「ロッソ、大丈夫か?これは酷いなぁ…」


ロッソの左脇の防具は壊れ赤黒く染まっている。

ロッソは無表情だが額の汗から相当重症なのはすぐにわかった。


「ごめぇんねロッソ。わたしをかばって強い一撃をくらっちゃったのぉ…何とか回復薬で凌いでいる状態」

「あまり時間がないな…急いで終わらせよう。俺とモモで魔石周辺の調査に行ってくる。すぐに戻って来るからミリアはロッソを安全な所に移動しておいてくれ」

「はい」


モモさんと私はわかれて、大柄なロッソを洞窟の隅っこに連れて行った。

大柄なロッソはやはり重たく、近くにいると血の臭いがする。


「ロッソさん、大丈夫ですからね!あそこに座りましょう」

「…ぁぁ」


ゆっくりロッソを座らせると私はロッソの傷の様子を見た。

深くえぐれている体から出血が止まらない。


「…ロッソさん…」

「…」


ロッソは意識が朦朧としているのか視点が私に合っていなかった。

…悩んでいる場合ではない。


「ロッソさん、眠ってていいですよ。すぐに痛みはなくなります」

「…」


私はレックスとモモさんが近くにいないか周囲を確認しロッソの傷口に両手を近づけ目を閉じた。

体の奥深くにある自分の気の流れに集中し両手に集める。

すると両手のひらから小さく黄色い光に包まれロッソに注ぎ込む。


「痛み…と傷口を癒します。すぐに良くなりますよ」


止まらなかった出血が止まり、ロッソの顔色が青白くなっていたのが少しづつ血色が戻っていく。

完全回復するには時間が足りないのでとりあえず応急処置をして私はすぐに魔力を抑えた。

気が付くとロッソはスヤスヤと寝息を立てて眠っている。

この調子なら大丈夫だろう。

私は額の汗を手でふき取りロッソの汗をカバンの中からタオルをだして拭いてあげた。


「よし!ミリア!こっちに」

「は、はい!」


魔石の場所の安全を確認したレックスから呼び出され私は小走りでレックス達の所に向かった。

3つの魔石は私の頭よりも少し大きい白い石だ。


「ロッソは…」


モモさんが聞きづらそうに訊ねて来た。

あの状態ではいつ命がつきてもおかしくないと思っているのだろう。


「大丈夫です。いまは眠っています」

「そっか…」

「さあ、とっとと魔石を回収しよう」


レックスがそういうと私とモモさんはそれぞれ魔石の所に立った。

こんなに大きな魔石を触るのは初めてでどのくらいの重さか見当がつかない。

それでもレックスとモモさんと同時に持ち上げなければならないので、私は気を引き締めた。

魔石に手を掛けようとしたその時、ドタドタと走って来る音がする。


「ちょっと待った―――!!!それは俺の仕事だ!」

最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

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