世の中そうは変わらない
緩い記述ですが、人の殺傷に関する表現があります。
また、地の文ばかりで台詞が全くないので、読みにくいかもしれませんがこの点についてはご容赦ください。
日本に「ダンジョン」が誕生した。
ひょっとしたら日本だけでは無く他にも発生したのかも知れ無い。
しかし幸か不幸か最初(?)に発見された「ダンジョン」が日本にあった事から、世界で最初に誕生した「ダンジョン」は日本の「ダンジョン」だとされている。
更に幸か不幸かこれ以後現在までの所、世界に他に「ダンジョン」が見つかっていない。
ゆえに現在のところ日本に誕生した「ダンジョン」は世界唯一の「ダンジョン」だとされている。
ここで何故ここまでわざわざ「ダンジョン」と記していたのかを説明しておこう。
日本語の「迷宮」では無く「ダンジョン」と記した理由だ。
発見当初、「ダンジョン」は未発見の「洞窟」だと思われていた。
その昔起きた山崩れなりなんなりで洞窟の出入口が埋まっていたが、近年よくある大雨で出入り口を塞いでいた土砂が流され、たまたま付近でドローンを飛ばしていた人が発見し、ツイートした。
それだけのものだと思われていた。
それまでそこに洞窟がなかったことや、出入り口を塞いでいたと思しき土砂が流れた後などがGoogle Earthのおかげで容易に確認できたこともある。
さて、何はともあれ新発見の洞窟だ。
早速地質学者(もちろん洞窟内の地質を調査するため)と生物学者(長年閉鎖空間となっていた洞窟内に独自進化した生命体が存在して居ないか調査する為)が調査チームを立ち上げ、ネタになるものはなんでも探している報道関係がこれに乗り、地権者(当たり前のことだが日本国内には所有者が存在し無い土地はない。個人・法人・地方自治体・国の違いはあれど必ず所有者が存在する。)の許可を得て「洞窟」の探索を開始した
この場合、報道関係者が同行していたのは幸運だったのだろうか。彼らは出入り口に設置したベースキャンプから電源と通信ケーブルを敷設しつつ前進し、スクープネタがあったら第一報をリアルタイムで伝えられるように準備していたのだ。
そして見事にスクープをモノにした。
子供ぐらいのサイズの未知の人型生命体集団が彼らを襲い、問答無用で手持ちの武器(と言っても、石やら棍棒やらと言った原始的なモノ。光を反射する何かもあったが、画面の隅に一瞬映っただけだった為、画像解析しても正体は不明だった。)で虐殺し、最後にTVカメラが地面に落ちた後も続く悲鳴が次第に途絶え、未知の人型生命体集団が人を解体して貪り食う様がTVの隅に移るというスクープを。
早速事態打開の為に自衛隊が出動……とはならなかった。
そもそも日本には日本国内に武装勢力が現れた時に自衛隊がどのように対処するかを定めたいわゆる戦争法規(と、これに伴う交戦規定)が存在していない。
野獣の類が現れた場合でも対処するのは警察と、警察から委託を受けた猟友会(高齢化が進み出動できる人は減り続けている)であり、自衛隊ではない。(そもそも自衛隊の装備では鹿や猪、熊といった野獣に対処できない。せいぜいサルを相手にする程度。あくまで人間が組織する軍事勢力を相手にするための組織である以上当たり前。2世代前の64式自動小銃を引っ張り出し自衛隊標準の弱装弾では無く標準的な7.62NATO弾を用意すればなんとかなるかといったところ。)
そもそも、法律諸制度がどうあれ、洞窟内の殺戮騒ぎを良くも悪くもゲーム感覚でモニター越しに見ていた報道関係者が事態をなんとかしようと連絡をする先といえば、警察しか思い浮かばない。第一最寄りの自衛隊駐屯地の電話番号なんてよっぽどの自衛隊オタクでもない限り知るわけもないのだから。
斯くして、要領を得ない通報を受けた警察は地元の巡査に指令を下し、スクーターを飛ばして駆けつけた巡査が問題のシーンの再生画像を見てようよう自体を把握、機動隊の派遣を要請するまで一時間程度かかった。
そう、貴重な時間が一時間近く無駄に浪費されたのだ。
残念ながらベースキャンプに設置され、記録を取っていたカメラ・レコーダー類は無かったため、以下は推測となる。
結果、ベースキャンプの面々がまとまりのない行動をしている間に「未知の人型生命体集団」集団が洞窟から出てきて、辺りにいたスタッフに襲い掛かる結果となった。
巡査が装備していたニューナンブが全弾打ち尽くされていた事から、巡査は「未知の人型生命体集団」からスタッフたちを守ろうとしたものと推測される。
しかし、弾尽き警棒折れた巡査の遺体はみるも無残な姿となって収容される結果となった。
現場にいたスタッフの大部分についても同様である。
推測はここまでとして、この事件の続きを述べよう。
幾人かの幸運なスタッフは車に乗り込み発車することができた、そして崖に落ちる事なく逃げ切ることに成功したものの、そこまでで全ての幸運を使い切ったのか、あるいは恐怖のあまりか、機動隊を先導するパトカーの前に停まることができずに正面衝突を起こし、これによりさらなる対応の遅れと混乱を生んだ。
混乱はさらに拡大する。
「衝突事故現場」処理に追われている機動隊の前に「未知の人型生命体集団」が現れ襲い掛かってきたのだ。
最も、機動隊側は「未知の人型生命体集団」が人に襲い掛かっているという情報を得ていたため、事故現場前方に機動隊員たちがシールドを持って立哨を行っており、カーブミラーの向こうに映る「未知の人型生命体集団」を視認した段階で道幅一杯に横陣を組んで迎撃態勢を整えていた。
とはいうものの、「未知の人型生命体集団」に対し、いきなり発泡することなどしないしできない。法令によりそう定められているのだから。
まずは日本語で、決まり文句である「武器を捨て、おとなしく投稿しなさい」と呼びかけたが全く言葉が通じている様子がない。このため警告を無視して襲いかかってくる「未知の人型生命体集団」に対し、シールドをきっちり構えて強制停止を試みる。
数と勢いの差により若干押し込められたものの、「未知の人型生命体集団」の足止めに成功した機動隊は改めて投降勧告を行うが、あいも変わらず「未知の人型生命体集団」は聞き入れることなく石やら棍棒やらで殴りかかってくる。
止むを得ずシールド越しに催涙弾を打ち込んだり、非殺傷性ゴム弾を打ち込むもののそれでも「未知の人型生命体集団」の攻撃は止まらない。
そして、たまたま「未知の人型生命体集団」の中の長剣らしきものを持っていたモノが機動隊のシールド越しに隊員を傷つけたことにより発砲命令が下された。
銃が使用可能となれば当然の如く火力の差に寄りたちどころに撃ち滅ぼされてゆく「未知の人型生命体集団」。
「事故現場」周辺から「未知の人型生命体集団」が「排除」されるにはそう長い時間を必要としなった。
むしろその後の現場検証に時間がかかったほどだ。
何はともあれ、「自動車衝突事故」現場と「未知の人型生命体集団」暴動現場双方の現場検証を終え(つまりは事故車両と「未知の人型生命体集団」の死骸の後送をし)た機動隊はベースキャンプへの移動を再開した。
ベースキャンプに到着した機動隊が発見したのは、解体され、一部を食われた人間(派遣された巡査を含む)と若干の「未知の人型生命体集団」の死体。
当然ここでも現場検証を行いつつ、部隊を分離して「スクープ現場」へ前進。
死体及び鈍器で破壊された各種記録資材(研究用・報道用含む)の残骸を発見した機動隊はここでも現場検証を行いつつさらに前方に立哨を立てる。
幸いその後は「未知の人型生命体集団」による襲撃はなかった。
並行して後送した、「未知の人型生命体集団」の死体に対する検死を行った結果、「未知の人型生命体集団」は皆成長した、言い換えるならば大人の個体であり、尚且つ雄のみで構成されていることが判明した。
後日警察と、協力を要請された自衛隊特殊部隊による洞窟内共同調査からは「未知の人型生命体集団」の死体……それも明らかに共食いの跡がある死体が多数発見された。
同時に警察・自衛隊共同で行われた山狩りにより、少数の「未知の人型生命体集団」が発見されたがこれらも警告を無視して襲いかかったてきたため、捕縛に成功した一体を除き全て射殺されこの事件は終結した。
……したかに見えた。
しかし、後日改めて行われた洞窟調査の際、再度「未知の人型生命体集団」が現れ同行していた機動隊に或いは取り押さえられ、或いは射殺されるという事件が発生した。
また、洞窟内でいくつかの「箱」が発見され、調査したところ、未知の文字が描かれた巻物や剣・槍・弓・各種防具などが収納されていたことが判明した。
不思議なことに、幾度洞窟内調査を繰り返し、「未知の人型生命体集団」を排除しても、「未知の人型生命体集団」はどこからともなく現れ続けた。
同様に「箱」も一度回収したはずのところに幾度も再出現を繰り返し、巻物やら武器やら防具やらをもたらし続けた。
これらの事象から「洞窟」は「ダンジョン」と呼ばれるようになり、やがて世界的にも「ダンジョン」が正式名称と認められることとなった。
また、「未知の人型生命体集団」についてはその様相がRPGに出てくる「モンスター」に似ていることから(学術的な名称はともかくとして)「ゴブリン」と呼ばれるようになった。
さて、最後にこのダンジョンの管理についてだが、ほっておけば「ゴブリン」が湧いて外に出てくるため、一定以上の戦闘能力を持ち、「ゴブリン」を倒すための武器を使いこなせる者たちが出入り口を監視し、さらには一定期間ごとに洞窟内の「ゴブリン」掃討を行うこととなった。
具体的には、自衛隊の一部隊が駐屯し、「管理」を行うこととなったのだが、ここで問題となったのが初めに記した「戦争法規」の不存在である。
「戦争法規」が存在しない場合、「ゴブリン」の攻撃を受けたときに自衛隊員が対処できるのは「正当防衛」に留まる。
つまり「ゴブリン」に襲撃されても、先に一撃を受けなければ反撃できず、運の悪いものは投石などで死傷していた。
「ゴブリン」そのものについては、捕獲した個体を調査した結果、原始的な道具を扱うことはできるが道具を作成する能力はないこと。
また「ゴブリン」同士でのコミュニケーション能力はなく、たまたま「他の餌」がある時のみ一時的な協力関係を築いて「餌」を仕留めるが、その後「餌」を奪い合い殺し合うこと。
以上が判明し、獣以下の保護に値しない存在であるとみなされるようになった。
このため、ダンジョン管理の上で、獣以下の「ゴブリン」と遭遇した際には正当防衛の成立を待たずに自衛隊員側からの攻撃を許可するよう法律を制定する声が上がったが、野党からの「当該法の成立は『戦争法記』の制定につながりかねぬ危険がある、すなわちこれは戦争をするための法律である」との言いがかりにより未だ当該法は成立しないまま、自衛隊員の死傷者が増え続けている。
結果、ダンジョン内の安全が保証されないため、ダンジョンについての調査はほとんど進んでいない。
「ダンジョン」などという従来の常識が通じず、科学的にもその存在が解明できずにいる謎現象が起きているというのに、世の中というのはそう簡単には変わらないものらしい。
昔自サイトでFate SSを書いていました者です。
なんとなくネタが浮かんだので、久しぶりに文章書いて(ブッとんだまま放置している自サイトではなくこちらに)投稿してみました。