第二十三話
第二十三話
和傘を携え、指示された洋館にたどり着く。
淡い朱色の襟巻には、ぱらぱらと粉雪が積もっていた。
はぁっ。
先日よりも色濃く出た湯気が、絶え間なく口から出続ける。
重厚な扉を開け、カントリー調な絨毯を踏み歩いた。
人が集まる方へ赴くと、壁一直線に絵画がかけられている部屋へと着いた。
「チケットはお持ちですかな」
白髪が混じった老人が足を止める。
「はい。ここに」
事前に沖茄さんより賜った、洋封筒を手渡す。
皺くちゃな手が手紙の端を破く。
「・・・はい。はい、そうですか」
何かを察したのか、懐に手紙を仕舞った。
「どうぞこちらへ」
どうやら案内をされるようだ。
美術には縁がなかったからよくわからないが、見る人が皆上品な身なりで来ていた。
明らかに場違いな自分の装いは少し浮いている。
足取りが重くなっていくと、しわがれた声が目を覚まさせた。
「こちらになります」
下に向いていた目線を上げる。
「それではごゆっくり」
ちゃんとわかった。
名前を見ずとも。
屋敷でも目についた習字紙の中心。
細く、でも消えないようにはっきりと。
それは映し出していた。
『とおい人』
懐かしい匂いと、風と、声と。
まるですぐ傍にあるようだった。
既にいない遠い人を思いながら。
ふと、月明かりに照らされた闇夜を思い出す。
『戦争の反対は、なぜ平和なのですか』
水滴が一つ、落ちる。
『君にもいつかわかります』
また水滴が落ちる。
「先生は、知っていたのですか」
死が遠い場所を平和だと。
「なんでっ、おれがっ」
死が近い所が戦争だと。
「意地悪だ」
絶え間なく水が流れる。
膝の力が抜け、絨毯に跪く。
「・・・っく」
もう会うことのない遠い人は、なにもなかった俺に答えを残した。
○ ○ ○ ○
牡丹雪が降り、枯れ木にのしかかる。
青白い背景に負けないよう、白い椿は春を拱いていた。
「寒い」
足先の感覚が薄れていく。
先ほどまで熱く触れなかった湯飲みは、湯気を出すことを辞めた。




