第十九話
第十九話
箸を小鉢につける。
「先生。旦那様より十二月のヒイラギ展に向けて、作品を出してほしいとのことです」
少年が頷く。
陶器のような頬は、一定のリズムで咀嚼する。
一晩共にしても、少年のなにがわかったわけでもなく、只々不変の時が流れていく。
次の作品でも考えているのだろうか。
ふと、少年の黒髪に目をやり、上から見下ろす。
「先生、髪を結びませんか」
横側にしゃがんだ。
「結んであげますから」
やっと少年の首が折れた。
鎖骨まで掛かる髪を手に取り、手首に巻いていた白の髪留めを括らせる。
黒髪が墨をかぶったように見えるな。
朝日に照らされる薄緑の着物と共に、一まとまりになった黒髪は輝いて見えた。
白い砂に色を付けるかの如く、少年の指先は絶え間なく波打つ。
暇を持て余した虫たちが鳴き声を上げる。
今回は一枚一枚違う文字を書いているのか、どれをとっても似ているものが見つからなかった。
一筆、走らせると、また別の筆で続きを描く。
不意にさわやかな風が、少年が背を向けている縁側から流れた。
白い髪留めが、少年の髪を取りまとめる。
「戸を閉めましょうか」
「いや、このままで」
こちらに目もくれず、その右手は波を打つ。