第十八話
第十八話
真っ黄色の空が覆う。
砂埃が常に舞い、体中が砂だらけになる。
鳴りやまない銃声、叫び声、爆発音。片時も途絶えることがなかった。
「おい、起きてるかサネユキ。次代われよ」
自分の顔を覆える大きな手が、俺の肩を揺さぶる。
「ん、ああ」
「さっさと飯食っちゃえよ」
その大きな手は固形食をつかんで、俺に向けて放り投げる。
「お前、手がでかいから何でも小さく見えるな」
自分の手に収まった四角い塊は、先ほどより大きく見えた。
「何言ってんだ」
彼の持つライフルが鳴いた。
「お前が小さいんだ日本人」
傭兵とは、大方武器の輸入と共にこちらに来る、生きた兵器だ。
金もある、兵の数もあるお偉いさんがなぜ、わざわざ金のかかる外人を欲するのか。
それは武器を扱える教育を、自分の兵に施せないからだ。
この紛争地域は長年に続く争いで、自分側の兵の訓練に間に合わないほど、兵力差があった。
だから有り余る金で寄こしたのだ。
「おいクリス。うちんとこが動いたぞ」
使い物にならない自分たちの兵は、最前線で歩かせる。
恐らく、俺を買ったお偉いさんにしてみれば、俺らよりも自分の兵の方が安いんだろう。
「・・・地点より。3分40秒後に橋ん所突っ込むぞ」
「了解」
今起きてる奴は揃って、南側へ移った。
ガリガリと、鈍い音が部屋を満たす。
「班長。・・・時の方向見てくれ」
スコープのレンズは海色のワンピースを映す。班長の瞳と同じ色だ。
「あーありゃだめだな」
腹部分には黒い物体を、何色かのコードが巻き付けていた。
俺は抱えていたライフルを、壁の穴に掛けた。
「5・4・3・2・1・・・」
いつものように躊躇うことなく、人差し指を曲げた。
○ ○ ○ ○
プルルルルルルル
敵襲か。
寝具を蹴飛ばし、辺りを見渡した。
居間の方からか聞こえるな。
戸に背を付け、ゆっくりと開ける。
ああ。
そうか。
ここは日本か。
鳴り響く場所へ目を向ける。
「電話かぁ」
今はない黄色い砂埃を、頭の隅にやった。