第十七話
第十七話
夕食後、ほうじ茶を啜りながら少年は言った。
一緒に寝たいと。
きっと、医者から言われて怖くなったのだろう。
二つ返事で許してしまったのは情けもあった。
が、少年から話しかけてくれた喜びも、少しばかり含まれている。
普段使っていない居間に布団を敷く。
「もう寝ましょうか」
つややかな髪が揺れる。
真っ暗な空間に、月光が射す。
呼吸音が一人分しか聞こえなく、本当に横にいるのかわからなくなる。
「あなたはっ」
左からぽつりと、水滴が落ちた。
「ここに来る前は何をしていたのですか」
また水音がした。
気になるのか。
「人を、殺していました」
水音が止む。
「紛争地域の中東で、5年程。傭兵をやっておりました」
人殺しと、言われるだろうか。
横で布団のこすれる音が聞こえる。
「どんな所ですか」
気を使ってくれたのか。
「年中乾燥した国で、とても暑い所でしたよ」
一呼吸置きながら吐き出す。
「この国にはない草木があちこちになっていて。一つ弦の長い木が生えていて、現地の子供たちはそれでブランコを作って遊んでいたのを、見たことがあります」
「初めに殺したのは、先生と同じくらいの子でした」
「私が来た時には戦況が激しくなっていまして、敵の方も兵力に余裕がなかったのでしょう」
息をするように吐き出した。
「小さな女の子を撃ちました。首元にコードが巻かれていて。相手はその子を自爆させようとしたのでしょう」
なんで殺したことばかり選んでしまうのだろう。
「どうして、そこに行ったのですか」
涼しい風が入る。
「小さいころから気になっているものがあって」
小学生の頃に開いた、重厚な辞書を思い出す。
「なんで戦争の反対は平和なのかなって」
「あの国はこの国に比べて『平和』って言いますけど、『戦争』だって言わないですから。疑問に思っていろんな大人に聞いたんです。でも誰も答えられなくて」
「それで自衛隊に入って、傭兵として国を出ました。でも足を撃たれてしまいまして。それで帰ってきました」
「先生は、わかりますか」
カサカサと音が鳴る。
「いつか、わかると思いますよ」
「ではその時は一番に、先生に報告しますね」