第十六話
第十六話
それは突然だった。
少年が血を吐き、俯いていた。
間髪入れずに救急車を呼び、血で気道が塞がれないよう、横向きに寝かせる。
緑色の畳部屋が真っ赤に染まった。
鼻に届く懐かしさと落ち着いた空間が、頭の中でひどく矛盾していた。
薄暗い診察室を青白く光るボートが照らす。
対面している白衣の人物は、聞きなれない単語をつらつらと吐き出す。
「要するにですね」
医者は遠回しに、彼は長くないと告げたのだ。
「そうですか」
特にショックを受けるわけでもない自分が、露出していた。
「目を覚ましたら自宅療養ですな。治療するわけでもないのでね」
軽く礼を言い、真っ暗な空間を後にした。
丸一日だけ入院した後、追い出されるかのように病院を後にした。
緑色の風呂敷を片手に病院を出る。
傍らに少年を連れて。
「退院祝いでもしましょうか」
青白い顔がゆっくりと頷く。
「帰りに市場へ寄りませんと。先生、一緒に行きますか」
なんでこんなことを言ったのだろう。
退院したばかりで、容体も良くないと聞いていたくせに。
それでも少年はゆっくり頷いた。
舗装されている地面を少年が歩いている事に、違和感があった。
そういえば、少年が屋敷を出るのを見るのは初めてだな。
横目に見た少年の瞳が、今までに見たことがないほどに輝いて見えた。
帰りにいつものところで菓子を買おうか。