第十五話
第十五話
居間でテレビを見ていると、窓から大きな音が聞こえた。
慌てて壁に背を付け、懐に手を入れる。
何もないのに、右脇に手を挟んでしまった。
長年の癖がここでは役に立たないことを思い知らされる。
「あーあっ。当たっちゃったぁー」
黄色い声が遠くから聞こえてくる。
そういえば今日は梅永さんが来るんだったか。
駆け足で向かうと、ラメの付いた紫色のワンピースを着た人物がいた。
「どうかされましたか」
ハッとした顔をこちらに向ける。
「あーーごめんねぇ。バックで入れようとしたんだけどぉーぶつかっちゃったぁ」
白い車が山茶花の生垣にのめりこんでいた。
突っ込んだ張本人は、生垣をまじまじと見ていた。
「いえ。・・・動けますか」
「ちょっと、やってみるわね」
やっとのことで庭の端へ停められた梅永さんは、安心した様子でお茶を啜っていた。
「あーよかったわぁー」
「ええ、本当に」
少し生垣の形が崩れただけで、庭師を呼ぶまでもなく。
茶髪に化粧の施された顔。
胸元の真珠の輝きと、上品な紫色の生地が、彼女の財力を知らしめていた。
経営者という身分は、皆こうなのだろうか。
「作品をお持ちしますので、もう少々お待ちください」
赤々と目立つ口元が開く。
「ええ。楽しみにしているわぁ」
「先生をお呼びしましょうか」
「いや、いいのよ。邪魔をしたくないわぁ」
玉露の水滴が、皿に落ちる。
大げさなくらいの驚き様に、疑問が湧く。
「そう、ですか」
その人は一つの書を選んだあと、帯の付いた札束を三つ机に置いた。
俺はその向かいで領収書を書いていた。
「会社名でお願いねぇ」
「はい」
黄色い声が煩わしく聞こえた。