第十三話
第十三話
受話器を片手に、ペンを走らせる。
「ではこの日程でよろしかったですか」
「ええ、いやー本当に楽しみにしてたのよぉー」
甲高い声が嬉々として弾む。
一通り会話を終え、電話を切る。
深いため息をついた。
ここ数か月、レジや荷物の受け取り程度でしかまともに話さなかったからか、言葉を交わすことに緊張が伴う。
ちゃんと受け答えできていただろうか。
履き掃除をするため、竹箒を片手に玄関に向かう。
空を見上げると、青々とした樹木が手を招く。
昼は気温が上がって、帯周りが汗ばんできた。
そろそろ衣替えの時期だろうか。
二階の空き部屋から単衣を引っ張り出さなければな。
初めに着物の説明を受けたときは、どれがどう違うのか見当もつかなかったな。
特に単衣と夏物の時期なんて、どう区別したらいいのか。
それにしても、やけに夏物は硬かったな。
糊のつけたワイシャツでもここまで硬くならないぞ。
衣服にケチをつけたところで変わりはしないのだが。
考え事をしながら落ち葉を掃く。
所々に萎びた桜が混じり、ただのごみの塊に色がついた。
右側を掃き続けていると、視界の隅に白い人が映った。
なんだ少年か。
遠い先には少年が片手を伸ばし、飛び舞う蝶をつかもうとしていた。
すっと指をさす。
そうか誘っていたのか。
掃除に戻ろうと、箒に手をかける。
するとその音で、蝶は山奥へ飛んでしまった。
驚いたであろうまん丸い瞳が、罪悪感を募らせる。
今日のおやつはどら焼きか。