第十二話
第十二話
襖が開く。
居間の蛍光灯に当てられる白い顔が、うっすらクマが出た目元を強調する。
やや誇らしげな表情が物語っていた。
ついに作品が書けたらしい。
「よかったですね。乾く間にお茶にしましょう」
他人事のような返し方をしてしまった。
それでも少年は頷き、俺が座る向かいに腰かけた。
習字紙を新聞紙に広げる。
どれも同じ格好に、気味の悪さを覚えた。
書道って、こんなに枚数を書くものなのか。
数百はあるであろう墨の波が、隣室より流れ込む。
ここまで来ると、どれだけ書いたかよりも、どうやって書いたのかが気になるところだ。
これのどれかが一枚数百万となる。
変な話だ。
きっと、俺が殺した人間よりも、彼の書の方が価値があるのだろう。
きっと、そんな俺よりも、彼の方が貴重な人間なんだろう。
手際よく作業を終わらせようとするが、重い腰が言うことを聞かない。
ひとしきり乾いたころ、彼に書を見てもらった。
両脇に同じ文字が並ぶさまは、部屋の薄暗さも重なって、奇妙な空間となり果てた。
少年は静まった波に足を鎮めるがごとく進む。
少年はまじまじと紙に目をやり、両脇の奥の方に行くときには、自分が書いたものを踏みつけていく。
それはさながら命の選別のようだった。
踏みつけた紙はちり紙にもならず、ごみ袋に押し込まれることとなる。
そこに罪悪感が梅雨一つとして落ちないのは、その踏みつける物が生きていないからだ。
だから彼はまだ清らかでいられるんだろう。
真っ白な足筋を伸ばし、右から左へと揺れる後ろ背を見る。