表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/24

第十二話

第十二話

 襖が開く。

 居間の蛍光灯に当てられる白い顔が、うっすらクマが出た目元を強調する。

 やや誇らしげな表情が物語っていた。

 ついに作品が書けたらしい。

 

 「よかったですね。乾く間にお茶にしましょう」

 他人事のような返し方をしてしまった。

 それでも少年は頷き、俺が座る向かいに腰かけた。


 



 習字紙を新聞紙に広げる。

 どれも同じ格好に、気味の悪さを覚えた。

 書道って、こんなに枚数を書くものなのか。

 数百はあるであろう墨の波が、隣室より流れ込む。


 ここまで来ると、どれだけ書いたかよりも、どうやって書いたのかが気になるところだ。

 これのどれかが一枚数百万となる。

 変な話だ。


 きっと、俺が殺した人間よりも、彼の書の方が価値があるのだろう。

 きっと、そんな俺よりも、彼の方が貴重な人間なんだろう。

 

 手際よく作業を終わらせようとするが、重い腰が言うことを聞かない。




 ひとしきり乾いたころ、彼に書を見てもらった。

 両脇に同じ文字が並ぶさまは、部屋の薄暗さも重なって、奇妙な空間となり果てた。


 少年は静まった波に足を鎮めるがごとく進む。


 少年はまじまじと紙に目をやり、両脇の奥の方に行くときには、自分が書いたものを踏みつけていく。

 それはさながら命の選別のようだった。

 踏みつけた紙はちり紙にもならず、ごみ袋に押し込まれることとなる。


 そこに罪悪感が梅雨一つとして落ちないのは、その踏みつける物が生きていないからだ。


 だから彼はまだ清らかでいられるんだろう。


 真っ白な足筋を伸ばし、右から左へと揺れる後ろ背を見る。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ