5-3
◇ ◇ ◇
電子レンジに入れてタイマーを回し、待つこと三分。チーンという音とがして扉を開けると、食欲をそそる香りが鼻孔をくすぐる。
「最近の冷凍食品は凄いよねー」
ミトンを付けた手で中のものを取り出すと、お母さんの口癖を真似ながら被せていたラップを外す。
お皿の上では、ほっかほっかのオムライスが完成していた。
冷蔵庫から取り出したケチャップをかけてスプーンで掬うとぱくりと口に含む。
「うーん。美味しい!」
卵の優しい味わいとケチャップの酸味が混ざり合い、絶妙のコンビネーション。昔の冷凍食品のクオリティについては知らないが、今現在の冷凍食品が凄いという点については同意できた。
週末の日曜日となるこの日、お父さんはゴルフ、お母さんはお友達とお出かけに行ってしまったので、ひとりっ子の雫は一人で留守番をしていた。
お母さんは雫だけで留守番させることを気にしていたが、もう高校生なのだからと笑って送り出した。きっと、今頃羽を伸ばして普段は食べないような美味しいランチを堪能していることだろう。
そして当の雫はクッキング部なこともあり、料理好きだ。
当然自分で料理するつもりだったのだけど、いざ冷蔵庫を開けたら夕食の食材以外ほとんど何も入っていなかった。雨の中を買いに行くのも面倒くさくなって、冷凍庫まで漁ると、冷凍食品のチキンオムライスが出てきたのでそれをお昼ご飯にすることにしたのだ。
「そうだ。さくら祭で出す料理、冷凍食品はどうかな……」
ふと思いついて独りごちる。
あの日、久保田くんに『さくら祭で出す料理を考えてみる』と約束したので、自分なりに誰が調理係になっても大丈夫な料理を考えてみた。
結果、思いついたのは『サンドイッチ』と『フランクフルト』。あとは『カレー』『ビーフシチュー』『クリームシチュー』と見事に液体系ばかり。
なんともアンバランスなメニューにどうしたものかと悩んでいたので、今お皿に乗っているチキンオムライスは目から鱗の救世主に見える。
これなら火を使わずに電子レンジさえあれば誰でも作れるし、世の中にはから揚げやアメリカンドックの冷凍食品もあるはずだ。それに、そんなに高くない値段で提供できるはず。
「よし。週明けに学校でみんなに提案してみようかな……」
空になったチキンオムライスの袋には、食品加工会社の名前が記載されていた。よくよく考えると、カレーもビーフシチューもクリームシチューも、ルーを使えば誰でも簡単に同じような味で作れる。
──こういうのって、どうやって作っているのかな?
インスタントラーメンの始まりが日清食品の創業者である安藤百福氏であるのは伝記で読んだことがあるけれど、他のインスタント食品のことは何も知らない。
部屋に戻ってからちょっとした好奇心が湧いてスマホで調べていると、机の脇の窓ガラス越しに青色が動くのが視界の端に映った。目を向ければ、隣に住む侑希がちょうどどこかに出掛けるところのようだ。透明のビニール傘を持ち、イラストがプリントされたTシャツにジーンズ姿で、背中に黒のリュックサックを背負っている。
──塾かな? それとも、友達と遊びに行くのかな?
雫は立ち上がって窓の前に立つと、雨の中遠ざかる後ろ姿を眺める。
今日行くところに、侑希の好きな人がいるのだろうか。
未だに雫は、侑希の好きな人のことをよく知らない。聞いてもいつものらりくらりとはぐらされてしまうのだ。
なんとなくモヤッとした気持ちを感じ、胸に手を当てて首を傾げる。
気分転換にテレビでも見ることにした。




