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3-3

 

    ◇ ◇ ◇


 夏休み前最後の週末となる金曜日、雫は侑希とすみれ台図書館の自習室にいた。


「英語はさ、単語を全部覚えていると大変だから、一緒に派生語も覚えるといいよ。例えば、今出てきたcompeteが『競争する』っていう意味の動詞だって覚えていれば、competitiveやcompetitionっていう単語を知らなくても、語尾にtive、tionが付いているからcompeteの形容詞と名詞だってなんとなく想像がつくだろ?」

「あ、なるほど」


 説明する侑希の前髪が、さらりと額にかかる。


 これまで、雫は英単語を一つひとつ単語帳に書き写し、丸暗記していた。だから、とても効率が悪くてなかなか覚えられなかった。

 こういうふうに覚え方をすればいいのかと目から鱗。まだ二回目だけれど、侑希の教え方はとてもうまい気がする。


 夜八時の五分間になると、自習室に閉館を知らせる音楽が鳴る。オルゴールを鳴らしたような優しい音楽が聞こえ、雫は机に広がっていたノートや教科書を片付け始めた。


 帰り際、図書館の出入口にある市や地域からの情報が掲載された掲示板がふと目に入った。

 雫はそこに、来月上旬に開催される花火大会のお知らせが掲載されているのを見つけた。


「もうすぐ花火だね」

「そうだな」

「侑くんは行くの?」

「まだ決めてない」


 侑希は雫の横に立ち、掲示板のお知らせに見入る。日程は、例年通り八月の第一土曜日だ。


「雫は?」

「私もまだ決めてないよ」


 去年の夏は、中学三年生で中学最後の夏だった。

 だから、中学校の同級生たちと十人くらいで待ち合わせしてみんなで花火を見に行った。


 すごい人混みで、途中ではぐれたりしたこともあり、結局花火が始まったときに一緒いたのは四人くらいだった気がする。たしか、侑希も一緒だった。彼女と行かないのかなぁと不思議に思ったから、よく憶えている。


 ──今年は誰と行こうかな。


 夏帆ちゃんは彼氏である松本くんと一緒に行く気がするから駄目だろう。仲良しの美紀(みき)ちゃんか、クッキング部も一緒の優衣(ゆい)ちゃんを誘ってみようか。


 そんなことを考えていると、ふと名案を閃いた。


 縁結びの神様であるさくらは、花火の夜は機嫌がいいから多くの縁が結ばれると言った。だから、これを利用しない手はないのでは?


「ねえ、侑くん。今度の花火大会、好きな子を誘ってみれば?」

「え?」


 雫の提案に、侑希は驚いたような顔をした。


「一緒に花火見るなんて、ロマンチックじゃん。誘ってみたら?」


 侑希が好きな人が誰なのかは知らない。けれど、未だに侑希が他校の彼女と別れたことを、学校で殆ど誰にも言っていないところをみると、さくら坂高校の人ではない気がした。


 となると、相手は同じ塾の女の子とかだろうか。

 とにかく、あまり会う機会のないその子と親しくなる絶好のチャンスだと思ったのだ。それに、侑希みたいな男の子に誘われて嫌だと感じる子はそんなにいないと思う。


「花火大会? ──うん、誘ってみようかな」

「うん、頑張れ!」


 肘を折って両手を顔の横に持ってくると、拳を握って頑張れのポーズをした。笑顔で見上げると、侑希が釣られるようにくすりと笑う。


 ──よし! 頑張れ!


 心の中で精一杯のエールを送った。


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