9話
令和最初の投稿
いつものように西郷さんとダンジョンに潜っていると幸運な事に宝箱を見つける事が出来た。
この宝箱、誰がどういう目的でダンジョンの中に置いているのかは不明だが、ゲームや物語のように中からは強力な武器や珍しい品物が入っている事が多く、今ではどのダンジョンでも争奪戦になっている。
勿論、宝箱は早い者勝ちで直ぐに無くなってしまう為、俺自身遭遇したの数少ない回数だ。
「あら、珍しいですね」
「そうですね。じゃあ、開けてみましょうか」
宝箱に近づき、本物――偶に偽装モンスターかどうか罠が仕掛けられていないかなどを簡単に確認した後にそれを開く。
今回は幸運な事に鍵無しのタイプだったので何の抵抗も無く開く宝箱。
西郷さんがいるからこそ口には出さないが、内心では効果音を鳴らしながらも開けた宝箱の中身は何やら液体の入った小瓶と金属の延べ棒だった。
流石に鑑定などのスキルを持ってないし、今まで潜っていた時にも見た事の無い物だけに俺にはそれが何なのか分からなかった。
念のために経験豊富な西郷さんにも聞いてみる為に両方とも手に取って振り返る。
「これは何でしょうね?」
「……私もこの二つはちょっと分からないですね。ただ、恐らく小瓶の方はポーションか何かだと思います」
どうやら西郷さんの様子からしても下手に飲むべき物ではなさそうだ。まぁ、本当にポーションならいいけど、毒薬とかだとまずいから協会での査定が済むまではそのままにしておこう。
それに金属の方も重さとか色とかで判別できる物でもないからこっちもそのままだな。
「じゃあ、二つともそのまま査定に回しましょうか?」
「そうね。それでいいわ」
その言葉に二つをアイテムボックスに入れ、他に何か取り忘れが無いかを確認する。
「そろそろお昼にしない? 近くにセーフティーエリアが有るし」
「ちょっと早い気もするけど運の良い事に宝箱を見つけれた事ですし、周りにモンスターが湧くような事も無さそうですからそうしましょうか」
決まれば早いものでセーフティーエリアに向かう途中にモンスターと出会わなかった事も有って無事にたどり着く。
まだ時間が少し早いという事も有って人の少ないセーフティーエリアの一角に荷物を置いて昼の準備を始める。
まず取り出したるは当社初のマナ式ダンジョン探索用品として発売され、今も根強い人気を誇るマナ式調理補助用品の『竈代わり』。
元々は既存のキャンプ用品として販売していた物をマナ式に改良しただけ有って、設置は簡単で置くだけ設置、火力も簡単操作で弱から強まで直ぐに調整でき、コンパクトで持ち運びやすい一品になっている。
入社してから従業員割引で買った一品ながら評判通りなだけ有って本当に使いやすい。
そうして調理していき出来上がった物を器に移し替えて西郷さんにも渡す。
「今日のお昼は簡単にですが、白米と味付け肉の野菜炒めです」
「あら、美味しそうね。やっぱりアイテムボックス持ちは羨ましいわ」
今まで念のために辺りを警戒してくれていた西郷さんはどうやら匂いと見た目からも喜んでくれたようで嬉しそうに食べ始める。
既に何日も一緒にダンジョンに潜っている事も有って俺の作った物でも問題無く食べてくれるのは嬉しい。
どうしても今までとは違う人とダンジョンに潜るとなるとお互いに有る程度経つまではそんなに相手の用意した食事を口にするとかは少ない。特に西郷さんみたいな経験をした人ほど時間が掛かる。
まぁ、俺の場合だと前から契約していた会社の人間で他にもそんな事をする必要やした時の面倒事を考えると無いと思われたんだろうな。実際、そんな問題になるような事をしようとも思わないから良いけど。
「それで来週からはそろそろ三十階のボス部屋に挑む?」
「えぇ、それで良いと思います。ただ、俺は他のダンジョンとはいえ三十階以降はほぼ行った事が無いようなものなので……」
「そう。なら、来週は特に問題が無ければ初日にボスを倒してその後は三十一から三十三階辺りで探索して戻るようにしましょう。出来れば何日かダンジョン内で過ごしたい所だけど?」
「こっちは大丈夫です。西郷さんの方こそ良いんですか?」
「ふふふ、ダンジョン内ならね」
心配になって聞いてみると不敵な笑みを返される。
確かにレベルも含めてどうにかしようとしても反対にやられるだけだろうけど、実際にその事をやんわりと言われると心にグサッと来るものがある。
「では、来週の予定はそのようにしましょうか」
出来るだけ顔に出さないようにしながら食事の後片付けをしていく俺だったが、西郷さんはお見通しのようでクスクスと笑っていた。
「そういえば、さっき金属のインゴット手に入れたけど、武器は新調しないの? 今、使ってるのは結構前から使ってるんでしょ?」
「えぇ、幼馴染たちと別れる時にまた深くまで潜る事は無いだろうとその時に使っていたのを渡してからの付き合いですね」
「へぇー、珍しい事したのね。普通はそんな事しないで持ってるものでしょう?」
その感じだとドロップ品だったんでしょうしと面白そうな顔をしながら言ってきた西郷さんに苦笑してしまう。
まぁ、確かに宝箱からのドロップ品でそこそこ良い物だったナイフと一緒にあの頃の思い出も少し思い出す。
「まぁ、今はこんな状況ですがその時はこんな風になるなんて思っていなかったんで」
「そう……。話は戻るけど良かったら今回のインゴット使って新しい武器作っても良いわよ?」
「いえ、そんな訳にはいきませんよ」
既に西郷さんは俺と一緒にずっと潜っていく事を考えているようでありがたい事にそんな事を言ってくれるが、俺としてはまだ踏ん切りがつかないから断る。
しかし、西郷さん程になるとオーダーメイドで武器を依頼できる場所を知っているんだな。悲しいかな俺はそんな場所を知らないし、それだけで自分との違いで嫌になりそうになる。
「そう? 別に気にしなくてもいいわよ。なんなら査定だけしてもらって持っていればいいのだから」
「……じゃあ、そうします」
どうやら何を言っても聞いてくれなさそうな西郷さんの様子に俺はそれを受け入れる事にした。
まだ俺と西郷さんしか探索者活動できる者はいない。勿論、怪我さえ治れば桐野さんも合流してくれるだろう。
ただ、それでもダンジョンに潜るとなると人数が足りてないだろうな。部長たち上層部も含めて何かしら手を打ってくれているとありがたいんだけどどうなんだろうな。
たぶん、新卒採用で探索者枠を設けるだろうけど、俺みたいな人は少ないだろうから数年はたぶんダンジョンに潜る事になると覚悟しておこうか。
「どうしたの?」
「いえ、ちょっと今後の事を考えて……」
「まぁ、今回見たいに宝箱が見つかるのは少ないでしょうね」
どうやら西郷さんは俺の考えた事を勘違いしているようだった。
まぁ、それも仕方ないだろうな。宝箱自体がそう簡単に見つかる物でも無いし、今回の中身がポーション系とインゴット系という自分たちで使うだけじゃなく、協会に売った場合を考えても割の良い内容だった訳だし。
これでどっちも、若しくは片方でも今までに見つかってない物だった場合はかなりの高額での買い取りになるからなぁ。
「私もあまり見つけた事が有る訳じゃないけど、今回の中身は当たりだと言えるわよ?」
「そうなんですか?」
「えぇ、確かに武器とかが出たら特に当たりって言われるけど、ポーションなら傷や病気が治せるから自分で使わなくても需要が物凄く高いし、インゴットも同じように武器とか自分の好きな物を作れるから以外と需要が有るのよ」
それに武器が出ても使った事の無い物や特殊効果が有ったとしても使い勝手の悪い物だったら宝の持ち腐れでしょうと言った西郷さんの言葉に思わず俺は確かにと思った。
だからこそ、西郷さんは俺にインゴットの扱いをあんなに強く勧めたんだろうな。
まぁ、そこまで聞くと売らずに持っている方が良いのは分かるし、今後もし本当に最深層を目指すように思うか分からないけど、何が有るか分からないだけに持っていよう。
周りを警戒するように見ている西郷さんをぼんやりと見ながら俺はそんな事を思っていたのだった。