8話
思い出すのは高校時代の事だった。
一番機の知れた中の知り合いとダンジョンに行っていて充実していた頃の事だ。
『いつか一緒に最深層に行こう』
それが俺を含めた全員の気持ちだった。
だから俺は皆と一緒に過ごせないと分かった時は悔しかった。
自分でも分かっていたのだ。皆といればいずれ最深層とはいかないまでももっといい所まで行けるというのは。
「ははは、そう思って貰えるなんて嬉しいです。でも、それは諦めたんです……」
「そう? 見た限りでは諦めたようには見えなかったわよ」
「諦めたんですよ……、本当に。それより西郷さんは良かったんですか、俺みたいな奴とダンジョンに潜る様になって」
誤魔化すように気になっていた事を聞いてみる。
不思議だったんだ。西郷さんの実力を考えれば態々会社に勤めなくても契約探索者のままでやっていける実力があるから。
そんな俺の言葉にじっとこっちを見てから西郷さんは口を開いた。
「そうね。普通に考えれば可笑しいと思うわよね」
どこか遠くを見ているような表情を見せる西郷さんに俺は何も言えなかった。
そして、暫くお互いに言葉を口にする事なく時間が過ぎる。
「話してなかったけど、私のいたパーティーが解散した理由は特異進化種に負けて他のパーティーに見捨てられたからなの」
特異進化種に見捨てられた……。西郷さんの言葉に俺は驚く。
ダンジョンで出るモンスターの種族は生まれ落ちた時に決まり、それは変わる事が無い。ただし、唯一つの例外を除いて。
そう、自分より強い者を倒し、その力を吸収するという唯一つの例外さえクリア出来ればどんなモンスターも進化する。そして、その進化したモンスターこそ特異進化種で有り、通常よりも格段に強い力と知能を得ると言われている。
しかし、西郷さんの言った他のパーティーに見捨てられたというのがよく分からなかった。
そんな俺の表情を読み取った西郷さんは言う。
「特異進化種に襲われた後、私たちは必死にセーフティーエリアを目指したわ。
そして、たどり着いた……」
その時の事を思い出しているようで西郷さんの表情は険しかった。
「でも、傷を癒す道具は尽きてて譲ってもらおうと声を掛けたんだけど、全員に断られたわ。階層的にも無理が有ったんでしょうね。大半がまだまだこれから探索するようなパーティーばかりだったわ」
確かに西郷さんたちが探索していた深さから考えると余分なポーションとかが有っても不慮の事態を警戒して他のパーティーに譲るかと言われると微妙だろうな。それも自分たちが探索前としたら特に。
「その反応に私たちは無理をしない程度に早くダンジョンから出るのを決めたの。それでその後は何とか地上に戻ってきたけど、怪我が悪化していたりしてご存知の通りにパーティーの解散が決まったの」
「そう、だったん、ですか……」
「別に恨んでいる訳じゃないのよ。でもね、あの状況であんな事になったら同じ力量を持っていようとその人たちと一緒に行動したいと思えない」
確かに最深層を目指すならその人たちと組む方が良いんだろう。でも、西郷さんにとってはその事が引っかかって無理だった訳だ。……、その気持ちはなんとなく分かる。
ちらつく自分の嫌な記憶と西郷さんの顔を見れば俺だってそんな人たちと組むのは嫌になっていただろうな。
「だから、俺と組むことにしたんですね」
「そうね。正直、最初に話を聞いた時は断ろうと思ったんだけど、貴方の事を聞いた時に霧江が会ってみたいって言うし、一回だけならって話で貴方と会ったの」
「俺はお目に適いましたか?」
「えぇ……。だからこそ貴方には一つだけお願いが有るの」
こっちを見ながらニッコリと笑う西郷さん。
正直、無理難題じゃない限りはそのお願いとやらを聞くつもりだけど、何を言われる事やら。
「お願いですか?」
「そう、仕事とか関係なく最深層を目指すって事を」
「最、深層を……」
「さっき貴方は諦めたって言ったけどどう見ても私にはそう見えない。何より私はパーティーが解散したとはいえ、今もまだ最深層を目指しているわ。だからこそ、一緒に組む事になる貴方にも最深層を目指してほしいのよ」
その顔は真剣で本当に目指している事が分かる。
だから、俺は悩んでしまう。
確かに昔は勿論の事、今も機会が有ればと思って過ごしていたのは事実だった。
でも、それはifの話でこうやって目の前にそのチャンスが巡ってきてしまうとどうしても二の足を踏んでしまう。
「別に今すぐ決めろって言わないわ。でも、私は目指しているという事を頭の片隅に覚えていて欲しいの」
「わか、りまし、た」
その眼差しに俺はそう言う事しかできなかった。でも、西郷さんはそれで納得してくれたようだった。
「最深層か……」
前を歩く西郷さんの姿を見ながら俺はさっき言われた事を思い出していた。
探索者になって最深層を目指すというのは今までも確かに考えた事の有る選択肢の一つで何らかの事が有る度に真剣に悩んだ事が有る。
それでも人からそういった事を言われた事が無かっただけに今回の西郷さんの言葉には動揺を覚えた。
襲い掛かってくる敵を全て一太刀で撃退するその姿から目指している事が嘘じゃないことが分かるだけにこの先どうするを真剣に考えなくてはいけないような気がする。
でも、本当に俺は最深層を目指していいのだろうか。
あの時、簡単に諦めた俺が今更そんな事をやっていいのか。
そんな思いがあの時見たあいつらの顔と一緒に思い浮かんでしまう。
「ごめん!! 一体、そっちに行った」
「えっ、って!?」
西郷さんの声に驚いて前を見ると確かに一体のラットが俺に向かって飛びかかってくるところだった。
「うぉっと!!」
「ヂューー」
大きく口を開けて噛みつくつもりだったラットを避けてお返しとばかりにナイフを突き刺す。
そのままドロップ品すぐに拾うと西郷さんの方へと顔を向ける。
一匹抜けてきたという事はそれだけ多くに襲われているのではと思った俺だったがそれは杞憂に終わった。
目を向けた先には最後の一匹を倒したのか、武器を振り切った西郷さんの姿が有った。
「やっぱり、凄いな……」
西郷さんの周りでドロップ品に変わっていくラットの数と息を切らした様子の見えない西郷さんの姿にそう思ってしまう。
どうやら西郷さんもドロップ品を拾い集めたようで申し訳なさそうにこっちを見た後に一度気合を入れてからまた歩き始めた。
そんな姿に置いて行かれるのはマズいので俺も後を追う。何か今までとは違うような事を考えながら。




