39話
新人が入社後の事を決めてから少し時間が経って週が明けた月曜日。
出社してパソコンを起動させると何通か届いているメールの中に人事部の相模部長からの物が混じっている事に気が付く。
どうやら何か話したい事が有るらしく、出社したら人事部に顔を出して欲しいと書いて有った。
まだ幸太たちも出社していない事も有ってちょうど良い。ホワイトボードにその事を書いて俺は人事部に向かう。
しかし、何の話だろう。特にこれと言って思い当たるような事は無いんだけど。
途中、出社してきた幸と会い、人事部に行くことと今週の希望を出してもらう事を伝える。
幸も人事部に呼ばれた事を不思議に思っていたようだったので、内容によっては戻ってから話す事を約束した。
幸と別れて向かった人事部ではすんなりと相模部長の元に案内される。
「おはよう。急に呼び出して悪かったわね」
「おはようございます。メールでは話したい事が有ると言う事でしたが?」
軽く挨拶をした後に案内されたのは前にも来た事が有る小会議室だった。
お互いそのまま対面で椅子に座ると相模部長が今日呼んだ理由を話し始める。
「今日、来てもらったのは探索部門としての意見を聞きたいからなの」
「意見……、ですか?」
「えぇ、ちょっと新卒採用で入社する予定の学生さんから聞かれた事があって」
学生から聞かれた事で俺に聞かないと駄目なような事ってなんだろう。
正直、そんな思い当たるような事は無いと思うけど。
「その、入社予定の学生さんはどうやら姉弟二人でパーティーを組んで探索していたらしくて、入社後に一人になってしまう弟が心配らしくもし可能であればアルバイトとかで探索者として雇って貰える事はできるかと聞かれまして……」
「あぁ、そういう事ですか……」
思い出すのは自分が進学を決めた時の事だった。
あの時は俺一人だけだったからそこまで問題なくパーティーから離れる事が出来たんだと思うし、そのまま探索者を続ける人数が多かったのも良かったんだろう。
「その、弟さんが他のパーティーを探したりしないんですか?」
「それが、弟さんは高校二年生で四月から三年生になるらしいのだけど、周りの学生パーティーは過去に一度断ったり、学年が学年だから増やすよりは解散したりするパーティーばかりらしいの」
まぁ、その頃だと確かにパーティーメンバーを増やすとこはほぼ無いに等しいよな。……あいつ等も俺が辞めた後に人を増やしてはなかったし。
「あー、そうなんですね。しかし、学生ですか……」
「えぇ、今の探索部門って基本的に日帰りで探索していないでしょ?」
「はい、現状で新人を入れた場合は潜るダンジョンを変えようとは考えてましたが、探索時間に関しては慣れるまで日帰りでその後は今のように数日滞在の予定でした」
「そうなると学生さんをアルバイトでってのは難しいわよね?」
「流石に平日は学校が終わってから一人で潜って合流なんて意味ないですし、だからと言って休日に揃って潜るのも微妙な気がします」
「そうよね。だとすると断るしかないわね」
もう少し時間に余裕が出てくる大学生……できれば三年生か四年生辺りだと青田買いも出来そうだから有難かったんだけど。
まぁ、そう簡単にうまい話は無いよな。
「正直、今後も探索者部門に人を増やしていく事を考えると勿体無い気はするんですが……」
「羽生君の言った事も分かるけど、流石にそれで探索部門としての仕事に影響が出る可能性が有るならそれはいいわ」
何か考えるような素振りを見せる相模部長の様子に俺は何かいい手はないかと頭を回転させる。
「では、プライベートでの交流は認めてもらっても良いでしょうか?」
「えぇ、姉弟という事もあるし、プライベートの事までは口を出さないし出せないわよ」
良かった。なら、余裕が有るときはできるだけ関わるようにしても良さそうだな。
それにある程度の実力とかが有るようなら何かしらの仕事を頼めるようにするのも一つの手だろうし。
「じゃあ、そういう事で今回の話は終了よ」
「分かりました。他のメンバーにも今の事を伝えても良いですか?」
「えぇ、良いわ。現状では会社としては関わる事は出来ないだけでプライベートに関しては個人に任せるって事でお願い」
「はい、失礼します」
そのまま相模部長と別れて俺は探索部門に向かうのだった。
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