七夕イベント
本編より少し先の時間軸の話です。
また、新キャラが一人いますが本編でも登場予定のキャラクターになります。
最後に急いで書き上げた為に誤字脱字が多く有る可能性が有ります。
昔々、遥か高くそびえ立つ天幻山に流れる幻天川の源泉の傍に一人の娘が住んでいました。名前を緒璃姫と言いました。
緒璃姫は機を織って、神界に住まうと言われる神々の衣服を作っては天幻山の頂上に有る神殿に納める仕事をしていました。
緒璃姫は日々変わらない生活を送っていると天幻山の麓の集落で牛を飼っている陽湖保史という若者が緒璃姫を訪ねて天幻山を登って来ました。
久しぶりに人と会った緒璃姫は緊張しながらも陽湖保史と会い、そして、一目見ただけで恋に落ちたのでした。
それは陽湖保史も同じだったようで明くる日もまた明くる日も陽湖保史は仕事を忘れて緒璃姫に会いに行きまた。
そんな二人はお互いに仕事を忘れ、緒璃姫の家で過ごす時間が長くなっていきました。
ある晴れた日、いつものように二人が過ごしていると突然大きな音と共に雷光が天幻山の頂上に落ち、今までの晴れた空が嘘のように曇って大粒の雨が降り出しました。
余りに急な事に驚いて外に出た二人の前にまた雷鳴と共に一筋の雷が落ちました。
眩い光に手で顔を覆っていた二人がその手を下に下すとそこには一人のボロボロになった服を着たやせ細った老人が怒った顔で立っていました。
陽湖保史は知らなかった事ですが、緒璃姫の織った衣服を神殿に納めるように陽湖保史の育てた牛を使った料理も神殿に納めていたのです。
自らを神というその老人は二人に対して「己の仕事を忘れるような者たちには天罰を下す」と言い、何か呪文のようなものを唱えます。
すると緒璃姫の周りに光が集まり、緒璃姫を覆い隠して徐々に空へと上がっていってしまいます。
その事に焦りを覚えた陽湖保史がどうにか緒璃姫の身体を掴もうと手を伸ばしますが、まるでそこに何も無いかのように掴む事が出来ません。
そして、空へと光が消えるのを見送ると老人はその姿を消してしまいます。
あまりに突然の事に呆然としていた陽湖保史でしたが、老人の言っていた事を思い出して後悔と落胆した気持ちで山を下りていきました。
次の日、陽湖保史が緒璃姫と会えない悲しみに暮れながらも牛の様子を見に行くと弱り切った姿でありながら陽湖保史の姿を見て怒りの様子を見せる牛がいました。
その様子に自分のやっていた事を更に後悔しながらも会えない緒璃姫の事を忘れようと必死で世話をする陽湖保史でした。
そんな日々を過ごして少しだけ牛の様子が緩和したように感じた日の夜、寝ていた陽湖保史の夢にあの時見た老人が現れました。
どうやら緒璃姫も陽湖保史に会えない事で悲しみに暮れている事、真面目に働きだした陽湖保史の様子とそれを見て、一生懸命に機を織りだした緒璃姫の様子から「一年に一度だけ、緒璃姫を連れて行った七月七日に天幻山頂上の神殿で会っても良い」と陽湖保史に言いました。
それから一年に一度だけとはいえ、緒璃姫に会える機会が有る事を楽しみにしながら 陽湖保史は知らなかった事ですが、緒璃姫の織った衣服を神殿に納めるように陽湖保史は今まで以上に牛に気を掛けて仕事し、緒璃姫も同じように仕事に精を出しました。
そして、待ちに待った七月七日になると 陽湖保史は知らなかった事ですが、緒璃姫の織った衣服を神殿に納めるように陽湖保史は朝から仕事をし、昼には納める料理を神殿に届ける仕事を引き受けて神殿に向かいます。
緒璃姫に会える事で辛いはずの山道を背中に背負った荷物の重さを感じないかのように足早に登っていきます。
そして、たどり着いた神殿に荷物を納めた瞬間、眩い光と共に緒璃姫がその姿を現しました。
短い時間ながら互いに好きな人と過ごした二人は名残惜しさを感じながらもまた一年後に会う事を約束して生活を送るのでした。
『……という事でイベントを開催する!!』
長々とした話を突然聞かされたと思ったらそう告げる管理者の言葉。
久しぶりのイベントという事も合って探索者たちは喜びを爆発させた。
『今回はどのダンジョンに入っても同じイベントの階に繋がるようになるからいつものモンスターは一切出ない。そして、誰もがイベントの最上位報酬が手に入る訳じゃないから注意しろ』
いつもダンジョンで出るモンスターが一切出ないという事に頭を悩ませるのは協会とモンスタードロップを取り扱っている企業、そして各国の政府だった。
『で、開催日は察しの良い者は分かってるだろうが、七月七日の一日限定!!』
予定を考え直す探索者たちが様々なところに連絡したりする姿を見せる中でどんどん続く話。
『後、前日からダンジョンに入ってる場合は日付が変わった瞬間にダンジョンから追い出されるようになってるからな。じゃあ、当日を楽しみにしてな!』
そう言って管理者は話を終わらせるのだった。
「さて、という事だけど一度ダンジョンから出て会社に顔を出したいと思うんだけど……」
そう言って三人の様子を伺う俺。
「別に私は良いわよ」
「俺も良いですよ」
「はい、私もそれで良いです」
幸達三人も特に問題無いようだったので直ぐに来た道を引き返す。
道中で話題になるは当然イベントについてだった。
「あの話の後にイベント開催の発表だったって事はたぶん七夕を元にしたあの話がそのままイベント内容になりそうですね?」
そういう幸太の言葉に少し考えてみる。
確かにそうじゃなければわざわざあんな話をする必要は無いだろう。
「たぶん、そうでしょう。ただ、最初からって訳では無いでしょうけど」
「そうですね。私的には離れ離れになってからの話の部分だと思いますが……」
幸と晴名の意見に確かにと思う。
最初からよりはその部分からの方がイベントとして使いやすい気がするし。
「そうなると山を登る事にはなりそうだな」
「後はどんなモンスターが出るか……、恐らく牛は有りそうですね」
「たぶん、毒とかその辺りの攻撃もしてきそうな気もするから回復薬とかも用意したい」
ちょっと悩みながら幸太の予想に有りそうな事を話す。
「あー、弱り切ったって所ですか?」
「そう、そこ。元ネタの一般的に知られてる七夕の物語ってそこが病気になってるって風だから」
「えっ、そうなんですか?」
驚いた様子を見せる晴名だったが、俺には何に驚いたのかが分からなかった。
幸太も俺と同じだったのか、驚いたように晴名の方を見ていた。
そんな俺と幸太の様子に心配になったのか幸の方を見る晴名だったが、幸もよく分かってないようで不思議そうな顔をしているのを見て恥ずかしそうに顔を赤く染めながら話してくれた。
「あの、七夕の話って……、織姫の羽衣を彦星が隠して一緒に住むようになったある日に隠されてた羽衣も織姫見つけて……って話じゃないんですか?」
「えっ、それってハッピーエンドっていうか一年に一度会う話は何処?」
晴名の話に幸太が驚いて聞き返す。
確かに幸太の言うように一年に一度会う話が無いし、晴名が言ったような話を聞いた記憶が俺には無かった。
「あー、たぶんだけど晴名の言ってる七夕の話ってテレビアニメとか絵本で有った筈よ」
「知ってるのか?」
「違うかもしれないけど、確かそういう感じの七夕を元にした子供向けの作品が有ったと思ったわ」
思い出しながら話す幸の姿にそんな作品も有ったんだと驚く。
ただ、子供向けにしてはなかなか凄い話だなとも思うが、よく考えると昔話や童話でも残酷な話もあるし。
「……たぶん、それだと思います。確か、絵本を読んで覚えていた話だった筈なので」
「そうなんですね。そんなのが有るとは知らなかったです」
「そうだな。俺も初めて聞いた話だったしな」
そんな話をしているうちに俺たちはダンジョンから出るのだった。
七月七日当日、ダンジョンは朝から大盛況だった。
潜る者も多くいたが、傷を負って引き揚げてきた探索者も朝から多くいたからだ。
引き揚げた探索者たちが協会に持ち込んだドロップ品と情報から今回のイベントで変化したダンジョンは新人には危険な物だと判断される。
直ぐにその情報は公開され、まだダンジョンに潜っていない探索者たちに伝えられた。
そして、それはまだダンジョンに潜ってなかった俺たちも知る事で潜る前から予定を立てれる事出来た。
まだ戻ってきていない探索者も多いために分かっている事は少ないながらも最初は草原で暴れ狂った牛、次が草原から見える恐らく天幻山だろう山の中腹から麓にかけて広がる森に入って行く事になるだろう。
そして、全員が集まった俺たちもどんどんと潜っていく他の探索者に続く形でダンジョンへと足を踏み入れる。
情報通りに目の前に広がった光景では他の探索者たちが既に暴れ狂った牛を相手に戦っているのが見える。
どうやら探索者の人数も多いが、それ以上に牛が湧いているようで次から次へと襲い掛かっているようでなんとか捌きながら森へと向かう姿も見えた。
俺たちも他の探索者たちと同じように牛を狩り始め、ある程度魔石以外のドロップ品を確保できた所で森へと足を向ける。
戻ってくる探索者とすれ違う事も無く、森の中を進み続けるが木の陰や上から大きな蚕をモデルにしたモンスターが襲い掛かってきた。
「きゃっ、虫!!」
「わっ、危ない!」
「ほら、そこにいるからさっさと倒すわよ!」
流石に上から降ってくると驚くもので晴名に関しては虫自体が苦手なようで手で持っていた武器の事を忘れて振り回して払い落とそうとした。
そんな彼女に気を付けながらも残った三人で直ぐに倒してなんとか晴名を落ち着かせる。
「ほら、もう倒し終わったから」
「もう大丈夫だから落ち着こうな」
「は、はい……」
周りを確認してやっと落ち着いた晴名の為に少し休憩を取った後にまた山へと足を進め、暫くすると一軒の家とその傍に泉が有る開けた場所に出た。
「ちょうど良いし、ここで食事を取ろうか」
「そうですね。晴名さんももう少し休んだ方が良いでしょうし」
「……すいません」
「そこまで気にしなくても良いわよ。ねっ、二人とも?」
「「そうだな(ですね)」」
手早くアイテムボックスから今日の分の食料を出して調理を開始するが、その間に暇になる幸太と幸は家の方に興味があるようで調べに向かったのが見えた。
そして、晴名に手伝って貰いながら料理が完成させるとちょうど二人が戻ってくる。
「どうだった?」
「えっと、中に入る事は出来ませんでした……」
「扉は勿論だけど、一つだけ有った窓も何かに守られてるようで何をやっても壊れる事が無かったわ。ただ、そこから見えた内装とイベント前の話からすると緒璃姫の家だったところで間違いないと思うわ」
「そうか。まぁ、入れないなら先に進むだけだし、今は出来た料理でも食べて休もう」
「そうね」
ドロップ品の事などを話しながら食事を取り終えた俺たちはそのまま少し休憩した後にまた山の頂上に向かって進み始める。
木々が無くなりゴロゴロと大きな岩がところどころに転がっている場所に出ると襲い掛かってくるモンスターも鳥に代わり、一羽から複数羽とバリエーションが多いだけでなく牛のように戦っている途中に増える事も有った。
少し進んでは襲われてと何回も繰り返し、下に転がり落ちてしまうドロップ品の回収に苦労しながらたどり着いた頂上は素晴らしい景色だった。
まるで一枚の絵にそのまましたくなるような青空と雲をバックに佇む神殿に俺たちは息を飲む。
「中に入って良いんですよね……?」
「えぇ……、それ以外に無いと思うし……」
「……それじゃ、行くか……」
「はい……、行きましょう」
呆然としながらも中へと足を踏み入れた俺たちの頭に声が響く。
『よくぞたどり着いた。お主らの働きを表す物を祭壇へと捧げよ』
突然の事に回りを確認してみるが俺たち以外に存在する影は無い。
そして、聞こえてきた声にも覚えがないものだった。
「ど、どうします?」
「働き……を表す物って?」
幸太と晴名の反応に俺も困ってしまうが幸が何か思いつく。
「ねぇ、確か途中のドロップって料理だったり、生糸だった筈よね?」
「あぁ、牛や鳥が料理で虫が生糸だった」
「あの話に料理とか衣服とかって出てきたし、わざわざ調理された物がドロップしたって事は……」
「それを捧げれば良いって事ですね、幸さん!」
幸の言葉を引き継ぐように晴名が答える。
「えぇ、そうよ。私たち探索者はモンスターと戦ってドロップ品を手に入れる事が基本的な仕事なんだからそれを表す物と言えばドロップ品か武具って事になると思うの」
「それで今回はあの話からドロップ品でしかも話にも出てきた料理とか緒璃姫に関係しそうな生糸をって事なんですね?」
「なるほど。なら、それを捧げようか」
決まれば早いもので奥に用意された祭壇に取り出した物を並べるとキィーンという音と共に光が集まり始める。
あまりの事に後退りながら眩しくなっていく視界を遮るように手で顔を覆う。
暫くするとその光も収まり、手を下すと祭壇の前に一人の女性が立っていた。
「……緒璃姫様?」
『よく届けてくれました。これで機を織る事も出来ました』
そう言って嬉しそうに笑顔を見せる緒璃姫様。
あぁ、これは陽湖保史が一目ぼれするのも仕方ないと思う。
『お礼と言ってはなんですが、神々に捧げる衣服の余りから作ったこれを貴方たちにあげましょう』
言葉に合わせるように光が祭壇の上に集まり、そこに四つの小さな袋が現れた。
『それでは私は陽湖保史を待ちたいと思いますので失礼させていただきます』
光となって消えていく緒璃姫の姿を見送った後に俺たちは祭壇の上の袋を手に取って中身を確かめてみると布で作られた小さなお守りが入っていたのだった。
【緒璃姫のお守り】
年に一度だけ納められる生糸を素材に緒璃姫が神々に捧げる衣服と共に作ったお守り。
身に着けた者には少しばかりの幸運と出会いの機会が分け与えられる。
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