37話
それは突然やって来た。
いつも通りと言えばいつも通りの事だったのだが、何回経験しても慣れる事は無いだろうし、その中身にまた世界はかき乱されるのだろう。
『やーやー、日々頑張っている人類諸君、おめでとー。アメリカ合衆国の誇る精鋭部隊って奴が百階層に到達したよー。これによってダンジョンに便利な機能が追加される事になりましたー、パチパチパチ』
その言葉に周りが騒めいているのが良く分かる。
それどころかどうやらネットやマスコミが盛大に速報として情報を流したようでさっきから通知を告げる音と振動音がポケットの中から聞こえてくる。
『因みにアメリカ合衆国だけじゃなくて全世界のダンジョンに追加されるから皆ハッピーだよ!!』
その声に合わせて付けていたテレビから速報を伝えるアナウンサーの声が聞こえてくた。
どうやら管理者は全員に話しかけながらも詳しい情報を協会などに送っていたらしい。
『あっ、もう情報が出始めたようだし、俺からはこれで終わりで良いよね。それじゃあ、また何か良い報告が出来るように頑張ってね』
プツっと音が聞こえてきそうな感じで管理者は話すのを止めた。
変わりに耳に入ってくるのはテレビからの速報。
どうやら今回追加された機能って言うのは、前に三人で話していた時に出たワープみたいなエレベーター機能らしい。
うん、これは本当にありがたいと思うけど、発表された内容だとまだ俺たちがその恩恵を受けるのはもうちょっと先の話になりそうだった。
「おっと、そろそろ家を出ないと遅刻する」
チラっと見た時間にちょっと焦りながらもテレビを切ったり、戸締りを確認して出勤するのだった。
部屋に入ると嬉しそうな幸太の表情が見えた。
たぶん、今回の機能追加が予想していた物だった事が嬉しいんだろう。
「あっ、進さん、おはようございます!」
「「あぁ、おはよう」」
その声に今まで相手していた幸と桐野さんも俺に気が付く。
幸たちの様子からすると結構大変だったんだろうな。
「おはよう、朝から色々有ったからちょっと明日からの探索について見直そうか」
「はい、わかりました!」
「わかったわ」
立ち上げたパソコンには協会から送られてきた資料が総務からメールで送られてきていた。
少し前に発表された事とはいえ、こんなに早く資料が出来てるなんて協会が凄いのかそれとも管理者が事前に用意していたのか。
「あー、協会からの資料が届いてるから今から印刷して回す」
「えっ、もうそんなの届いてるんですか?」
「早いわね」
人数分印刷した物を桐野さんが配っていく中、俺ももう一度資料に目を通す。
見た限りではあの時に話していた事がそのまま実現されたような感じであまりの都合の良さにちょっと引いてしまう。
とりあえず、使えるようになるのが五十階に到達してからという事なので俺たちには少し先の話だ。
「はー、前に話してた物がそのまま形になった感じね」
「そうですね。まぁ、ゲームとかでは基本って言ってもいい機能ですから」
「ただ、俺たちが使えるのはまだ先の話だぞ」
「そうね。気になるのはパーティーの入れ替わりとかで到達階が違う人同士が利用する場合がどうなるかって事かしら、これには書いてないし」
確かにそれは気になる。
幸と実際に潜る事はないが桐野さんが七十一階まで潜った事が有る為、現状では幸だけがエレベーターを使える事になるけど、俺と幸太は使えないから扱いがどうなるのだろう。
既に朝の事で利用者が出ている筈だろうから今後に出てくる情報をしっかりと確認しよう。
「まぁ、まずは全員の到達階を五十階にするのを優先しながら、エレベーターに関しては情報を集める形にしたいんだけど良いか?」
「私は別に良いわよ。一人でエレベーターを利用するなんで死にに行くような物だし」
「そうですね。俺もそれで良いです」
「じゃあ、そういう事で。あと、今後入社してくるだろう新入社員についても実際に配属されてから決めようと思う」
「えぇ、じゃあ明日からの予定も変更無しで行きましょう」
「分かりました。じゃあ、荷物の準備とかしないと……」
「幸太君、こっちに消耗品の補充分が届いてるから」
幸が言った事で幸太も明日に向けての準備を始め、それに合わせるように俺も自分の仕事に取り掛かるのだった。
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