31話
戻ってきた園田さんは知り合いだろう人を連れていた。
「そちらの方は?」
「こちらは我が社との付き合いの有る株式会社むつみ食品の田部伊那穂さん」
「初めまして、むつみ食品の田部伊那穂です」
そう言って差し出された名刺に急いでグラスを置いて受け取る。そして、あたふたしながらも自分の名刺を取り出して田部さんに渡した。
「は、初めまして、シーキングファクトリーの羽生です」
「田部さんも参加してたらしくて連れてきたんだけど良かったよな?」
「えぇ、大丈夫です」
どうやら酔いが回ってきたのか言葉遣いが荒くなってきた園田さんを気にしながらも名刺と田部さんを見比べる。
「ご迷惑でした?」
「い、いや、別に」
軽く上目遣いになっている田部さんは同じようにお酒を飲んでいたようでほんのちょっぴり赤みがかった顔をしている為、少しだけドキっとしてどもってしまった。
そんな俺の様子に首を少し傾げながら見た目からは分からないほどの大食いなのかたんまりと皿に盛られた唐揚げを食べ始める。
「で、こう見えても田部さんはむつみ食品の探索者部門でトップパーティーを率いている人でな、偶に俺の所に依頼してくれて一緒に大規模で食材確保の探索をする仲なんだ」
「ははは、トップパーティーって言っても園田さんたちよりは弱いですよ」
照れながら話す田部さんの様子に比較対象が凄いだけで実力は有るんだろうなと思いながらチラリと田部さんの顔を見る。
「へぇー、結構深くまで潜られるんですか?」
「いえ、そんなに深く潜る事は無いですよ。私たちのよく行くダンジョンは“食材保管庫”ってよく言われてる都実地ダンジョンですからそんなに深く潜らなくても目的は達成できるので」
都実地ダンジョン。田部さんが行ったように食材保管庫とも言われるダンジョンで元々は築地市場が有った場所に出来たからなのか出てくるモンスターの大半が食材をドロップすると有名な所だったはずだ。
「あー、あの有名な所ですか。なんでも出てくるモンスターの大半が食材を落とすって……」
「はい、流石に三十階までは食べるか悩むような物が多いんですけど、それ以降は基本的に食べられているような物ばっかりなんですよ」
「そうなんですか。珍しいダンジョンですね、ちょっと行ってみたい気もします」
まぁ、三十階まではラットとかだろうから流石に肉をドロップしたとしてもそうそう食べたいとは思わないよな。
「良かったら講習会の終わった翌日の明後日なら案内しますけど、一緒に行ってみます?」
ふふふと笑いながらありがたい提案をしてくれる田部さん。
正直、案内付きでいつも行けないダンジョンに潜れるなら安心できる。
「良いんですか?」
「なんなら、俺も一緒に行ってやるよ」
ありがたい事に園田さんまで一緒に行ってくれるなら仕事的にもプライベート的にも良い事尽くめで断る理由は無い。
「問題無いならお願いします!」
「では、何処で待ち合わせにします?」
「羽生さんのホテル次第だけど、下手に離れた場所で待ち合わせるよりは都実地ダンジョンの協会内で良いんじゃないか?」
「そうですね。それなら羽生さんも分かりやすいですよね?」
ダンジョンの場所は変わる訳でも無いし、下手に違うところで合流しようとしても土地勘が無い俺がいると微妙に時間がかかりそうな気もするからありがたい。
「はい、それでお願いします」
「で、時間は朝九時で遅くても夜の十時にはダンジョンから出る感じで浅い階層を回る感じで良いよな?」
確認するように聞いてくる園田さんの言葉に頷く。
たぶん、潜れたとしても他の二人にも次の日に予定が有るだろうから日帰りになるだろうし、その辺りは二人に任せるのが良いだろう。
「では、そういう事で。……因みに羽生さんの使ってる装備……、あっ休憩の時に使ったりする道具ですが、……最新の物って事で良いですか?」
期待するように目をキラキラさせながら聞いてくる田部さんに釣られるように園田さんも面白そうな顔して見てくる。
まぁ、園田さんに関しては講習の時に聞いていたからしているし、田部さんに関しても食品関係に勤めている探索者って事から一定以上潜らないなら予算的にもそうそう備品の購入は難しいだろう。
「えぇ、まぁ我が社で取り扱ってる物に関しては最新ですね」
「やったー。前から気になってたんですけど、手を出せなくて……」
「ハハハ、俺も助かるぜ」
嬉しそうな表情を見せる二人に後日カタログを渡す事を考えながら俺は持っていたグラスで喉を潤すのだった。
今年もよろしくお願いいたします。
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