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29話

 覚えてきた移動経路を思い出しながらたどり着いたのはなかなか立派なビルだった。

 流石、協会と言えば良いのか、大手の商社などが多く入っている一フロアで今回の講習会は行われる。


「はー、大半の企業は大手で知られてる所ばかりか」


 中に入って直ぐに用意されていた案内看板で今回の講習会場がどこで行われるかがしっかりと分かる。

 まぁ、事前の案内にも一応書かれていたけど、偶に急な変更が有るかもしれないからこういうのはしっかり確認しておかないとね。

 会場は四階に用意されている為、案内通りにエレベーターに向かう。

 どうやら今回の講習会はそこそこの参加者数のようで俺と同じように案内看板を見てからエレベーターに向かう人が多いように感じる。


「あー、乗ります、乗ります!!」


 エレベーターに乗ってドアが閉まるのを待っているとそんな大声と共に閉まりかけた扉を止めるように手が差し込まれる。

 慌てて開扉ボタンが押されて扉が開くと軽く息を切らしながら入ってきたのは一人の男だった。

 他に乗る人がいないのを確認して閉められた扉を確認してその男に目を向けると汗を拭いながらも息を整えようとしているのが分かった。


「……あっ、どうもすみませんでした」


「いえ、別に良いですよ」


 どうやら俺が見ていたのに気が付いて自分が迷惑だったと思ったのか謝ってくるが、別に責めたかった訳とかでも無いんだが。


「ふぅ……、四階って押してありますか?」


「あぁ、大丈夫ですよ」


「なら、良かった……」


「貴方も協会の講習に参加するんですか?」


「えぇ……、そうですが……。貴方も?」


 たぶんそうだろうと思って聞いてみればこの人も受講者の一人だった。まぁ、このエレベーターに乗っている中で講習会に参加しないのは恐らく四階以外のボタンを押した数人だけだろう。

 そうやって話しているうちに四階に着いたようでポーンという音と共に扉が開いた。

 一番前にいた男に続くように俺も外に出て置いてある看板でこのフロアでの道順を確認すると歩き出す。


「結構、他にも参加する人が多いようですね」


「ですね。まぁ、協会が開催するだけ有って参加する所は多いんでしょう」


 こっちですねと言いながら先を進む男に続いて俺も歩き始める。


「あぁ、忘れてましたが私はこういう者です」


「これは丁寧に……。私もどうぞ」


 歩きながら差し出された名刺を受け取り、遅れながらも俺も名刺を取り出して渡す。


『株式会社ダンジョンリング 所属探索者 園田(そのだ)(つとむ)


 渡された名刺に書かれていたのはなかなか有名なダンジョン探索業を営む会社名だった。


「はー、ダンジョンリングに所属してる方だったんですね……」


「えぇ、そうですが、私もまさか貴方が愛用している用品メーカーの方とは思いませんでしたよ」


 二人して名刺と顔を交互に見ながら笑いあいながら歩いているとちょうど今回の講習会の受付にたどり着く。

 既に受付自体は開始していて前の人に続く形で園田さんと列に並び、カバンから受講確認の為に申込書の控えを取り出して名刺とセットにする。


「どうやら一番人の多い時間に聞いたみたいですね」


「そうですね。あっ、次ですよ」


 おはようございますという挨拶と共に申込書の控えの提示を求められたので差し出すと直ぐに参加者リストとの照合が行われ、その間に講習用資料が手渡される。

 どうやら園田さんも同じように終わったらしく、そのまま二人で部屋へと足を進めた。

 今回の講習の為に用意された部屋は大きく、収容人数は恐らく百人を超える大きさだろう。

 既に結構な人数が席に座っているが、特に座席指定は無いのか不規則に座っているようだった。


「あー、やっぱり結構人がいますね」


「あっ、ちょうど二席空いてる場所が有るんであそこに座りましょう」


 言うが早いかその席へと歩き出す園田さんに苦笑しながらも後を追いかける。

 まぁ、一人で受けるよりは二人の方が楽しいだろうし、他の探索者と仲良くなる事は個人的にも会社的に良い事だろうし。


「しかし、本当に人が多いようですね」


「えぇ、百人近く、もしかしたらそれ以上がこの講習を受けに来てるような感じな気がします」


 俺たちが席に座った後も続々と空いている席が埋まっていく。


「確か、今日は全体的な説明とかだったはずですよね?」


「そうですね。これを見る限りはそこまで堅苦しい事を話す訳でも無さそうですし」


 手元に有る資料をペラペラと中を確認しながら、そう言って園田さんに答える。

 軽く見た限りでは今日一日でこの資料を全部終わらせることはほぼ無理だろうから明日以降もこの資料を持ち歩かないとダメだろうな。


「そう言えば、シーキングファクトリーって少し前に装備品関係の開発も手掛けるって発表してましたけど、羽生さんがこの講習に参加するのと何か関係が有るんですか?」


「あぁ、今までは契約で済ませてきたのを社内で賄う事にしたんですよ。で、装備品に関してはそれに合わせて社内探索者を使う事でユーザー側の意見を取り入れやすい事や新しい需要と言うか新部門設立で新しい顧客の確保に繋げたいんです」


「へぇー、羽生さんはその社内探索者の一人って事なんですね」


「えぇ、学生時代に資格を取ってから就職してからも偶にダンジョンに潜っていた事も有って探索者として活動する事になったんですよ。もともとは開発部に所属していたので新商品のテスターとかで意見を出しやすいんです」


「新商品とかを試せるって良いですよね。ウチは装備に関しては基本的に個人でって形なんで新しい物を買うのには二の足を踏むことが多くて……」


 そういう園田さんは心底羨ましそうな顔をしていた。

 まぁ、いくら有名な探索業者でも実情はそんな物だろうな。消耗品は一括大量購入とかで社割してそうだけど、それ以外は買い替えとかも少ないだろうし。

 もともと我が社が扱う商品は消耗品が少なく、新商品が出る度に直ぐ買い替えるような物でも無いから一つ一つの単価で見ると高いと言われても仕方ない金額だ。そして、それは我が社だけでなく同じような物を取り扱う企業でも同じ事が言える。

 だからこそ、使用者はできるだけ大切に使おうとするし、した分だけ愛着が出てきて直ぐに買い替えるといった事が無い。

 で、結局はまだ使えるからって理由で新商品を買う事無く、使ってみたいと思うけど手に入れる機会が無いのが普通なんだよな。


「いやー、いくら新商品候補を使えるって言ってもダンジョンでしか試せない物も有るので探索の時に壊したり、無くす事とかを気を付けないといけないので結構大変ですよ」


「それでもやっぱり羨ましいですよ。因みに新しく契約パーティーを作るって話とか無いですか?」


「あははは、少し前までは有ったみたいですけど、今も探してるかは分からないですね。社内で部門まで作って対応を始めたので……」


 やっぱり本当は契約パーティーについてか……。

 まぁ、こういった場で営業掛けるのも間違いでは無いんだろうけど、ウチはもう対応した後だからねー。


「あっ、始まるみたいですよ」


「そうですね。また、休憩中に話しましょう」


 どうやら受付も終了したのか何人かのスタッフだろう人たちが参加者の人数を確認している間に代表者だと思われる人が用意されたステージに立った。

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