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3話

 日野江ダンジョン。

 それは管理者と呼ばれる存在に造られたダンジョンの中でトップクラスの利用者を誇るダンジョンの一つ。

 もともと出来た場所の近くに複数の路線が集まる駅が有った事もあり、近郊に他のダンジョンができなかった事も含めて多かった利用者は三十階層を超えて激変した階層が換金しやすい物を多くドロップするモンスターが数多く出るという事が分かると更に増える事になった。

 その為、近辺はダンジョン関係や探索者関係の企業が挙って進出、再開発される事になり、国内では有数のダンジョン街と言われるようになる。

 そして、進の勤める株式会社シーキングファクトリーの本社もここに有った。

 だからこそ、週一で出社しろと言われてもそこまで困る事は無く、すんなりとそれをやっていた。





 ダンジョンに潜って数時間。

 進はやっとの事でたどり着いたセーフティーエリアで今日のドロップ品の整理を始めた。

 昔、幼馴染たちと潜った時に手に入れた異空間収納袋(アイテムボックス)は周りから羨ましがられるほど大容量で今日も進が手に入れたドロップ品を全て収納していた。


「んー、やっぱり十階ぐらいだとあんまり良い物は手に入らないな。……まぁ、今日はそこまで気にする必要は無いと思うけど、今後の事も考えると深く潜っていく事も考えないといけないか……」


 整理するにあたって傍に置いていた今回のテスト品に目を向けながら俺は今後の事を考え始める。

 いくらテスターとしてテスト品を試すことが目的とは言え、ボーナスの事も考えると有る程度は深く潜らないと旨味は少なそうだしな。

 そう思いながら俺はドロップ品の確認を終えた。


『最初の頃は無理しないようにテスト品も特に深く潜らないとテストできない物は渡さないからくれぐれも気を付けてくれよ』


 そんな事を言ったのは部長だった。

 そして、その言葉通りに最初のテスト品はセーフティーエリアなどで使う事を前提にしたマナ式湯沸し器。

 ダンジョン内に漂うマナを使用して熱を発生させて、中に入れておいた水を温めてお湯にする物だった。

 あまりダンジョンに詳しくない人たちは態々そんな物を使わなくてもという声を上げそうだが、探索者などのダンジョンに潜る者とってマナ式というのは重要なのだ。

 確かに従来からあるガスボンベなどを持ち込んで使おうと思えば使えるが、それでは潜る期間によっては荷物が多くなってしまい嵩張ってしまう。そして、何らかの原因でガスが漏れた時にもし引火してしまった場合の事を考えると危険で仕方ない。

 その為、特に他に必要な物も無く、それ一つでアクシデントが有っても直接怪我をするような事の無いマナ式の物は少し高くても買うのは当たり前だった。

 今回、俺がテスターとしてダンジョンに持ち込んだ物も既に販売されている物を改良した新型で従来品より小型、使用時の安定性などを高めた物になっている。

 実際、安定性を高めたスタンドは折り畳み可能、マナを取り込む呪式の掛かれた水筒部分も縮小可能で小さくしたそれの中に折り畳んだスタンドを入れれる事でかなり持ち運びが楽になっている。

 アイテムボックスを持っていればそこまで気にしないだろうと思われる事も多いが、アイテムボックス自体を持っている人は少なく、持っていたとしても俺みたいに他にカバンに物を詰めてダンジョンに潜る人間の方が多い事も有ってこの改良は受け入れられるだろうな。


「しかし、見た目の割にはなかなかの量を沸かす事ができるな、これ」


 沸いたお湯を既に準備していたマグカップに注いでコーヒーを作る。

 水を容量ギリギリまで入れて沸かしただけ有ってまだまだお湯は残っている。

 まぁ、態々カップラーメンとかを持ち込んだりしない限りはパーティーで使用する事を目的としている事も考えると十分な量沸かせるようだな。


「ふぅ、まだ時間に余裕は有るし、今日はもうちょっとだけ潜って戻るかな」


 手に入っているドロップ品の大半は低級の魔石な事も考えるとそう決めたは残っているお湯を使うべく早めの昼食にカップラーメンを食べる事にした。


「しかし、ダンジョンでカップラーメンってのもどうなんだろうな……」


 昼の時間が近づいてきている事も有ってかセーフティーエリアには少しずつ人が増えてくる。

 生憎と既にここは十階なので一階や二階のようにしっかりと確保されたセーフティーエリアじゃない為に椅子などは無く、地べたに座る事になる。

 勿論、机なんて物も有るはずが無く、各パーティー事に集まって輪になって時より周りを気にする素振りを見せながらもカバンから出した食べやすい昼食を食べている。

 俺みたいに一人の人間は珍しいだけでいない訳ではなく、俺と同じように壁際で壁に背を向けながら一人で昼食を取っている人が何人かいた。

 もっとも、流石にカップラーメンを食べているのは俺だけのようで気になるのかこちらをチラチラと見てくる人が何人かいた。


「気になるなら声を掛けてくれば良いのに……。まぁ、俺が同じような状況で声掛けるかって聞かれたら掛けないよなぁ」


 周りからの視線を気にしながらも食べ切った俺はさっさと片づけて仕事を再開しようと決めて急いで準備して手持ちをまとめるとセーフティーエリアから出る。


「はぁ、悪くは無いけど大人数用って事で報告書でも書いた方が良さそうかな。それに合わせて改良してもらうのも良さそうだろうし」


 結構、沸くまでの時間が短いのは良い事だけど、現状でお湯を作る専用にするよりはコンロにして他の物を使えるようにしてほしい所だ。可能なのか先輩たちに確認しないといけないな。

 さて、そろそろ次の階層に降りるし、気を引き締めていかないと……。

 そうして、たどり着いたのは十五階。

 一般的に探索者たちの岐路とも言える人型モンスターの出始める階層だ。

 世界に初めてダンジョンが誕生した時に現れた緑色の皮膚を持つ醜い小人――ゴブリンと名付けられたモンスターが出る階。

 既にその顔に見合った凶悪性は周知の為、何も思わず攻撃する事は出来るが後から人のようなモンスターを殺したという罪悪感に囚われ、探索者を辞める人も存在する。

 そして、不思議な事にその事を認識するのはダンジョンを出てからという事でダンジョンには人を操る力が存在すると言われている。これはダンジョンでモンスターを倒すと身体能力が上がるが、ダンジョンの外に出ると何事も無かったかのように元の身体能力に戻る事、同じようにダンジョンで見つかる書籍を読む事で使えるようになる魔法が外では使えない事、自らを管理(・・)者と名乗る存在の事からそういう物だと考えられていた。


「久しぶりのゴブリンだけに気を付けていけないと」


 十五階に入ってから暫く歩いていると偶に他の探索者とすれ違う場合がある。

 そういう場合、気を付けなければいけない事としてその探索者がベテランかルーキー(初めて)かという事だ。

 慣れている人間は良い。だが、ルーキーの場合はどうしてもゲーム感覚で潜っている人間が混じってしまう為に余計な事態を引き起こす場合が有るからだ。

 確かに既に十を超える階層を潜ってきただけ有って能力としては問題無い人間の方が多いのが、モンスターを倒してきた事で身体能力が上がり、己の力を過信に慢心してってのは多い。

 現に協会でもその事から危険度が高まるとして一番最初と到達しそうなタイミングで注意が口頭でされている。


「っと、こんにちわ」


「おぅ、……一人か?」


 前から歩いてきたパーティーに気が付いて声を掛ける。

 どうやら相手はベテラン勢の六人組パーティーのようで下の階層から戻ってきたのか後ろの二人がパンパンになったカバンを持っている。

 全員が一人でいる俺を不審に思ったのか後ろ二人はカバンを守る様に下がり、それに合わせて他の四人が俺の視線から二人を守る様に動く。


「えぇ、急遽一人で潜る事になったので。まぁ、ここ数年は一人で潜る事も有ったのでご迷惑をかける事は少ないと」


「そうか。なら、俺たちは行くが良いな?」


「はい、それでは」


 道を譲るように動き、横を通過していくパーティーから未だに疑うような視線を感じながらも俺は先に進む為に歩き始めた。

 仕方ない事だろうな。偶に戻ってくるパーティーとか油断してるパーティーを狙って襲い掛かる奴がいるから俺もそれじゃないかと思われたんだろうな、一人だったし。

 曲がり角を曲がる頃にはそんな視線も途切れ、まるで出迎えるように現れるゴブリンに意識を向けた。

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