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25話

 事前に連絡が有った会社見学の水曜日。

 出社するとパソコンにはその事についてのメールが届いていた。

 内容としては迷惑をかけるが学生からの質問にはできるだけ答えてほしいなどと言った普通の内容が書かれていた。

 一応、一緒にスケジュール表が載っていたので確認してみると社内案内前に簡単な説明会が予定されているようで部長クラスはそれに参加と書かれている事でここ最近の出社した時に時田部長が忙しそうにしていた理由が分かった。


「良かった……。流石に探索者部門はまだそこまでじゃなくて」


 正直、今の探索者部門で責任者って言われると俺が当てはまりそうだし、それで急に学生の前で話をしてくれって言われても困るし。

 でも、この予定だと案内されて来るだろうし、その時は対応しないとダメだろうな……。


「あら、どうかしたの?」


「あっ、水野先輩。いや、これを見てちょっと助かったなぁと……」


「あぁ、学生の前でってやつ? まっ、確かにあの忙しさを見るとそう思うわよね」


 どうやら水野先輩から見ても時田部長の姿は可哀そうに思うほどだったらしい。思い出しているその姿からたぶん自分ならゴメンだなって考えているだろう。


「でも、羽生君はこの後が大変なんじゃない? というか、早く探索者の方へ行った方が良いと思わよ」


「あっ、そうですね。もう、こっちでの仕事は無さそうですし」


 そう言って時間を一度確認した俺は置いてあった書類を手にもう一つの仕事部屋へ向かうのだった。




 案内されて探索者部門が使っている部屋に入ってきた学生たちの中に見かけたことが有る子がいる事に気が付いたのは偶然だった。

 どうやらは最初から俺たちがいる事を知っていたようであまり驚いた様子を見せていなかった。

 まぁ、事前に説明会とかに参加していれば写真とか見てるだろうし、前に会った時に信用を得るために名刺を渡してるからだろう。


「えー、では、ここについてはそこまでいらないと思いますが、実際に先輩社員に聞いてみたい事が有ればこちらの羽生に聞いて下さい」


「えー、この探索者部門で実際にダンジョンに潜ってる羽生進です。今日は見学が有るという事で出社していますが、特にそういった事が無ければ基本的に月曜を除く平日はダンジョンに潜っています」


 事前に簡単な挨拶は考えていたのは正解だったようだ。

 とはいえ、基本的に話す事なんて部署名とかから直ぐに分かる事しかないんだよね。


「それでは何か質問が有ればお答えしますが……?」


「あっ、ハイ!」


 俺の言葉に見学に来ていた一人が直ぐに手を挙げる。

 珍しい事に他にも何人か聞きたい事が有るのか先に手を挙げられた事に驚きながらもこっちを見ているのが分かる。


「あの、ダンジョンに潜るのは毎日ですか?」


「そうですね、月曜日には会社に出勤して書類仕事をやったりしていますが、火曜日から金曜日に関してはダンジョンに潜っています」


「その、泊まり込みで潜ることも有るんでしょうか?」


「勿論、そういった事も在ります。ただ、基本的に月曜日の段階でその週はどうするかを話し合った上で決めていますし、実際に泊まり込みになった場合は装備もしっかりと整えた上で潜っています」


 まぁ、普通に考えると労働条件としてはどうなんだろうって気はしないでもないけど、企業所属だったとしても扱いは普通の社員じゃなくて探索者って特殊な枠になるからなぁ。

 ただ、言えるのはダンジョン内のドロップがそのまま給料に直結するから収入はある程度の実力が有れば簡単に普通の社員より稼ぐことが可能なんだよね。勿論、一定のドロップ品の売り上げを確保しなければいけないんだけど、そこまでキツいってノルマが設定される会社でも無いし。

 それにボーナスなんて会社の影響を受けないって契約になってるから通常のノルマを超えたら超えた分をほぼ貰える。

 今後の事も考えると少しずつ変更箇所とかは出てくるだろうけど、それでも現状の事を考えると悪い事にはならないだろう。

 そんな事を考えていると更に質問が来る。


「因みにどれくらいの深さまで潜っているんでしょうか?」


「現状では三十階までは確実に行くようにしています。勿論、今後はそれよりも潜っていくとは思うので必然的に泊まり込みになると思います」


「休日や残業についてはどんな感じなんですか?」


「給仕は基本的に他の社員と同じように土日祝と夏季休暇や年末年始などが有ります」


 夏季休暇とか年末年始に関してはまだ取得する機会が来てないから確認するように人事に目を向けると頷くのが見えたから問題ないだろう。


「残業に関しては正直言ってどれぐらい深く潜ったかやドロップを得る為にどれだけ滞在したかによるのですが、現状で潜っている私たちは泊る時を除いて残業はしていないです」


「ちょっと補足させてもらうと我が社では事前に探索するダンジョンを教えてもらっている為、協会に問い合わせる事で実際に探索していたかどうかの記録を見ることが出来るのでそれをタイムカード代わりにしているような物です」


 えっ、マジか。そんな事できるとは知らなかったけど、真面目にしてて良かった……。

 チラっと見ると幸や幸太も知らなかったようで俺と同じような反応をしていた。

 でも、普通に企業に所属していなければ関係ないと思う事だから協会側も企業が手続きに来た時などにしか話していないんだろうな。


「えっと、他に質問は?」


「では、探索中に手に入れたドロップ品についてなんですが、手に入れた全部を協会に売っているんですか?」


「それに関してですが、基本的には協会に売却しています。ただ、やはりドロップ品の中には今後の探索に必要だと思う物が混じってくる事が有るのでその場合は話し合いの上で売却は選ばずに所有していますし、必要に合わせて使っています」


 それに合わせて協会での鑑定後に書類を作ったりして管理もしやすいようにしてるし、使う場合は物にもよるだろうけど会社に申請した後に使っている。

 たぶん、質問したのが見覚えの有る子だから前回の事で気になったんだろうな。あの時は怪我をしていたし、状況が状況だったからポーションを譲った訳だし。


「因みに個々の装備品などに関してですが、我が社でも探索者部門を持つ事にしたのでそういった物を取り扱う企業などと契約したりとできるだけ探索に専念できるようにしていっています」


「現状だと武器関係の工房と契約して我が社からも売り出しを始めたんですよね?」


 幸太の加入で確かそうなってた筈なんだけど、ダンジョンに潜ってたりするとそんな辺をしっかりと確認する事を忘れるからこれを機会に聞いておくべきだよな。


「えぇ、今、羽生が言った通りに我が社でも工房と契約しましたので武器類の販売が始まりました。現状では工房が元々扱っていた物を中心にしていますが、恐らく二年以内にはオリジナル商品などを展開していけると考えています」


「あと、基本的に所属後の武器の新調はドロップ品をそのまま使う以外はこの工房を使う事になるので普通に探索者をやるよりも色々と融通が利くと思いますし、現状で私も一つオーダーして作っても貰っているところです」


 これは前にドロップした物を使って幸太経由でしっかりと要望を出させて貰ったから今一番の楽しみとも言える。

 もう、そろそろ完成の連絡が来ると思うし、今まで使っていたやつは今後はサブとして持ち歩く事にするからいざという時も困らないだろう。


「では、他に質問が無ければこれで終わりにしたいと思います」


「今日は来ていただきありがとうございました」


 どうやら他に質問は無いようだったのでそのまま学生たちは案内されながら次の場所に向かうために部屋から出ていく。


「あの、あの時はどうもありがとうございました! 本当に助かりました!!」


「あぁ、その様子を見ると二人とも無事に戻れたんだ。良かったよ……」


 置いてかれないように他の人たちを気にしながらも見覚えの有った子は俺に寄ってくるとそういって頭を下げ、俺の言葉を聞くと嬉しそうにしながらまた頭を下げて部屋から出て行った。

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