23話
人事部に確認を取った上でダンジョンに潜る前に撮った写真を送ってから一週間以上経った頃、説明会も終わって今度は会社見学を行うという通達が全社員宛に送られた。
ちらりと噂を聞いた話だとやはり探索者志望の学生はほぼ居なかったらしい。それでも資格持ちは何人かいたようで通常の業務と合わせた説明で何個かの質問が出るなど人事部的にはいい感触だったとか。
「だから、期待してるのか?」
「そういう訳では無いんですが、増えてくれるならそれはそれで良いと思いますし」
ダンジョンに潜って最下層を目指してみたい気持ちは確かに有る。でも、あの時に諦めた俺にそれを本当に目指していいのかと悩んでしまう時も有る。
それとは別にしても今後の事を考えれば人が増えるに越したことはないと思う。だって、人が増えれば増えるほどテストを同時にできて、その分だけ新商品の開発が進むんだから。
……そうすれば今みたいに先輩たちから異様に押し付けられそうになる事も無くなるだろう。
「まぁ、別に良いけど、午後からはどうする気だ?」
「午後からは探索者部門の部屋に顔を出しますよ。見学の事でどうするかとか話さないといけないので」
現状の日程だと水曜日だから話し合ってダンジョンに行く予定を考えないといけないんだよな。
まぁ、いなくても問題は無いんだろうけど、来てくれる学生の中に資格持ちがいる可能性を考えるとその日だけはダンジョンから戻ってた方が良いだろう。
そんな事を考えながら俺は残っていた報告書を書き上げるのだった。
送られてきたメールを見た私はそのまま顔を幸太へと向けた。すると私と同じように画面から顔をこちらに向けていた。
どうやら幸太も同じようにメールを見たらしい。
「これ、私たちもいないといけない感じなのかしら?」
「さ、さぁ?」
「まぁ、進が来たら確認してみましょう」
「そうですね。でも、これだと探索の予定が変わっちゃいますね」
頭の片隅で予定変更が無かった場合を考えながら幸太と話していると扉が開く。
「「「おはようございます」」」
部屋に入ってきた進とお互いに挨拶しあうと進の後ろに誰かいる事に気が付く。
「幸は知ってると思うけど、今日から探索者部門に配属になった桐野霧江さんだ」
「桐野霧江です。これからよろしくお願いします!」
ニコっと笑いながらも私を見てくる霧江は過去を感じさせないような明るい雰囲気をまとっていた。
「久しぶり、霧江。元気にしてた?」
「幸もね。これからは私が後方業務っていうか備品の購入とかしてくからよろしく。そっちの少年もね」
「はい、財前幸太です。よろしくお願いします」
どうやら探索者として動けなくなった事をそこまで気にしていないのか入社してから何か良い事でも有ったのか……。
幸太と話す霧江の姿に安心しながら私は席についた進に声を掛けた。
「霧江が言ってたのは本当?」
「あぁ、今後の事も考えての異動らしい」
「そう、でも備品関係とかが楽になるならそれに越した事は無いわ」
「それで今後の事についてだけど、メールは見た?」
進の言葉に私は頷く。
「見た通りなんだけど、ここに来る前に相模部長に確認したら探索者部門も一応参加してほしいって言われたから」
「幸太とも話してたけど、参加しないといけないのね」
ため息してしまう私の姿に進は申し訳ないと思ったようで謝ってきた。
別に進に謝られたところで変わる訳でも無いからそこまで気にしてはいないのだけど。まぁ、霧江に引継ぎとか頼みたい事とか有る事を考えるとこの予定変更はちょうど良かったかも知れないわね。
「それで予定はどうするつもりなの?」
「それだけどまた三十階まで行けるけど、そこから更に進むとなっても戻る事を考えたらそこまで深く潜れないよな?」
「えぇ、潜れたとしても三十一階で止めておくべきよ。それも昼には戻り始めるようにしないとダメね」
「そうか。なら、最初から三十階までで止めておこう」
進はそう言うと直ぐに予定を立て始めたようで消耗品の申請を霧江に教えるために二人で話していた霧江に声を掛けた。
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