20話
週が明けて会社に出勤した俺を待っていたのはいつものように試作品を押し付けようとしてくる先輩たちだった。
まぁ、仕方ない事なのだろう。ちらっと聞いた噂ではテスターとして契約できたパーティーがまだ無いらしいから。
確かに前に話し合った時に新卒のみって話だったけど、まさか社員探索者のみでやっていくって訳ではないだろうし……
「このままでは困るんだけどね……」
「何がだ?」
「あっ、聞こえてました、火野先輩?」
「あぁ、何か困った事が有るなら相談に乗るぞ?」
どうやら近くに来ていた火野先輩に聞こえていたらしい。
確かに困った事といえば困った事なんだけど、火野先輩に言ったところで解決出来るとは思えないんだよね……。流石に知り合いに探索者がいてその人がパーティー組んでいるならウチと契約してテスターになって欲しいなんて事は。
「いえ、そういえば契約した探索者の話を聞かないなーと思ってたんですよ」
「あー、それは確かにそうだな。まぁ、お前は知らないかもしれないけど、今までもそれで苦労していた事が有ったから俺とかはそんなに思わなかったけど、言われるとそうだな」
「そうなんですか?」
「あぁ、探索者なんて縛られずにダンジョンに潜ってた方が儲かるし、契約だのテスト品使うだのが面倒事だと感じる人が多いらしいからな」
確かに報告書とかテスト品の破損とかを考えると嫌がる人が出てきてもおかしくないな。
特に探索者だと報告書とか書く事に慣れてない人が多いだろうし、まず自分たちの利益を優先するならこういった事をしない方が稼げるのは分かり切っている事だから。
「分からなくはないですね、その意見」
「やっぱり探索者視点で考えるとそうなのか…」
「えぇ、そこそこ……、まぁ三十階を超えれる探索者ならそういった物を受けるよりは素直に探索してる方が儲かる筈ですから」
まぁ、三十階を超えたばかりとかだと受ける余裕が無いって場合も有るだろうけど。
それでも真面目に探索してドロップ品集めたり、宝箱見つけたりしてればそんな事しなくても十分な稼ぎになるからな。
そう考えるともしも俺が友達たちと探索者業をやっていたらと思うとたぶん同じようにテスターなんて仕事を受けずに過ごしていただろう。
「まぁ、下手な奴にテスト品貸し出して壊されたり、勝手に転売されたりする可能性を考えると慎重になっても仕方ないし、会社としても早めに見つけようと動いてるようだからそこまで気にしない方が良いぞ」
「はい、そうします……」
「あー、羽生君、悪いけどこっちに来てくれないかい?」
「っはい、今行きます!」
ちょうど話が終わりそうなタイミングで部長から呼ばれた。
何かやった覚えも無いが、火野先輩に一言言ってから向かうと部長はちょうど手に持っていた受話器を戻したところだった。
「仕事中に悪いね。今、人事の相模部長から電話が有ってちょっと聞きたい事が有るから来て欲しいと言われたからちょっと仕事の手を休めて人事部に顔を出してくれないか?」
「わかりました。直ぐに向かいます」
部長や先輩たちの視線を背中に受けながら部屋から出た俺が考えていたのは今回呼ばれた理由だった。
これといって態々人事部に呼び出されるような覚えは無いんだよね。
元々、ダンジョンで手に入れたドロップ品の収益はボーナスに反映される話だから前回のイリーガル報酬で呼び出されるとは思えないんだよな。
「まぁ、話を聞けば分かれるだろうし、そんな酷い事じゃないだろう……、たぶん」
俺は予想できない事で少しだけ恐怖を覚えながら見えてきた人事部の扉に向かうのだった。
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