12話
火治太刀剣工房――今も刀匠として腕を振るっている一族が中心となって包丁などの日用品や観賞用の刀剣を作っていた会社だったが、ダンジョンの誕生に合わせて徐々に実用品としての刀剣も製造した事で業界でも有数のシェアを誇る規模まで成長した会社だ。
そして、そこがどうやら幸太の実家でも有る事が探索途中の雑談で分かった。
「えっ、今火治太刀剣工房って言った?」
「はい、そうです。ウチは火治太刀剣工房ですよ」
「じゃあ、幸太も作刀出来るって事?」
「一応は一人前と認められてます。まぁ、爺ちゃんや父さん、果ては兄さんにも敵わない腕なんですが」
恥ずかしそうに笑いながら言う幸太の様子からは家族とは特に問題無く過ごせているのだろう。でも、ならなんでダンジョンに潜ろうと思ったんだろうな?
お爺さんは道場もやってるって言ってたし、それの関係で何か言われたのかな。
「でも、それならダンジョンにわざわざ潜らなくても……」
「ははは、そうなんですけどダンジョンが有るならやっぱり潜ってみたいじゃないですか」
幸太は幸の言葉に笑いながらそう答える。まぁ、幸太の言う潜ってみたいっていうのは分からなくはないな。俺もダンジョンに潜る事を決めた理由の一つがそれだったような気がするし。
「まぁ、分からなくはないな」
「あっ、その感じだと進さんもその口ですね」
俺という同類を見つけたからか今まで以上に嬉しそうな顔を見せる幸太。
そうだよな。自分と同じような人を見つけるとそういう反応するよな。
「へぇー、進もそんな風だったんだ。私はとは違うなー、やっぱり」
「そうなんですか? あっと……」
どうやら歩きながら話していた為にゴブリンを一匹見逃していたようで風切り音で顔を向けた先には飛んで来る矢とそれを放ったゴブリンの姿が有った。
何とか気が付けたお陰でそれを弾いて倒しに行こうとすると幸が先に動く。
「油断しすぎてたわね」
あっさりとゴブリンを切り捨てた幸は暫く周りを警戒するように見渡した後、残ったドロップ品を回収して戻ってきた。もう近くにはモンスターがいないとはいえ、悠々と戻ってきた幸の姿は先程まで談笑していたのが嘘のように思えてしまう程だった。
……確かに幸の言う通りだった。
幸太が以外にも戦えるとわかった安心感やちょっとした雑談が弾んだ事でどこか安心しきってしまったというか大丈夫だろうと知らず知らずの内に思ってしまっていたんだな。
「すまない。今後は気を付けるよ」
「良いわよ。私も音が聞こえるまで気が付いて無かったし」
軽く幸太も気が付いてなかったでしょと確認している幸の表情に嘘偽りは無さそうで、幸太も気が付いていなかった事に対してか申し訳なさそうに俺を見て頭を下げてくる。
「取り合えず、今日はこの階で最後にして引き上げよう」
「わかったわ。幸太も良いわよね?」
「はっ、はい、大丈夫です」
時間的にも今の気分的にもこれ以上の探索は無理だと思って二人に言ってみると以外にも反対される事は無かった。
協会の買取カウンターで提示された額はなかなかの物になった。
やっぱり幸太の幸運の高さが影響したドロップ品の良さと数が良かったのだろうか。
チラリと幸に目を向けると金額に納得しているようで俺が見ているのに気が付くと頷いて問題無いと教えてくれる。
幸太に関してはその金額に驚いているようで俺たちの様子に気が付いていないようだった。
「問題無ければ此方にサインをお願いします」
ライセンスカードを差し出して書類にサインした俺は渡された書類を片手に二人に振り返る。
幸太も俺がサインしている間に我に返ったようだったが、初めて見る書類に興味が沸いたのかチラチラと視線を送っていた。
「この後に予定有る人はいる?」
俺のその言葉に二人は互いに顔を見ると直ぐに首を横に振った。
「特に私は無いわ」
「俺も特には」
二人の言葉に俺は心の中でガッツポーズする。
「なら、三人で飯でも食べに行こう!」
「別に良いけど、何処で食べるつもりなの? 私、流石にラーメンは嫌よ」
どうやら幸は何で誘ったかを察してくれているようで、その目には何か期待しているようだった。
あぁ、幸の時はちょっと誘うのを躊躇してそのままだったもんな。
「俺も良いですけど、何処にするんです?」
「そうだな、特に好き嫌いも無いようなら俺がいつも飯を食ってる店でも良いか? 勿論、ラーメン屋じゃ無いぞ」
疑うような目を向けてきた幸にそう返しながら幸太に確認するとそれで良いらしいので俺はいつもの店に向かって歩き出した。
足早に歩く俺から離れないように着いてくる二人の足跡を聞きながら俺は何を注文するかを考え始める。
「で、いつもの店ってどんな所なの?」
「ん? あぁ、分かりやすく言えば個人経営の居酒屋だな」
「それ、大丈夫なの?」
幸の言っている事が何に対してなのか分からないけど、メニュー的な事で言えばチェーン店より面白いメニューが有ったり、珍しい一品が有ったりと結構個人経営の店も良い物なんだよね。
それに余程の変な店じゃない限りは通う頻度が少なくても融通を聞いてくれる事も有るし、勝手に時間制限付けられる店でも無いし。
「何回も行ってるから大丈夫だって。それにもう着いたよ、ここ」
昔ながらの赤提灯が飾られた入り口の扉を開けて中に入っていく。
そして、俺たちはそこで今後の事を含めて話し合うのだった。




