11話
目の前で戦っている財前君はやっと慣れて来たのか最初よりも動きが良くなってきたように見えた。
流石に俺たちと一緒に潜る前にもダンジョンに潜った事が有るからかその動きはそこまで問題が有るようには見えなかったがまだまだの部分が有るようだった。
「お疲れ様。取り合えず、全部倒し終えたようだから少し休んでいて良いわよ」
「これ、飲み物な」
ちょっと息を乱している財前君に声を掛ける西郷さんを真似するようにアイテムボックスからペットボトルを取り出して渡す。
そして、財前君の事を西郷さんに任せて俺は落ちているドロップ品の回収を始める。
まだ十階にも到達していない為にドロップ品は全部が魔石でもおかしくない筈なのに所々に落ちている牙や爪、数は少ないものの毛皮まで有ると流石幸運がBなだけ有ると言えばいいのか……。
「よし、これで全部拾い終えたかな」
「あっ、ありがとうございます!」
どうやら財前君も息を整える事が出来たようでその後ろでこっちを見てる西郷さんも頷いている事から先に進む事になったのだろう。
「いいよいいよ。元々、財前君の力量を見るために戦いを一人でやってもらってるからこれくらいはこっちに任せてくれ」
そうなのだ。パーティーに入れてすぐに深く潜るなんてできない訳で入る人間のレベルが自分たちよりも低いなら尚更そんな事するよりも力量把握の為に何かしらしないといけない。というか、しない方が問題あるぐらいだ。
まぁ、この感じだとまだ余裕が有る様に思えるし、意外とスムーズに今までの探索速度に戻せそうな気がする。
「じゃあ、行こうか」
「はい!」
しかし、取引先の息子にしては凄く素直に話を聞いてくれるというか、今時珍しく感じるタイプだな、財前君は。
まっ、下手に偉ぶったりするようなのじゃないから楽で良いんだけどね。
さて、今日の所は何階まで行くかを西郷さんとこっそりと話し合わないといけないな……。
そこまで苦労する事無くたどり着いた十五階のセーフティーエリアで俺は気になっていた事を財前君に聞いてみた。
「財前君ってもしかして何か武道経験してる経験者?」
「あっ、はい。うちの祖父が道場を持っていてそこで少し手ほどきを」
「へぇー、だからあんなにも危なげなく戦えてたのね」
「西郷さんもやっぱり気が付いてました?」
「まぁ、ねぇ。でも、これなら……」
何か考え始めた西郷さんの様子から見ると財前君の合流は問題なさそうで良かった……。
取引先の息子だけ有って実は部長たちからそこまで危険な事はするなって言われてたし、西郷さん次第ではもの凄く厄介な状況になってただろうからな。
「にしても、本当に今日のドロップは良い感じだな」
「そうなんですか?」
「不思議そうに聞いてくるけど、ここまでドロップが良いのは久しぶりだよ。やっぱり幸運の差が出てるのかな?」
思い出すのは財前君のステータス。
レベルが低いながらも幸運だけBだったそれから考えると今日の結果は当たり前なんだろう。
ステータスも不思議な物だよな。レベルが高いからって絶対に良いって訳じゃないし、財前君の幸運みたいにレベルが低くても良い場合が有るんだから。
しかし、そう考えると俺のステータスって……。
「あっ、レベル上がってる」
「ん? あぁ、そりゃあんなけモンスター倒してれば上がるだろ」
「そうよ。今日は全部財前君が倒してるんだから」
そう言って喜んでる財前君の姿はまだまだ子供といえる様子で見ていると微笑ましく思う。
ついでに俺も自分のカードを確認してみる。西郷さんに見せた時以来、そんなに確認した事が無かったしな。
ID:00100235
名前:羽生進
血液型:B
レベル:45
力:D
敏捷:E
魔技:D
幸運:D
スキル
なし
特記事項
・異空間収納袋持ち
あぁ、俺もレベルが上がってる。多分、西郷さんと二人で潜っている間に上がってたんだろうな。
それに嬉しい事に幸運が一つ上がっている。これは本当に嬉しい。これで今後良いのが手に入ると嬉しいんだけど。
「その顔からすると羽生先輩も上がってたんですか? レベル」
「今日じゃなさそうだけどな」
「そうですよね。今日は俺が全部倒してますし」
「そんな事よりそろそろお昼にしましょう」
西郷さんのその言葉に俺は苦笑しながらも準備を始める。
しかし、お腹が空いたと言い出すが西郷さんとはなぁ……、てっきり財前君だと思ってたんだが。
まぁ、良いか。そんな事より昼飯を作るとしよう。
「財前君は特に好き嫌いは無いよね?」
「はい、アレルギーとかも特に無いです」
「ん、分かった」
取り合えずマナ式湯沸し器でお湯を作ってお茶を二人に差し出す。そして、その間に風間先輩が開発した『ワンタッチご飯』を使ってご飯を炊き、みそ汁団子を入れた器にお湯を注いだ。
さて、次は主菜を作らないとダメだけど肉ばっかりだったし、今日は魚を塩焼きにすればいいかな。
「よし、これで焼けた」
「出来ました?」
「いい匂いですね」
どうやら二人とも俺を待っていたようでご飯やみそ汁に手を付けてなく、俺が簡単に片づけて座ると食べ始めた。
「これって普通じゃあんまり考えられないんですよね?」
「そうね。アイテムボックス持ちがいないとここまでは無いと思うわよ」
「まぁ、そうだね。たぶん、財前君が今まで経験したのが普通だと思うよ」
財前君の言葉に西郷さんも俺も同じような事を言う。
納得したような顔で美味しいと言いながら食べる財前君は本当に微笑ましいものだ。
「この後についてだけど、もう少し潜ったら戻るっていうので良いかしら」
「はい、それで構いません」
「良いですよ」
食べ終わった後にコーヒーブレイクしていると西郷さんがそんな事を言ってくる。
まぁ、俺としては今日のドロップ品的にももう十分だと思うし、もうちょっとだけ財前君に付き合う感じでも問題無い。
「あの、お願いが有るんですが良いですか?」
「何かしら?」
俺が食器などを片付け終わるとふいに財前君がそんな事を言って俺と西郷さんを見つめる。
「その、たぶんなんですが今後もパーティーを組んでいただけると思うんですが……、堅苦しく話すのを止めませんか?」
「えっと、それは呼び捨てにしたり敬語を止めろって事かな?」
西郷さんとお互いに顔を見合わせた後、財前君に確認してみると頷くのが見えた。
んー、別に個人的には止めても良いとは思うけど、さてどうしたものか。
「俺の事は幸太で良いんで二人の事、進さんと幸さんって呼んでいいですか?」
「あー、俺は構わないけど……?」
「私もさんなんて付けなくて良いわ。だから、貴方の事も呼び捨てにするわ、進」
「わかりま……、いや、わかったよ、幸」
なんか地味に恥ずかしくなって視線を周囲に向けるとそこには何か嬉しそうに笑っている幸太の姿があった。
いや、そんなに嬉しい事なのか?
まぁ、この調子で仲良くやっていける分には何の問題も無いから良いかと思いながら俺は幸太の顔を見ていた。




