10話
月曜日という事で出社した俺は報告書を片付けるのに必死になっていると部長に声を掛けられた。
「羽生君、午後から会議が有るんだけど、その後に少し人事と話し合わないといけない事が有って君にも付き合って欲しいんだ」
「はぁ、別に問題は無いですが……。会議が終わった後という事ですけど、いつ頃終わるかとかは決まっているんですか?」
「あぁ、恐らく今回は15時頃には終わると思うからその時間になったら第二会議室に来て欲しい」
そう言うが早いか俺の返事を聞く前に忙しそうに自分のデスクに向かう部長。
取り合えず、15時に第二会議室――前に相模部長と三人で話した部屋に向かわなければいけない事を頭に入れて再び仕事に向き直る。
しかし、人事も含めて話す事とはなんだろうな。正直、思い当たる事は何も無いと思ったんだけど。
一瞬だけ西郷さんの事が脳裏に過るが特に問題が起きた訳でも無いし、しいて言うので有れば月曜日の業務をどうするかという相談ぐらいだろうか。
一応、西郷さんも今日は出社して俺のいる第二開発部で仮置きされているデスクで報告書を作っているが、これもいつまでこの形なのかなどまだ聞いていない事が有るしな。
それに俺も今は第二開発部所属だけど、今後は探索者部門への出向も有るだろうな……。
そんな事を考えながらも部長に聞いた時間までに仕事を終わらせるべくパソコンにむかうのだった。
「遅れてすまない」
「遅くなってすみません」
扉が開いて入ってくるなり部長も相模部長も謝ってくる。
それ程待ったつもりは無かったが、二人からすると時間よりも待たせた事が気になるようだった。
俺の向かいに座って会議で使ったであろう資料を置いた二人に俺は何の話なのかを尋ねる。
「それで話とは……?」
「今後の探索者の採用と入社後に関してですね」
「はぁ、それで……」
相模部長の言葉にだろうなと思いながら詳しく聞いてみる。
「現状で探索者の採用は新卒のみを考えています。正直、羽生君みたいな人が見つかる可能性は低いと思いますが、我々としても探索以外をしないとなると問題が出てくるのは見えてますので……」
「後はスカウトも考えてみたんだが、既にある程度の実績が有る探索者というのは他の企業の支援を受けている事も有るし、新人の育成となると新卒の採用と変わらないだろう?」
「えぇ、出来れば余程の事が無い限りはスカウトは止めた方が良いと思います」
脳裏に浮かぶのは西郷さんの事だ。
西郷さんの事を考えると下手な人間を入れるのは賛成できない。
「それでそんな話をしてる中で申し訳ないのですが……」
何か言いにくそうにこちらを見てくる相模部長の姿に部長を見ると申し訳なさそうな顔をしながら一枚の紙を差し出してくる。
ID:00399714
名前:財前幸太
血液型:AB
レベル:13
力:D
敏捷:D
魔技:C
幸運:B
スキル
なし
特記事項
なし
「あの、これは?」
「その、実は当社と取り引きを開始する企業のご子息でして……、この度、当社の探索者部門に入る事が決まりまして……」
「えっ、それはその大丈夫なんですか?」
「元々、前から決まっていた事のようで今回の探索者問題で一度は流れ掛けた話なんですが、羽生君と西郷さんの二人で探索状況を確認されたようで問題無いと……」
うわぁ、凄く面倒な事になりそうな予感が……。
どうやら二人から話を聞くと今回の俺の探索者業務も取り引きを開始するかどうかとそのご子息が探索者として活動する為の物だったらしい。
見せてもらった書類から判断すると学生探索者として活動していた事は分かるけど……。このレベルとステータスからすると30階には到達していないだろうし、西郷さんと考えていた予定が全部パーになりそうだ。
「それで来週の月曜日に顔合わせして探索に連れて行って欲しいのですが……?」
「はぁー、分かりました。来週からで良いなら問題は無いと思います。ただ、この先の事を考えると人数が増えてきた場合は別のパーティーとして行動してもらうかもしれませんが」
「それに関しては問題無いよ、羽生君」
既に入社自体が決まっているのだからここで断る事が出来ない。なら、先に条件というかふんわりとあり得そうな事態の事を伝えて予防線を張っておくに限る。
しかし、取引先のご子息か……。探索者になる事を認められているって事は後継ぎ候補では無いか何かしらも問題を抱えているかだろうなぁ。
「はぁー、取り合えずですがダンジョン内も含めて入社したら普通の社員として扱えば良いんですよね?」
「えぇ、そうね。そこに関しては本人も親も認めているわ」
「あっ、そうそう桐野さんに関してだけど、どうやらリハビリの様子と本人から今までみたいな探索者としての活躍はちょっと厳しいかもと言われているからね」
「えっ、本当ですか?」
マジか!? ちょっと予想外だなそれは。
西郷さんの動きを見て桐野さんが合流するならと思ってたんだけどなぁ。
「だから、第二開発部に配属するんだけどね」
「はぁー、分かりました……。因みにこの事は西郷さんも?」
「あぁ、その可能性が有るとは入院中に聞いた時から前もって伝えてたよ。一緒のパーティーだった事も有って入院中には薄々気が付いていたらしい」
なら、伝えるのは新人の事だけで良いのか。
取り合えず、今週の探索は予定通りにするとして来週からは新人の育成を含めた探索になるからまた深く潜る事は出来なくなりそうだなぁ。
「そうでしたか。なら、この後にでも話をして今週、来週の予定を決めたいと思います」
「それと探索者部門の事だけど、近いうちに専用の部屋を第二開発部の傍で確保する予定です。現状で必要となる備品をリストアップしてみたので西郷さんに渡して貰えるかしら?」
「備品の変更などは私を通してくれれば対応できるようになっているから。もし、羽生君が西郷さんから何か預かったら一度私に渡してほしい」
そう言って相模部長は備品のリストを、部長は変更に使う書類を俺に差し出してくる。
「あと人が増えるまでの間は羽生君には一時的に探索者部門に異動してもらう事になった。勿論、無理を言う代わりに主任としての異動になるから」
「えっ、本当ですか?」
「あぁ、やる事自体は今と変わらないし、部屋ができるまでは第二開発部に来てもらえば良いからそこまで変な事はないよ」
部長はそう言うと一度確認するように相模部長の方を見る。相模部長も言っている事に間違いが無いようで頷いたのが見えた。
「では、話というのはここまでという事で私は戻らせて貰いますね」
「あっ、はい。ありがとうございました」
席を立った相模部長は忙しいのか置いていた書類を手に取ると直ぐに部屋から出ていった。
相模部長を見送った俺と部長も少し後に席を立つと第二開発部の部屋に向かって移動するのだった。




