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1話

 その日、世界は管理者と名乗る存在によって変化を遂げる事を告げられた。


『あー、マイクテス、マイクテス? えー、我が世界に住んでる住人たちに告げる!』


 脳内に直接語り掛けてくるそれに辺りを見渡す者、自分の頭に手を当てて不思議がる者、気のせいとして無視する者など各々が様々な反応を見せる中でそれを無視するように声は続いた。


『俺はこの世界を管理する管理者だ! ここ最近、お前たちの生きる姿が見ていてあまりにも面白くないから少し手を出すことを決めた!!』


 そして、管理者からはこれから世界各国に迷宮又はダンジョンという物が誕生する事、信じてもらう為に十日後、アメリカ、イギリス、ロシア、中国、日本、エジプト、ブラジルのダンジョンを一つずつ誕生する事、ダンジョンの脅威を知ってもらう為に誕生と共に中からモンスターが溢れ出してくる事、全ダンジョンが誕生するのはそれから二十日後になる事などが伝えられた。


『因みにダンジョンは最下層に到達しない限りは消えないから頑張って攻略してね。あっ、勿論だけど最下層まで到達出来たら俺からご褒美を上げるからね』


 そう言って終わりを告げた管理者からのメッセージ。

 内容が内容だっただけ有って大半の市民はただの幻聴だろうと思ったようだがそれは直ぐに政府からの緊急記者会見で考え直される事になった。

 どうやら管理者は各国首脳陣に対しては他にも情報の提供を行っていたようでその内容の発表はほぼ全ての市民に現実だと認識させるには十分だった。

 そして、ついにその日がやってくる。

 政府は流石に時間までは指定されていなかった為に前日から警察などの治安組織や軍隊をダンジョンが誕生する予定の場所に派遣し、その辺り一帯を関係者以外無人の状態にしていた。

 いつそれが来るか分からない状況。日付が変わっても現れなかった変化にまさかの事態が全ての人の脳裏に過った正午にそれは訪れた。

 一番最初に気が付いたのはヘリを飛ばして警戒線の外側から中継をしていたマスコミだった。

 女性リポーターの指差す先にカメラが向けられ、その変化が世間の目に晒される。

 数分前にはなんの変哲もなかった場所に突如黒い何かが現れる。そして、その中心がねじれ始めると周りの風景も合わせるようにねじれ始め、何かに合わせたように一瞬だけ眩しく光るとそこには大きく口を開けた洞窟が出来ていた。

 そして、警戒しながら人が近づこうとした瞬間だった。

 一匹の角の生えたウサギがその洞窟から出てきて辺りを見渡す。周りにいる人の姿を確認したウサギは一度考えた素振りを見せたかと思うと不意に後ろを見た。

 まるでそれに合わせるように洞窟からボロボロの斧が一直線にウサギの頭に突き刺さる。そして、洞窟からはそれを投げただろう存在が洞窟から姿を現す。

 身長は小学生ぐらいの大きさで人間ではありえない緑色の皮膚に見窄らしい布というよりも毛皮といえる物を腰に巻いたそれは醜い顔でウサギと同じように辺りを辺りを見渡した。

 あまりにもショッキングな光景を見てしまった周りの人間の様子に何を思ったかそれは大声を上げる。すると洞窟から更に似たような恰好をしたそれらが出てきた。

 全部が最初の一匹のように辺りを見渡した後、互いに頷きあうと大声を上げて周りを取り囲んでいる人々に飛び掛かり始める。

 急な事にそのまま押し倒されてしまう者や斧で切りかかられる者が出る中で現場に混乱が広がる中、まるで止めを刺すかのように大きな音が洞窟から聞こえてきた。

 一瞬、全ての者が動きを止めて洞窟に視線を向ける。

 そして、その視線に答えるかのように音の主たちは洞窟から勢いよく姿を現し、その勢いのまま辺りを蹂躙し始めた。

 あまりの事態に襲われていた人たちも襲っていたはずのそれも無防備に巻き込まれ、息絶えていき、ダンジョンの周りに有った建物もその勢いには耐えきれず崩れ落ちていく。

 そして、あまりの光景に中継していた番組も急遽スタジオにカメラを映してその惨劇を流さないよう対応する。

 もっとも、ダンジョンに住んでいた某動画サイトの実況者が避難もせずに隠れて自宅から実況していた為、それを知っていた人間は実況者が自身の最期まで映し、運営が止めるまで放送し続けたそれを見ていた。

 次に現場にカメラが向けられたの中継が打ち切られてから数時間後の事だった。ダンジョンの周りに無事な姿で残っていたのはダンジョンの入り口とその後ろに有った建物だけだった。そして、その周りでは無残な姿になった同僚たちや正体不明の生物を暗い表情をしながら片づけている警察などの姿が有った。

 この悲劇の後にダンジョンへと派遣された調査隊の結果から今までには存在しなかった物が多く見つかり、世界規模で人々はダンジョンへと駆り立てられダンジョンバブルが発生した。

 それに合わせて先駆けた形で日本ではその結果からダンジョンに専門的に入る職として探索者というものを作り、それを管理する国営団体を全日本探索者協会を設立。

 これは当時の副総理が陣頭指揮を執って推し進めた結果で若者の熱い支持も有って内閣支持率は良いものとなっていた。

 また、この事から未だに警戒線の内側には政府が決定した調査隊以外の人間がダンジョンに入れていない事が問題になったが、最初の映像が色濃く残っていた影響か無理にでも入ろうとする人間はそれほど多くなかった。勿論、いなかった訳では無いために時折逮捕者が出ていたのはご愛敬だろう。

 ただし、これは日本や一部の国に限った話であった。

 ダンジョンの出来た国の中には対応出来ずに国民が中に入ってしまい、そのまま戻らなかったという話も多くあった。

 そして、各国で様々な考えが広がる中でついに日本が先陣を切るようにダンジョンの一般開放を開始した。




 ダンジョンが誕生して数年。

 俺は当時の高校での友達との思い出を思い出しながら電車に揺られていた。

 今ではあまり連絡を取る事の無くなったそいつらは今も元気にダジョンに潜っているだろうか。

 あの当時、俺は親の反対も有ってそいつらよりもダンジョンに潜る事は少なく、高校卒業後も探索者になるのではなく、大学に進学という手堅い選択肢を取った。

 その時は今ほどダンジョンに関係する事が少なかった為、問題無いと思っていたが今ではそんな事が無くなってしまった。

 そう、『全てはダンジョンにある』などという言葉が出来るぐらいに当たり前に様々な物が見つかり、そこから研究が進んでエネルギー問題などの事が解決してしまった。

 その為に今では大半の企業は何かしらダンジョンからの恩恵を受けている。

 そんな事を考えながら電車を降り、駅から歩いて勤め先でもある株式会社シーキングファクトリーの社屋にたどり着く。


「結局、俺もダンジョン関係の会社に就職してんだもんな」


 今思えば無理にでも親の反対を押し切って探索者になるべきだったかな。

 ふとそんな事を思った自分に苦笑しながら自分の職場―――第二開発部の扉を開けた。


「おはようございます!」


「おぅ、もうそんな時間か……」


「また、泊まったんですか、部長」


 いつも誰かしら先に来ている事からあいさつしながら入った俺を出迎えたのは寝ぼけ眼でソファーから身を起こした部長―――時田真九郎(ときたしんくろう)だった。

 確か昨日は特に問題も無かったはずなだけに部長が泊まり込んでいる事を不思議に思ったが、取り合えずは仕事の準備に取り掛かる。


「まぁ、ね。そう言えば、羽生君って探索者ライセンス持ってたよね?」


「えぇ、Dランクですけど」


「そっかそっか。……いけるか」


 後ろから部長に聞かれた事を答えると何やら納得したような声と共に何か呟いていたような気がした目の前の事に気を取られていた俺は気にする余裕は無かった。

 そして、徐々に出勤してくる先輩たちに合わせて賑やかになっていく職場にそんな事すらも直ぐに忘れた俺はこの後に後悔する時が来るとも思わずそれに交じっていくのだった。

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