041,カラオケ
資金面での不安はほとんどないのだが、この間開いた試食会で、オーナ嬢から書類を受け取った。
その書類には、どうやらオレがギテールの街にいたころに話した内容が特許として受理されたことへの報告と、特許料について書かれているようだ。
たとえば、この世界には将棋のような盤上遊戯があるので、リバーシやチェス、将棋といったものは既得権益も含めて新参者が入り込む余地はなかった。
では、既得権益を侵しても力と権力でねじ伏せられるものであれば?
それをまさにベテルニクス商会がやってのけた。
特許の受理にかなり時間がかかったのは、やはり色々と根回しなどが必要だったからだそうだ。
だが、こうして無事特許が受理され、オレへ特許料が支払われることになった。
もう毎回のことなので、オレの名義が勝手に使われていることに関してはスルーしている。
どっちみち、オレでは逆に権力に潰されるだけの案件だし、本来ならオレへ特許料を払う必要なんてない。
ベテルニクス商会の完全な善意であり、そして、既得権益を持つものたちへの牽制でもある。
オレの名義を使っているのも、ベテルニクス商会が完全に根回ししてお膳立てを整えるほどの人物だという表明でもあるのだ。
……着々と外堀が埋められている気がする。
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ところで、オレのゴーレムたちは、現在ストレリチアの活動している迷宮中層の四十階層でも問題なく稼働し続けている。
だんだんストレリチアたちも迷宮探索の速度が低下してきたが、これでもほかの探索者に比べれば格段に早い部類だ。
肉体改造と強力な魔道具、ゴーレムAIを使った各種装備と魔法袋による潤沢な物資、教官たちによる事前の迷宮情報と訓練があってこそだが。
特に、ゴーレムAIがオレとかなり距離が離れても稼働し続けている事実が、次の段階へと至るための後押しになりかけている。
ゴーレムは通常、一定距離を離れると命令を受けていても活動を停止してしまう。
これは、ゴーレム使いからゴーレムに対して何かしらのパスが通っていて、そのおかげで柔軟に命令を実行できていると考えられている。
ゴーレム使いに繋がることで、ゴーレムの情報処理を肩代わりしているのではないかといった論文が発表されていたのだ。
そうでなければ、極単純な命令でも行動をひとつひとつ正確に指定しなければ操作などできるものではないからだ。
そのパスも、未だ空想の域を出ないものとして扱われているが。
ただ、もしこのパスが魔力を使ったものであるのならば、日にゴーレムを千体近くも生成しても問題なくなった、オレの膨大な魔力量が長距離のパスを維持し続けていると考えると納得がいく。
さらに、情報処理の肩代わりも、オレの脳や心身に負担がかかっていない点からみて、パスを支える魔力が処理しているのではないだろうか。
魔力量だけみれば、オレは異常なレベルになっているのだから。
ただ、魔力操作が一流のレベルになると、他人の魔力をみることができるようになる。
だったら、ゴーレムに繋がるパスだってみえるはずだが、一向にそんなものはみえない。
研究だってされていても不思議ではないのに、そういった論文もみつかっていない。
きっと、魔力に関わることだが、それ以外の何か不明なものがあるのだろう。
ともかく、オレのゴーレムとオレは長距離を隔てても繋がっている。
これが大事だ。
一体一体への命令は、それなりに距離が近くなければできないが、事前に命令しておけばゴーレムAIを使って複雑な情報の取得が可能だ。
たとえば、現在の到達階層や、ストレリチアたちの生存状況などだ。
しかし、そのやり取りをするだけでも、大昔のパソコンのような巨大で複雑な魔道具が必要になっている。
必要とする魔力もかなり多いため、魔石バッテリーがなければ実用化できなかっただろう。
それに、魔法袋がなければとてもではないが持ち運びなど不可能だ。
それでも、迷宮内の情報をほぼリアルタイムに取得できるのだ。
この世界からみれば革新的な技術であることに変わりはない。
もちろん、外部に渡すつもりは毛頭ないが。
この辺りの研究は、現代の電子機器に慣れ親しんだオレと宮園嬢が頑張っている。
まあ、宮園嬢のおつむはお察しなので、基本的には雑談程度のものだ。
それでも、この世界には存在しない電子機器について理解がある宮園嬢との雑談は、ほかの何よりも刺激になる。
忘れていることだって多いからね。
それに、宮園嬢はたまに、とてもよい刺激をくれるときがある。
本人はただの雑談と思っていても、オレにとっては非常に有益な発言だったりすることがあるのだ。
たぶん、ミーナ嬢やオーナ嬢、ドルザール氏がオレと雑談を交わして得たものと同じようなものなのだろう。
この前も、カラオケがしたいといい出したことがある。
歌や楽器は、色々とこの世界にもある。
ただ、現代日本のカラオケマシーンなんてものは当然ないので、やるならアカペラか演奏者たちを集めて演奏してもらうか、だ。
後者は当然金がかかる。
簡単にやれるものではないし、宮園嬢がいうような気軽なカラオケではない。
だが、彼女がこんなことを言い出しのにも理由があり、オークションで手に入れた魔導書に、誰も知らない魔法が殴り書きのように片隅に書かれていたのだ。
音を魔力に分解する魔法と、魔力を音に変換する魔法、というものだ。
要するにこれ、音声通信のための魔法だ。
ただ、問題がいくつかあり、音を魔力に分解するときに方向性を示さなければ適当なものになってしまう。
魔力を音に変換する魔法も同様で、適当に魔力を変換すれば適当な音しかでない。
肝心な部分が抜け落ちているので、研究途上か思いつきをメモしていただけなのかもしれない。
実際に、これらが実用されていればもっと情報伝達の分野でこの世界は発展していただろう。
肝心な部分がなかったが、オレにはゴーレムAIがある。
音を魔力に分解する際に、ゴーレムAIを通して処理可能な情報という方向性とセキュリティを付与すれば、同じ音ならば同じ形に分解されるようになった。
これで、同じ音を何度でも出すことが可能となり、非常に簡単ながら遠隔地に声を届けることができるようになった。
どちらも魔力の消費が膨大なために、なかなか気軽には使えないのだが。
あと、ついでに魔力に分解された音を何かしらの媒体に刻むことで、刻まれた情報をゴーレムAIが読み取り、魔力に変換できるものも作った。
曲を録音して、いつでも再生できるようになったのだ。
記憶媒体は未だに魔力伝導率が比較的高く、安価な物質――銅板なので、一曲分でもかなりの量になってしまっているが。
まあ、レコード盤みたいなものである。
宮園嬢は昔ピアノを習っていた時期があったそうで、楽譜も読めれば書ける。
こちらの世界にも楽譜があるので、それを勉強して演奏させ録音したのだ。
毎日遅くまで頑張っていたようなのだが、すべてはカラオケがしたいという一念の賜物である。
家庭教師なども雇ってかなり本格的にやっていたのだが、その費用はすべてオレ持ちだ。
非常に有益な情報を齎してくれたので、金を出すくらいなら別に構わない。
尚、一曲再生するのにもかなりの魔力を食うので、カラオケのために宮園嬢が迷宮へ赴く頻度が増した。
最近はめっきり迷宮へ行く回数が減っていたので、彼女の能力が完全に持ち腐れになっていたのだが、これで少しは神にもらった魔法の才能が向上するだろう。
なので、再生用の魔石は自腹である。
すでに、お風呂上がりの一曲が日課になりつつあるようだし。
ちなみに、彼女の歌声は美声というほどでもなく、至って普通だった。
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宮園嬢のカラオケ熱は留まることを知らず、ミリー嬢も巻き込んで一部の使用人たちにまで伝播してしまった。
迷宮都市で有名な童謡から現代日本の歌謡曲まで、結構な数の銅板が製作され、管理が大変になったのでジュークボックスを作ってみた。
ついでに、手軽に魔石を交換できる専用の大きな魔石バッテリーと、宮園嬢たちが用意した歌詞カードも自動的にセットされるようにした。
ジュークボックスは、記憶媒体としての銅板がそもそも一曲分でも大量になるので、必然的に幅をとる。
使用人も使うようになって、魔法袋への収納は機密保持の観点からもできなくなってしまったのだ。
用意した部屋はすでにカラオケルームという名前になっている。
使用人たちも一般的な使用人より高給なため、毎日一曲くらいなら問題なく魔石代を出せる。
大勢で使えばそれだけ長い時間歌えるのもあるし、ストレス解消にもなるので、大変喜ばれた。
特にメイド長のケイシーが一番最初にハマっていたのが効いたのだろう。
モリスは頭を抱えていたが。
オレも、迷惑にならず、日常業務に支障がでないならと許可していたし。
そんなことをやっていれば、当然ベテルニクス姉妹の耳にも入る。
だが、元々カラオケという文化はないし、歌を歌うというのもそこまで魅力的には映らなかったようだ。
……試食会の日までは。
どうしても食べたいもの以外は、試食会には顔を出さない権力者に弱い宮園嬢とミリー嬢なので、その日もカラオケルームに入り浸り、熱唱していたのがこちらまで聞こえてきてしまった。
屋敷内に完全防音の設備はないが、外にまで聞こえるほどではないので油断していたのもある。
一応、カラオケルームのことは耳にしていたふたりなので、少し気になって試食会終わりに見学したいと言い出した。
あとはもう、ジュークボックスというどうみても商機にしかみえない魔道具と、宮園嬢たちの熱唱ぶりを目の当たりにして、ふたりが興味を持たないほうがおかしかった。
カラオケ仲間が増えると直感した宮園嬢の誘いに従い、あっという間にベテルニクス姉妹もカラオケの楽しさに気づいてしまったというわけだ。
もちろん、消費魔力の膨大さや一台作るのにもとんでもない労力がかかるジュークボックスなので、外に出すのは断ったが。
こうして、ベテルニクス姉妹が試食会以外でも我が屋敷を訪れる理由が増えてしまったわけだ。
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